1. AIは主に商業向け(Webマーケティング等)の分野で活用
これまで、ビッグデータを背景として、AIは主に商業向け(Webマーケティング等)の分野で活用されてきた。現在、製造・保全分野においてもAI活用の取り組みが進められているが、商業向けと比較すると、データの扱いや解析結果に対して高い精度が要求されていることなどから、その開発状況はゆるやかなものとなっている。
製造・保全分野では、データ解析の結果に間違いがあった場合に、事故等に繋がれば人命にも及びかねないことから、データポイント間の関係性や構造など因果関係を把握することが重要視される点などが、その理由として挙げられる。
2. AI活用の課題――まだ萌芽期であり、研究の進展によって課題も解消へ
製造・保全分野においても、特に故障予知に対するAI活用が注目されている。製造業では、従来から行われているTBM(Time Based Maintenance:時間基準保全、3年毎にメンテナンスするなど一定期間ごとに保全活動を行う考え方)から、CBM(Condition Based Maintenance:状態基準保全、機器の状態を基準に保全活動を行う考え方)へと移行しつつあるが、この背景には機器等の稼働データが取得しやすくなったことがある。
これらの稼働データに対してAIを適用することで、故障予知ができないか取り組みが進められているが、現状では課題も多い。具体的には、故障予知ソリューションにおいてAIは「精度の問題」や「因果関係の問題」「個別性の問題」をかかえている。
故障予知ソリューションでは、AIを使い過去のデータから正常範囲を判断し、リアルタイムデータにおいて乖離を見つけた場合に警告を発するというが一般的である。しかし、実際の機器においては、異常値であっても正常に動作しているケースがあったり、製造業ユーザーは高い的中確度を求める傾向もあるため、クライアントを納得させる精度にすることは容易ではない。
なお、本調査に関連して、国内の年商100億円以上の製造業217社に対して、データ分析やIoTの利活用、故障予知、保全に関するアンケート調査を実施した。「故障予知の当たる確率がどの程度まで高まれば故障予兆システムを導入してもよいと思うか?」を尋ねたところ、「10回のうち8回」が58社(構成比36.5%)、次いで「10回のうち5回」が38社(同23.9%)、「10回のうち7回」が25社(構成比15.7%)となり、製造業ユーザーが求める的中確度はかなり高いことがわかった。
また、仮に故障を予知したとしても、代表的なAIの手法である深層学習(ディープラーニング)は因果関係が分からないブラックボックス型と言われる手法となることから、故障の原因を特定することが難しい。よって、故障予知に成功しても、効果的に対策を打つことが難しい。しかも収集した運転データから故障予知のモデルを作ることができたとしても、設置された環境にも左右されることから、そのモデルを他の設備機器で活用できるとは限らない。
よって、その都度、故障予知モデルを生成する必要があり、手間がかかることがわかっている。しかし、一方で因果関係の見えやすいホワイトボックス型のAI/機械学習を使うなどの対策により、上記のような課題を乗り越えていくことは可能である。故障予知ソリューションはまだ萌芽期であり、今後、研究がすすめば、課題も解消されていくと考える。
3. 今後の展望――CPS(サイバー・フィジカル・システム)実現へ取り組む
今後、製造業はCPS(サイバー・フィジカル・システム)という、現実世界にある実体とサイバー空間にあるデータとが密接に連携した世界観の実現に向けて動き出す。そこでは、実体世界で発生する事象をサイバー空間でシミュレーション(再現)できる必要がある。
そうした世界観を実現していくためには、物理現象のモデル化、メカニズムの解明といったことが必要となるが、故障予知ソリューションの研究を通じて解明されることも多くなる。そのため、中長期的にみると、故障予知への取り組みは重要な意味を持つと考える。
製造業でもトップクラスの企業においては、既にビッグデータを活用した故障予知の研究は進められている。調査結果によると、今後、大手製造業の工場において、2019年頃には30社程度、2025年頃には85社程度(いずれも構築社数累計)がビッグデータやAIを活用した故障予知ソリューションを構築する見通しである。