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情報法オーラルヒストリー

「情報の法社会学~名和小太郎先生に聴く」(第2回)


 情報法は、戦後のコンピューターの登場と発展を背景に生まれてきた新しい法分野であり、新しい技術の登場と社会の変化の中で、新たな立法が求められてきた分野でもある。民事法や刑事法などの伝統的法分野のような法解釈学を中心とした部分もあるが、それだけではなく、情報を規律する制定法が生成されている途上でもあることから、常に立法政策にも目配りをせざるを得ないという特徴をもっている。情報法はいかにして生まれ、展開(または迷走)しているのか――ここでは、今日の情報法をかたちづくることに貢献された先生にお会いして研究の足跡を振り返りながらお話を伺うことを企画した。すでにお二方の先生のインタビューを終えているが、それぞれのお話もさることながら、相互に絡み合うことでより深く理解できるところがあった。あらためてオーラルヒストリーの意義を感じている。 なお、企画とインタビュー、反訳、写真は一般財団法人情報法制研究所が担当した。本サイトを通じて有意義な連載としてお届けできればと思っている。(第1回はこちら)

名和小太郎先生について

 名和先生は、1931年に東京に生まれ、1956年に東京大学理学部物理学科卒業後、石油資源開発㈱に勤務されて60年まで人工地震による石油探査をされ、その後旭化成工業㈱に転職されて、ロケット燃料の生産管理やソフトウエアの開発・保守などのお仕事を77年までされてきた。

 その後、シンクタンクとして設立された㈱旭リサーチセンターの役員としてソフトウェアプログラムの知的財産権や標準化、電気通信、情報セキュリティ、個人データ保護といった問題に取り組まれ、行政や自治体等からも多くの相談を受けて来られた。

 企業を退職後は、新潟大学法学部(1991-96年)に新設された「法情報学」の教授として着任され、定年退官後は、関西大学総合情報学部教授(1996-2001年)として情報法を受け持たれた。その後は、非常勤講師として国際大学グローバル・コミュニケーション・センター(2002-07年)、情報セキュリティ大学院大学(2004-現在)と研究活動を続けられている。

 汎用機が戦後開発され産業として成立するまさに黎明期からコンピュータに携われてきたという意味では、今日、プログラマーやシステムエンジニア、プロジェクトマネージャーと称される職業の草分けであったし、大学に移られてからは、情報技術と法の架橋をなす研究者としての草分け的存在でもある。

 名和先生のビジネスパーソン及び研究者としての60年を伺うことは、日本のシステム開発と情報法制の歴史の一端を知ることである。この度は、ご自宅をお訪ねして、2時間にわたりインタビューをさせていただいた。

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国立大学ではじめての「法情報学」(情報法)の開講

名和小太郎先生

鈴木:名和先生が旭リサーチセンターから新潟大学法学部に着任されて、はじめて「法情報学」という講義が開講されました。

名和:1980年代なかばに、私は『電子仕掛けの神』という本を書きました(注1)。法律的には間違いだらけだったかと思いますが。このあと、技術と法律との関係について、原稿依頼や講演依頼が増えました。私自身は「法情報学」という大それた発想はなく、技術者からみて不可思議な法律を列挙してみた、ということでしたが。

鈴木:名和先生の定年退官後、日本総合研究所から大野幸夫先生がいらして、明治大学法学部に割愛されてから、私が引き継いでいるのですけれども、当時、「法情報学」の開講は国立大学の中でもとても早い方だったかなと思いますが。

名和:一番早かったです。

鈴木:名和先生は、企業と大学、特に法学部との関わりにも先鞭をつけられてきたように思いますが、その経緯を少しお聴かせいただければと思います。

名和:私は企業の役員だったので、まだ何年か会社に残れたのかもしれません。けれども、定年間近になり、ありがたいことに、私の年を数えていた方が大勢いらっしゃって、いくつかの大学からお話があったのです。
 新潟大学は、ある日、突如として電話がかかってきまして、「新潟大学法学部です」と。「工学部ですか」と言ったら、「法学部です」と。「工学部ですね」と言ったら「法学部です」と。ぜひお話したいことがあるから、あさって伺いたいから、文部省の隣の、何とか会館で、と。そこでと言うので、出かけましたら「情報法という講座を作るので、来てください。教授会で決まったから」という話です。

鈴木:最初は、「情報法」ということだったようですね。しかし、その後、文部省からそのような法律分野はないかという指摘が入って急遽「法情報学」という名称にしたと当時在職中の先生から聞いています。情報に関する制定法がほとんどなかった時代ですから違和感があったのでしょうね。いずれにせよ新潟大学では「法情報学」は「情報法」という意味だったということのようです。しかし、2004年にロースクールがはじまると、発展科目の一つとして「情報法」を開講するよう求められて、文科省と法務省の下でシラバスのモデルまで提示されました。ようやく公認されたということでしょうか。隔世の感があります。ちなみに当時はどなたがお訪ねしたのでしょう。

名和:桑原昌宏さんです。桑原さんが、基礎法の当時の主任だったんです。あとは葛西康徳さん、渡辺修さん、南方暁さんですね。とにかく非常にビジネスライクに、手際よく、明日から、みたいな話で、むしろ会社を辞めるほうが大変だったのですけれども。

鈴木:そのお話の前に、夏期集中講義の非常勤講師などで新潟大学に来られたことはなかったのですか。

名和:全然ないのです。

鈴木:全く接点なかったのですか。

名和:全くなかった。ただ、それ以前、斉藤博さんとはお付き合いが長かった。

鈴木:法学系以外の方のために一言補足すると、斉藤先生は民法、特に人格権の研究、それから著作権法で有名な先生ですね。新潟大学で法学部長をされていました。

名和:はい。だからこれは、斉藤さんのご推挙があったのかもしれません。が、斉藤さんはちょうど入れ違いに筑波大学に行かれた。

鈴木:あぁ、その頃になるんですね。

名和:ちょっといいですか、話が長くなってしまって。1970年代の後半に、京大の北川善太郎さんに私はあれこれと教えていただきました。その北川さんに斉藤さんを紹介していただきました。

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(注1)名和小太郎『電子仕掛けの神:法制度を揺るがす情報通信技術』、勁草書房 (1886)

  

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いいユーザーを取ってこないと、いいシンクタンクにはなれない

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この記事の著者

鈴木 正朝(スズキ マサトモ)

新潟大学 大学院現代社会文化研究科/法学部 教授(情報法)。理化学研究所 革新知能統合研究センター 情報法制チームリーダー、一般財団法人情報法制研究所 理事長を兼務。 1962年生。中央大学大学院法学研究科修了、修士(法学)。情報セキュリティ大学院大学修了、博士(情報学)。 情報法制学会 運営委員・編集委員、法とコンピュータ学会 理事、内閣官房「パーソナルデータに関する検討会」構成員、同「政府情報システム刷新会議」臨時構...

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