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レッドハット、AIネイティブ時代へ戦略転換 JALデジタルと三井住友カードが取り組み事例を披露

(左より)JALデジタル株式会社 デリバリー戦略グループ統括グループ長 磯崎洋幸氏/レッドハット株式会社 代表取締役社長 三浦美穂氏/三井住友カード株式会社 常務執行役員CTO デジタルイノベーションオフィス本部長 中川陽介氏

 レッドハットは7月1日、都内で2026年度の事業戦略説明会を開催し、グローバルの2025年度業績と、AIネイティブ時代に向けた新たな戦略を発表した。あわせて、プラットフォーム整備とAI活用を先行して進めるJALデジタルと三井住友カードが、それぞれの取り組み事例を紹介した。

 レッドハットの2025年度売上高は前年比12.9%増となり、二桁成長を継続した。中でもコンテナ・仮想化基盤「Red Hat OpenShift」は、仮想化用途で稼働する仮想マシン数が前年比4倍に伸びたという。基本製品であるRed Hat Enterprise Linux(RHEL)も堅調に成長したほか、自動化製品のRed Hat Ansible Automation Platformは脆弱性対応需要の高まりを背景に伸長し、AI関連製品・サービス群も大きく成長したとしている。

(出典)レッドハット株式会社 [画像クリックで拡大]

 レッドハット 代表取締役社長の三浦美穂氏は、同社が毎年示してきた「その時代に合ったプラットフォームを一つの基盤で提供する」という方針の延長として、今年度の重点を「AIネイティブ時代」に置くと説明した。「クラウドネイティブの時代は、クラウドやハイブリッド環境をどう使うかを自社の意思で選べる時代だった。一方でAIネイティブの時代は、企業のビジネスモデルそのものがAIの進化とともに変わっていく」と述べ、システムを常に作り変えつづける必要性、人材不足下でのAI活用、そしてAIと共生する組織文化づくりが課題になるとした。

 この課題への対応として、レッドハットは「プラットフォームの手の内化」「AIと共に開発するスピードと体験」「信頼あるAI実行基盤」の3つを柱に据える。手の内化については、統合開発ポータル製品「Red Hat Advanced Developer Suite」を通じて、標準化されたアーキテクチャーやセキュリティのガードレールを備えた開発環境を提供する。開発体験の向上では、高速なプロトタイピングやアジャイル開発の実践を伴走支援する「Red Hat Open Innovation Labs」を提供している。三浦氏は「単体の技術ではなく、組織や体制、カルチャーをお客様が確立するための伴走を考えている」と語った。

 ユーザー企業として登壇したJALデジタルの磯崎洋幸氏は、労働力不足が深刻化する「2030年問題」を見据え、現場の社員をルーティン業務から解放し、創出した時間を安全運航や顧客対応など人にしかできない業務に振り向ける方針を説明した。同社が実施したバリューストリームマッピングでは、最低限のシステムをリリースするまでに165日、待ち時間を除く純粋な作業時間だけで38.5時間、40種類以上の申請書が必要という実態が判明したという。

 これを受け、レッドハット製品を中核とした内部開発者ポータル(IDP)を構築し、社内文書の一元化や、セキュリティのガードレールを備えた標準テンプレート(ゴールデンパス)の整備を進めた結果、リリースまでの環境整備期間を165日から30日程度に短縮したと明らかにした。あわせて、設計書やプロジェクト計画書を検索・参照するAI活用プロジェクトも先行運用を終え、コード自動生成やAIレビューなど開発全般へのAI活用を検証中という。

 磯崎氏は「レッドハットが単なる製品ベンダーではなく、組織と文化を変革する伴走型パートナーとしてコンサルティングを提供してくれた」と述べ、今後はマルチクラウド対応の強化や、AIが生成したコードのセキュリティを自動検証する仕組みの強化を期待するとした。投資計画については、既存システムの維持にあてる「守りの投資」を圧縮し、2030年までに事業を直接牽引する「攻めの投資」の比率を70%台まで引き上げるとし、2025〜2026年度を基盤改革、2027年度を生産性確立、2028〜2030年度をビジネスモデル改革への移行期と位置づける3段階のロードマップを示した。

JAL AI-AgendaとAiLusチーム [画像クリックで拡大]

 三井住友カードの中川陽介氏は、2025年9月にCTO直下の専門組織「デジタルイノベーションオフィス」(DIO)を設立した経緯を説明した。同社は会員数約3,900万人、取扱高約59兆円を抱え、国内のキャッシュレス決済比率58%のうち8割をクレジットカードが占めるとされる中、SMBCグループとして3年間で1兆円規模のIT投資を計画している。開発の多くを外部委託してきたことで、アイデアの実現までのリードタイムが長期化していたことが課題だったといい、ソフトウェア・プラットフォーム・データサイエンスの3領域を担う体制を敷いた。開発者向けの共通基盤を整備した結果、開発効率は体感で約2倍になり、組織規模も発足時の15名から年内に100名規模への拡大を見込んでいるという。

 中川氏は「速さと統制は対立するものではない」とし、ガードレールを備えたプラットフォームが開発者の自由な発想を支えると説明した。AI活用については、Red Hat OpenShift AIを候補の一つとして検討している段階だとし、サプライチェーンセキュリティの観点からもRed Hat Trusted Librariesのような仕組みの重要性に言及した。

三井住友カードのエンジニアリングプラットフォーム[画像クリックで拡大]

 レッドハットはこのほか、信頼あるAI実行基盤の強化策として3つの取り組みを発表した。1つは、特定バージョンのRHELを継続利用したい顧客向けに、年間契約の更新によって無期限にサポートを提供する「Red Hat Enterprise Linux Long-Life Add-on」。これまでは最新版への移行が保守継続の前提だったが、バージョンアップに伴う業務影響を避けたい国内企業のニーズに応える狙いがあるという。国内では海外に比べてサポート終了済みのバージョンを使い続ける企業が多いといい、これまで塩漬け運用にとどめてきたシステムにも継続的な保守を提供することが可能だとしている。

 2つ目は、Red Hat Ansible Automation Platformを用いたセキュリティパッチ適用の自動化で、脆弱性管理ツールが検知したリスクを起点に、事前・事後のタスクをワークフローで連結し、検知から修正までの一連の運用を自動化する。多くの顧客がパッチ適用の頻度を半年に一度程度にとどめている実情を踏まえた提案だとしている。

 3つ目は、NVIDIAと発表した「Red Hat AI Factory with NVIDIA」で、NVIDIAのプラットフォーム上でレッドハットのAI Factoryを稼働させるほか、「RHEL for NVIDIA」により新しいGPUアーキテクチャの提供開始と同時に検証済みのRHEL環境を提供する体制を整えたとしている。研究開発目的でコミュニティ版OSを使ってきた顧客が、本番環境での長期安定稼働を見据えて商用版OSへ移行する動きを想定しているという。

 今後の見通しについて三浦氏は、多くの国内企業がまず技術的負債の棚卸しから着手し、2030年までに今回登壇した2社のようにAIと共生する開発体制へ移行していくとの見方を示し、レッドハットとしても顧客・パートナー企業に伴走していく方針を示した。

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この記事の著者

京部康男 (編集部)(キョウベヤスオ)

ライター兼エディター。翔泳社EnterpriseZine/AIdiverには業務委託として関わる。翔泳社在籍時には各種イベントの立ち上げやメディア、書籍、イベントに関わってきた。現在はフリーランスとして、エンタープライズIT、行政情報IT関連、企業のWeb記事作成、企業出版支援などを行う。Mail ...

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