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ドイツから日本へ本格参入、日本の大企業が抱える「本社と現場の情報格差」をAIで解消できるか?

 Staffbase(スタッフベース)は2025年11月27日、“AIネイティブな従業員体験プラットフォーム”と称する「Employee AI」の発表にともない、記者向けの説明会を開催した。

Staffbase Japan カントリーマネージャー 赤平百合氏
Staffbase Japan カントリーマネージャー
赤平百合氏

 同社は、2014年にドイツ東部の都市ケムニッツで創業されたユニコーン企業だ。創業時は従業員アプリの開発・提供を主事業としていたが、今ではSMS・Eメール、イントラネット、デジタルサイネージなどといった社内コミュニケーションのための仕組みを提供するほか、それらの従業員体験(EX)をデータとして可視化し改善のアクションへとつなげられるEX管理プラットフォームを提供している。

 2025年は同社にとって、グローバルでの事業拡大に向けた重要な年となった。日本市場には3月に参入し、6月には日本法人オフィスもオープンした。他にも、フランスやスペインなどでもオフィスを開設したという。グローバル全体では約2,000社に導入されており、主要顧客にはフォルクスワーゲンやアディダス、コカ・コーラなどをはじめ大規模エンタープライズの名が並ぶ。日本企業では日立製作所や、大手自動車メーカーの名が複数挙げられた。ユーザーの大半が大企業だという。

 イントラネットやEX管理プラットフォーム自体は、それほど新しいものではないかもしれない。しかし、同社が競合他社に対し独自性を持つのは、その設計思想だ。というのも、Staffbaseのプラットフォームは「ノンデスクワーカーが多く働く業界で、本社と現場間の情報格差をなくす」というコンセプトのもとで設計されており、工場や拠点をたくさん抱える製造業であったり、ノンデスクワーカーを多く抱える物流・運輸、医療、小売・サービス、建設であったりといった業界のコミュニケーション課題を解決するための設計になっているのである。

 たとえばフォルクスワーゲンでは、製造部門の従業員が1万人以上いるにもかかわらず、彼ら彼女らにはイントラネットへのアクセス権がなく、会社の情報にアクセスできなかった。また、他の工場で働く従業員との接点も断絶されていた。しかしStaffbaseで独自の社内アプリを構築したことで、工場の従業員がアプリを開くと、一人ひとりに最適化されたニュースやスタートページを閲覧できるように。また、他の工場のチャネルにユーザーの意思で登録することも可能となった。その後同社では社内の透明性が向上し、つながりの文化が育まれたことで、週に半数以上の従業員が社内のコミュニケーションに積極的に参加するようになったという。

 次の事例として紹介されたアディダスでは、各店舗の従業員が社内のニュースや文化へアクセスしづらい環境が常態化しており、部署間や同僚間でのコミュニケーション、知識の共有を行う方法がなかった。しかしStaffbaseの導入によってチームチャットや社内イベントへの登録、EXのフィードバック機会などが提供されるようになり、従業員の一体感が高まったほか、1日に最大10回の社内短期トレーニングセッションを受ける従業員も出てくるほどになったとのことだ。

 こうしたユースケースを想定しているため、Staffbaseの機能やUIはモバイルでの利用に最適化された設計となっている(もちろんデスクトップなどでも利用可能)。本社のデスクで仕事をしている従業員も、地方や海外の現場で働いている従業員も、情報格差を感じることなく企業活動に参加できるようになるというわけだ。

 ここまでを踏まえ、日本法人でカントリーマネージャーを務める赤平百合氏は、日本企業に蔓延る掲示板や紙の社内報といった情報共有ツールをデジタル化し、いつでもどこでも最新かつパーソナライズされた情報に全国の従業員がアクセスできるようになるといった、日本特有の課題を解決することにもStaffbaseが役に立てるのではないかとの見解を示した。

 「また、ほとんどの企業には社内のイントラネットがあるかと思いますが、『わざわざ見に行かない』という方も少なくないと思います。見に行っても面白くない、欲しい情報を探すのが大変、サイトのUIが分かりにくい、サイトがカッコ悪いなど……(中略)イントラネットは『デジタルのゴミ箱』になってしまっている可能性が高いのです」(赤平氏)

 導入の形としては、Staffbaseをフロントドアとし、社内で導入しているMicrosoftやServiceNow、Google Cloudなどのプラットフォームと連携・統合して、自社に最適化されたイントラネットを構築していくようなイメージだ。従業員一人ひとりへの情報の提供は、モバイルアプリやSMS・Eメールなど、現場や働き方の事情に合わせて様々な方法を使い分けることができる。管理者は、従業員がStaffbaseで構築したアプリ、イントラネットなどを使ってどのような体験をしているか、既読率はどれほどか、どれほど体験に満足しているかなどをデータとして可視化し、改善のアクションにつなげることが可能だ。

 なお、セキュリティに関しては同社の本拠地であるドイツ・EUの水準に準拠しているため、導入時からグローバルレベルのセキュリティ環境でソリューションを利用できることが強調された。

「Employee AI」第一弾で実装される機能とは?

 今回発表されたEmployee AIは、既存のStaffbaseプラットフォームのオプションとして提供される諸機能の総称、いわゆるブランド名のようなものだ。従業員の理解度やエンゲージメント、生産性の向上をさらに後押しするための手段としてAIを活用するという意図である。

 第一弾としては、パーソナライズされたAIポッドキャストや会話型のAIアシスタントなど5つの機能が実装されるという。「次世代のエージェンティックEX体験を提供する」と同社は謳っている。実装される機能は、それぞれ「(情報への)リーチ、データ品質、(AIの)コントロール」を実現するために設計されている。

リーチ:従業員に情報を届けるための機能

1. AIポッドキャスト

 毎週、従業員一人ひとりの職種、勤務地、興味関心などに合わせてパーソナライズされたAI音声の社内報(社内ニュースや人事情報、業務連絡など)を届ける。音声の内容については、AIが自然な雑談なども生成する。2025年内に実装予定。

2. 会話型AIアシスタント

 いわゆるチャットインターフェース型のAIツール。たとえば「有給休暇申請をどうやって出せばいいのか?」といった質問をAIに投げかければ、実際の申請完了までを支援してくれる。こちらも2025年内に実装予定。

データ品質:正確な情報を一人ひとりに提供する

3. 拡張メタデータ(自動タグ付け)

 拡張メタデータとは、データの細かい属性までを分析して紐づけされたデータのこと(例:いつ、どんな職種・部署の誰が、どこで、何をしたデータか、など)。AIがコンテキストの文脈をより深く理解するために必要となるデータだ。この拡張メタデータを自動タグ付け機能によって作り出し、検索性や関連性、コンテンツ管理の精度を向上させるという。こちらは2026年1月~3月に実装予定とのこと。

4. AIページガバナンス

 AIが古い情報や重複コンテンツを自動で検知し整理する。イントラを自動的に最新状態に保つことで、情報混乱を防止したり、運用負荷を軽減したりする機能だ。同じく2026年1月~3月に実装予定。

コントロール:社内のAI活用設定を容易にする

5. 社内のAIを一元的に監視・管理する「AI Trust Hub」

 AIガバナンスのための統制ツール。AIが出した回答が、どんな情報に基づいて生成されたのかを透明化するほか、社内コンテンツのリスクを自動で検知することも可能。従業員側のAIに対する心理的ハードルを下げる仕組みになっているという。これは2025年内に実装される予定とのことだ。

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この記事の著者

名須川 楓太(編集部)(ナスカワ フウタ)

2021年より事業変革に携わる方のためのメディア Biz/Zine(ビズジン)で取材・編集に携わった後、2024年にEnterpriseZine編集部に加入。サイバーセキュリティとAIのテクノロジー分野を中心に、それらに関する国内外の最新技術やルールメイキング動向を担当。そのほか、テクノロジーを活用...

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