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第9回:イノベーションに効く翻訳書05:『イノベーションへの解』 なぜd.schoolの教科書は「ジレンマ」ではなく「解」なのか-破壊的イノベーションの捉え方

  2013/12/13 08:00

「顧客の用事は何か」という根源的な問いは、今も昔も変わらない

 イノベーションを起こすうえで欠かせないものは、「顧客のニーズ」だ。個人・法人を問わず、顧客の日常には片付けるべき様々な「用事」がある。その用事を片付ける優先順位が高ければ、顧客は製品やサービスを「雇う」ことになる。たとえば、眠気がある時にコーヒーを「雇う」ことで「眠気を覚ます」という用事が片付く。

 興味深いことに、顧客が片付けたい用事そのものは時代の変化にあまり影響を受けない。たとえば、デジタルカメラが存在しなかった頃を考えてみたい。当時は撮影内容をすぐに確認できなかったため、誰かのまばたきが写っている可能性を考慮し、同じポーズで何枚も写真を撮っていた。

 また、フィルムを現像する際には、出来上がった写真を関係者に送るため、予備の写真を多く焼き増ししていた。出来上がった写真は確かに関係者の目に触れたが、額に飾りでもしない限りどこかにしまわれていた。アルバムで整理をする人もいたかもしれないが、整理はそこまで優先順位の高い用事ではなかった。

 このような状況は変わらないまま、デジカメが登場した。デジタル化により、アルバムを日付や撮影場所で整理することは飛躍的に簡単になった。しかし、実際にそうする人はあまりいなかった。

 なぜだろうか。「写真を整理する」という用事は優先順位が低いからだ。スマートフォンで手軽に撮影ができるようになった現在でも、顧客がやっていることといえば「写した後にすぐ内容を確認する。もし、まばたきや手ブレがあればその場で撮り直す」ということや、「撮影した写真をSNSにアップして関係者に見てもらう」ということだ。

 結局のところ、顧客が優先したいのは「綺麗に写真をとること」「その写真を周囲に見せること」だ。「極めて簡単にアルバム整理ができる機能」が揃ったデジカメがあっても、優先順位が低いためにその機能は評価されない。

写真に関する用事を簡単に片付けてくれる「インスタグラム」

 21世紀においてインスタグラムが爆発的に流行ったのも、「綺麗に写真をとる」という用事をうまく片付けてくれるからだ。「数回のタッチでプロ風の綺麗な写真に編集できること」は、古くから顧客が抱えていた「綺麗に写真をとる」という用事をシンプルかつスマートに片付けてくれる。


著者プロフィール

  • 柏野 尊徳(カシノ タカノリ)

    岡山県出身。専門はイノベーション・プロセス。スタンフォード大学d.schoolでイノベーション手法:デザイン思考を学ぶ。同大学発行の『デザイン思考家が知っておくべき39のメソッド』監訳など、デザイン思考関連教材は公開6ヶ月でダウンロード5万件。岡山大学大学院で3年間教鞭を執った後、慶應義塾大学SFC...

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