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企業システム像の変遷と展望~あるいはERPの終焉と再生

ERPの登場~第一次導入ブームが遺したもの

第2回

分業による細分化が運用や技術面での空洞化を生んだ

 連載の第1回でも触れたとおり、日本型のシステム導入手法は70年代のメインフレーム時代に確立された。自社業務を徹底的に知り尽くした(もしくはシステム化の過程で熟知していく)社員が、自分の会社のシステム基盤を作り上げ、メーカーの技術者が主に技術面からサポートにあたるという構図である。誰よりも自社を愛し信頼する社員が、誰よりも詳しい自社業務知識を総動員し、どこよりも素晴らしいシステムを構築するという当時としては至極当たり前の手法が初期の基幹システム構築を成功に導いた。また構築後も、日々のカイゼンを自らの頭で考え、自らの手でシステムを拡充してきたのである。

 企業がメーカーやSI企業に抱いている不満について、専門誌が毎年のように調査を行っている。その際必ず上位を占めるのは、「作り手が業務を知らない」という不満である。しかし考えてみれば当たり前の話であって、その会社の社員でもないSEが深く業務を知るはずもない。ERP以前のシステム構築では、顧客との絶え間ない対話の中で、ダイヤグラムやフローチャート、業務ロジック等を作りながら「類似業務」に触れる機会を持つことができた。しかしERPの登場でそれも途絶えてしまう。エンジニアは「パッケージに合わせて業務を動かす」ようにするために、例えばパラメータ設定の習熟度により能力の優劣を競うようになる。

 技術面でも同様の空洞化が起こりつつある。昔は技術者の大半がプログラミングを経験した。ちょっとしたミドルソフトなども自ら作り上げた。こうした過程で基礎が培われた。現在はツール全盛で、これまで基礎に相当した領域は全て隠蔽されている。今で言う基礎力とはツールやパッケージを前提とした上での技術力であり、その前提が変われば何の役にも立たない。また昨今のオフショアの流れで自らはプログラミングもしない。やることは、プロマネという役どころすなわち、ヒト、カネ、スケジュールの管理と、顧客と下請企業間の調整役である。

 筆者はオーバーな表現をしているのだろうか。ERPの製造販売を生業にしていながら、このようなことを述べること自体がそもそも怪しい行為なのだろうか?

 その昔ニーチェは「人間の堕落は分業から始まった」と説いた。企業システムの周辺では、導入する側もされる側も、分業ここに極まれりといった状況にある。全体性に触れる機会すら与えられない中途半端な専門家で溢れている世界が現在のIT業界の偽らざる実態である。いや、この傾向はIT業界のみならず、ほとんどの業界に共通した問題であると言えるのではないだろうか?

「全体性への回帰」が起こっている

 先の参院選で与党自民党が大敗を喫した。巷には昭和を懐かしむ声が溢れ、グローバル・スタンダードの体現者や効率化の権化のような経営者たちが続々と失脚する。

 現在の状況について様々な分野の人たちが実に様々な分析を行っている。門外漢ながらあえてひとこと言わせてもらえるなら、今起きていることは「全体性への回帰」である。全体があっての個であり、個あっての全体である。人間とは、ものごとの全体性を理解し、さらにその物語の中で己が果たすべき明確な役割を理解したとき、初めて本当の力を発揮する。少し前の時代までは、企業であれ、学校であれ、町であれ、家族であれ、起承転結を持った物語を内包するコミュニティが確実に存在した。日本企業の成功の方程式とは、実はこれらの信頼基盤の上に成立していたのである。

 時計は逆に回らない。しかし時間は直線的に進むものでもない。螺旋階段のように回帰を繰り返しながら進んでいく。回帰を促す力は歴史の知恵だ。

 筆者が籍を置く「次世代ERPコンソーシアム」はひとつの試みである。多くの反省と、古くて新しい野心を基盤にしたコミュニティである。その誕生の背景と可能性については、次回に語らせていただくこととする。

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この記事の著者

インフォベック 山口 俊昌(インフォベック ヤマグチ トシアキ)

インフォベック株式会社 取締役。日本総合研究所、インフォコム株式会社を経て現職。2003年、「次世代ERPコンソーシアム」設立に参加。国内のSI企業を中心としたコンソーシアム活動から純国産ERP「GRANDIT」が誕生した。インフォベックはその幹事会社であり製造元である。

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https://enterprisezine.jp/article/detail/120 2007/09/04 15:00

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