ハードウェアの拡大ペースは鈍化するが、構成比は50%弱と市場の屋台骨を支える
IDCではICT市場をハードウェア、ソフトウェア、ITサービス/ビジネスサービス、通信サービスに分類し市場規模を予測している。これら4分野の中から、働き方改革の主目的である労働時間の短縮、労働生産性の向上、柔軟な働き方といった取り組みをサポートするICT市場の規模を積み上げ、働き方改革ICT市場として算出した結果、同市場は2016年~2021年の年間市場成長率(CAGR: Compound Annual Growth Rate)が7.9%と高成長が見込まれ、2021年には2兆6,622億円の規模に達するとIDCは予測する。
成長率が最も高い分野は、ITサービス/ビジネスサービスで同CAGRが19.8%、続いてソフトウェアが11.9%、ハードウェアは3.7%、通信サービスは2.6%と予測している。ハードウェアについての拡大ペースは鈍化しますが、2016年の働き方改革ICT市場における構成比は50%弱と、同市場の屋台骨を支える市場となっている。
2016年~2017年は、働き方改革といえば残業時間の短縮、育児や介護と仕事の両立、また企業における労働実態の把握と改善に関する取り組みが取り上げられることが多くあった。政府による働き方改革実行計画や残業上限規制の動きが、企業のこうした取り組みに拍車をかけたことは否めない。
一方で、働き方改革をサポートするICTに関する取り組みとしては、以前から企業におけるモビリティハードウェア、例えばノートブックPC、タブレット、スマートフォンの導入や利用は進んでおり基本的なハードウェア環境は整っている。しかし、生産性の向上や柔軟な働き方を実現するために、ハードウェアを最大限に活用するためのソフトウェアの導入、システムの構築や既存システムへの統合、システムの運用/管理といったITサービス/ビジネスサポートの活用は発展途上であると言える。
2018年以降は、物理的な残業時間の削減の段階からICTを活用した抜本的な労働生産性の向上や柔軟な働き方の実現へと企業の取り組みが一段と進むとIDCでは考える。テレワークの環境整備に向けた業務ツールのクラウド化やモバイル機器利用の拡張にともなうセキュリティ対策の強化、モビリティ機器管理ツールの導入などが進むとIDCではみている。
生産性の向上を本格的に追求する企業はさらに進んで、業務の棚卸しを実施し、棚卸しに基づいて業務効率化ツールを導入し、既存システムとの統合に対する需要も拡大すると予測される。それらのツールの中にはAIが搭載されたものもすでに出現しており、業務効率化への需要を一層刺激すると考えられる。
企業文化が改革を阻む可能性があることなど、克服すべき課題も
今後、労働生産性の向上や柔軟な働き方の実現を掛け声だけで終わらせないために克服すべき課題が3つあるとIDCでは考える。
まず、ソフトウェアの導入と活用が充分ではないこと。例えば、紙の書類を使用するビジネスプロセス(稟議、経費精算、様々な資料など)、オフィスに集まって実施する会議、情報共有や意思伝達のツールがほぼeメールに限られていることなどは、スピーディーな意思決定や円滑なプロジェクト実行上の阻害要因となっている。
2つ目は、企業文化が改革を阻む可能性があること。仮に最新のソフトウェアを導入したとしても、従業員が新しいテクノロジーを積極的に活用する能動的な態度が醸成されていない、また、社内のeメールでも儀礼的な挨拶文や長文を送ることが習慣となっている企業において、チャットのようなツールが組織の上下間でも問題なく利用されるのかといった懸念がある。
最後に、企業の様々な規則や制度が柔軟な働き方に対応できないこと。オフィス以外で仕事をすることが原則的に禁止されている、社外での残業を禁止するために会社のノートブックPCを社外に持ち出すことは禁止されている事例が少なくない。企業では、法律に基づいて従業員の労働時間を管理/監督する義務があり、そのために労働時間と労働場所に関する制約が存在しており、硬直的な働き方の打開には時間を要する。また、人事評価制度についても、短時間で成果を上げた従業員を評価するといった見直しも必要となる。
IDC Japan PC,携帯端末&クライアントソリューション グループマネージャーの市川和子氏は「働き方改革を成功させ成果を持続させるには、ICTツールの導入や活用に留まらない視点で企業を改革することが必要となる。例えば、企業文化、人材、評価制度、勤務形態といった広範な領域に目を向ける必要がある」と分析している。
今回の発表は、IDCが発行したレポート「国内働き方改革ICT市場予測、2017年~2021年:ハードウェア、ソフトウェア、ITサービス/ビジネスサービス、通信サービス別」にその詳細が報告されている。