デル・テクノロジーズは、アジア太平洋および日本(以下、APJ)地域において、メディアブリーフィング「Predictions 2025」を実施した。
同ブリーフィングでは、グローバルCTO(最高技術責任者)兼CAIO(最高AI責任者)のジョン・ローズ氏とAPJ地域担当プレジデントのピーター・マース氏がホストを務め、2025年以降にテクノロジー業界を再編する可能性がある新たなトレンドにフォーカス。企業がこれらのトレンドをうまく捉えてAPJ地域におけるイノベーションの機会を活用していくうえで、デル・テクノロジーズが顧客のパートナーとして果たしている役割に重点を置いて進められたという。
AIエージェントアーキテクチャーの台頭
ローズ氏は、「AIエージェント」が、ヒューマンAIインタラクション(HAI)におけるパラダイムシフトを示すものになると予測。「AIエージェントは、2025年を定義する言葉になるでしょう。AIエージェントはAIテクノロジーの決定的な進歩であり、AIアーキテクチャーのアプローチを大きく前進させるでしょう」と述べる。
マース氏もローズ氏の予測に同調し、「APJ地域ではAIの準備と導入が急速に進んでいますが、膨大な投資がこれを後押ししており、その規模は2028年までに1100億ドルに達すると予測されています。この成長は、APJ地域全体を通じたAI対応データセンター市場の急成長ぶりからも明らかです」と述べた。ローズ氏が予想しているように、これらのエージェントシステムの複雑さが増すことで、多様なアーキテクチャーをサポートできるようにテクノロジーも急速に進化することが求められるとのことだ。
エンタープライズAIの成功をスケーリングするための戦略
ローズ氏が述べたフレームワークをベースに、ブリーフィングでは、AIを効果的にスケーリングすることの重要性についても触れられたという。企業は、AIのイニシアチブから目に見えるROI(投資利益率)とビジネスバリューを引き出すことを一層重視するようになっており、多くの場合CAIO(最高AI責任者)やCIO(最高情報責任者)をリーダーとする専任のAI委員会を設けているとしている。この実践的なアプローチは、生成AIのパイロットプロジェクトの成功率の上昇に反映されているという。
マース氏は、次のように述べた。「APJ全域にわたり、AIの成熟度合いには偏りがあり、既存の展開環境のスケーリングに注力している企業もあれば、いまだに基本的なインフラ、人材、サービスニーズに対応している企業もあります」。マース氏は、より成熟したAI導入の例として金融サービスの分野を挙げている。金融サービス業界では、不正検出にAIを活用し、顧客サービスにデジタルヒューマンを展開する企業が増えているという。一方、医療分野では依然として、AIを活用した診断ツールや患者ケアの合理化のサポートに必要な基盤インフラとデータ管理機能の構築に注力している組織もあるとしている。
企業がAIのスケーリングを成功させるためには、自社にとって最も影響力のあるプロセスの優先付けを行い、再利用可能で拡張性に優れたAI基盤を確立しなければならないという。マース氏は、APJ地域におけるAI導入の成功例を紹介し、エンタープライズAIの導入に対するローズのビジョンを裏付ける形で、「多くの組織がAIを活用し、サイバーセキュリティーの強化、クラウドサービスの最適化、学習環境のパーソナライズ、映画制作の変革を実現しています」と述べる。
地域に即したイノベーションのためのソブリンAIの導入
ローズ氏が重点を置いた重要なトレンドの1つが、ソブリンAIの台頭。ソブリンAIとは、各国が自国の文化、言語、データセキュリティーのニーズに合わせてローカライズしたAIエコシステムの構築に関する取り組みだという。ローズ氏は、ソブリンAIのコンセプトでは、自国独自のインフラストラクチャーとデータを使って、AIから価値を引き出して差別化を図り、自国の知的財産と優先事項を反映したエコシステムを育成するという、国としての能力に焦点が当てられると説明した。
特に、ソブリンAIには多様なアプローチがあると、ローズは述べる。国家レベルのAIリソースを構築して、官民の両方にコンピューティングパワーとデータ容量を提供している国もあれば、政府がインフラを整備するのではなく、民間企業が積極的な共同設計を通じて、AIエコシステムをモダナイズしてリードするように奨励する共同戦略を進めている国もあるという。
AIテクノロジーの融合
ローズ氏のプレゼンテーションでは、AIと他の新興テクノロジーの融合がメインテーマの1つだとしている。ローズ氏は、AIの真の可能性は、他の新興テクノロジーとのつながりにあるとし、量子コンピューティングやインテリジェントエッジ、ゼロトラストセキュリティー、6Gテクノロジー、デジタルツインといった分野における進歩と、AIを組み合わせることによる相乗効果の可能性を強調。量子コンピューティングとAIの組み合わせは、数多くの業界にとってゲームチェンジャーになると予測されているという。これら2つのテクノロジーの組み合わせは、材料科学や創薬、最適化問題など、これまでのコンピューティング手法では限界があった複雑な分野へAIを応用するために、必要なコンピューティングパワーをもたらすとのことだ。
ローズ氏は、AIが通信ネットワークの運用に革命をもたらすとともに、PCをAIインフラストラクチャーに欠かせない構成要素へ変えるなど、様々な業界に与えるAIの幅広いインパクトについても指摘。デル・テクノロジーズの製品をはじめとする、AI向けに最適化されているPCの普及、またオンプレミスAIソリューションの導入の増加は、AIが広範なテクノロジーエコシステムに広く統合されている状況を実証しているという。
AIの進化が労働力の形を変革
未来の働き方に関するローズ氏のビジョンでは、AIが労働市場にもたらす変革的なインパクトを強調しており、企業は人材のAIフルエンシー(AIを活用する能力)の開発に投資しなければならないとしている。AIエージェントが多くのルーティン的なタスクを処理するようになるにつれ、人間が果たす役割は、よりレベルの高い戦略的な思考や創造的な問題解決、複雑な意思決定に注力するようになるという。
ローズ氏は、次のように指摘している。「AIは高いレベルの仕事を生み出しているだけでなく、インフラへの膨大な投資を後押しする要因にもなっており、雇用の創出に大きなプラスの効果をもたらしています。AIが簡単かつ反復的に行える基本的な仕事もあります。その一方で、ソフトウェアコンポーザーやAI通訳者、熱配管工など、あらゆる場所で新しい仕事が生み出されているというすばらしい側面もあります」。
APJ地域の人材とリソースのギャップに対するマースの見解は、この地域におけるスキル開発の喫緊のニーズを浮き彫りにしているという。AIの未来は、人とAIのコラボレーション、また組織とそのテクノロジーパートナーのコラボレーションにかかっているとのことだ。マース氏は、「今後を見据えたとき、人とAI、そして人と人の強力なコラボレーションが、お互いが共有するデジタルの未来を推進していく鍵になるでしょう」と述べている。
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