ユルゲン・ミュラー氏はSAP本社のチーフ・イノベーション・オフィサーとして、イノベーションに関するSAPのさまざまな取組みを統括している。7月30日に行われた記者会見で、これまでのSAPのイノベーションの取り組みについて説明した。
SAPのイノベーションの研究や取組みの拠点となるのが、創業者の名前を冠した「ハッソ・プラットナー・インスティテュート」(HPI)だ。HPIはドイツのポツダム大学の関連校としてSAPを退任したハッソ氏の資金提供で1998年に創立されている。
その流れを組むSAP Innovation Centerはドイツ以外にも、シリコンバレーなど世界中に展開されている。
ミュラー氏はHPIでプラットナー氏との共同研究に携わった経験を持ち、インメモリーデータベースなど数多くのプロジェクトに貢献とその成果を買われ、2016年にSAPで最初のチーフ・イノベーション・オフィサーに任命された。本社CEOのビル・マクダーモットの直轄の立場となる。
SAPのイノベーション創出活動は、新たな顧客経験の創出、スタートアップ・ベンチャーの支援によるエコシステムの形成を目的としている。またSAP自身の変革も重要な狙いであり、その最大の成果が、SAP HANAであったという。
SAP HANAは2006年に、それまでのSAPの主力製品分野のERPとは異なるデータベース製品として、HPIで生まれた。SAPにとっては未知の領域(Horizon3)であったHANAは、2011年に製品として市場投入され(Horizon2)、現在では主力製品(Horizon1)となっている。このようなイノベーションをビジネスに結びつける仕組みとして、テクノロジーを支援する「SAP Innovation Center Network」、事業化を推進する「SAP iO Venture Studio」がある。こうした実績により、SAPはボストン・コンサルティング・グループ(BCG)やトンプソン・ロイターから、イノベーティブな企業としてランキングされるに至った。
現在の戦略は、AI・機械学習、IoT、アナリティクスといったテクノロジーをコアテクノロジーと、顧客管理、サプライチェーン管理などのサービス群と、そしてそのためのプラットフォームという3つの領域で構成され、SAPはこれらを総称して「インテリジェント・エンタープライズ」と読んでいる。
とくに重要なのは機械学習であり、「Leonardo」を中心とした画像・音声・テキストなどの解析技術によるエンタープライズ分野でのサービスを拡充していくという。機械学習の予測分析をさらに進化させることによって、従来のアナリティクス市場を再定義していくという。
さらに、SAPが今後注力するイノベーションとしてブロックチェーンがある。SAPはHyperlegerやBlockchain Research Instituteなどの中核的なメンバーでもあり、今後、分散台帳技術をSAP製品にも取り込むとともに、多くの企業とブロックチェーンで協業していくと語った。