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第1回 ERP登場以前の先史時代

  2007/07/30 10:30

ERPという概念が登場して久しい。が、果たして、この10年、IT投資をしてきたどれだけの日本企業がその恩恵に浴することができたのだろうか。この連載では、企業システムの革新を迎える「今」という過渡的な状況の中で、あらためてめ企業システムとは何か、ということについて考えて行きたい。

はじめに

 筆者が関わっている国産ERPのプライベート・イベントで「ERPの終焉と再生」というテーマを掲げたのが2005年のことである。そもそもは、そのコンセプトも、それを体現した製品も全て欧米から輸入され、大企業を中心に一巡して約10年。ひとつの区切りと整理の意味を込めて、敢えてこの主題で挑んだ。特にパネルディスカッションでは、その道の専門家たちに議論をして頂き、来場者の方々には少なからぬ同意と賛辞を頂戴した。

 これに気をよくした訳ではないが、昨年のイベントでは、企業における「知の再構築」と称し、「分断された業務プロセスを全体としての流れの中で捉え直すこと」をテーマとした。「人はなぜ働くのか」という、哲学的な問いかけにまで踏み込んでいただいた田坂広志さんの素晴らしい基調講演と、予想を遥かに超える来場者に恵まれたものの、全体としてややテーマ負けしてしまった感があるのが少々悔やまれる。

 これまでのITは軍事を中心に進化してきた。今後はこれに企業と個人の視点が加わっていく。あるものは交差し協調しながら、またある領域では反駁し合いながら。

 企業システムあるいはERP、ということを主題に、駄文を綴ってみようと思う。博覧強記にして進歩思想の読者諸君にとって大した足しにはならないかもしれないが、ともあれ、これから何回か、お付き合い願いたい。

ERP登場以前の企業システムとの違い

 ERPという概念が普及して久しい。いやそれどころか、ERPという名前の使用を憚り始めているメーカーさえ出始めている。これは、ERPという価値観があまねく普及したことによるものか、それとも早くも時代遅れとなりつつあることの現われであろうか。

 「ERP=Enterprise Resource Planning」、企業における資源の全体最適、もしくはそれを支援するシステムパッケージ…。今更こんな定義をおさらいしても始まらないだろう。なぜ欧米でこうした概念が誕生し、瞬く間に世界を席巻することとなったのか。この考察については次回に譲るとして、今回はERP登場以前の企業システムを振り返ってみたい。

 ERPなどという言葉すら存在しなかった1970年代。我が国では大企業を中心に汎用機をベースとしたシステム構築が盛んに行われた。パッケージはもちろん、開発ツールやミドルウェアさえ充分でないこの時代に、日本企業は自社社員を中心に業務や経営の効率化に挑み、驚くべきことにその大半を成功させた。当然、技術面ではメーカーの力を仰いだものの、アプリケーションシステムについては、“自らの手で”作り上げたのである。これは、90年代にERP後進国と言われた我が国のことである。70年代に、自力で作り上げたシステムと、それに取って代わったERP。では両者の違いとは何か。

 完成してしまったものについては、実はほとんど大差は無い。作り上げるまでの過程に大きな違いがある。簡単に言えば、既に完成したものを導入するかどうかの違い、つまりERPの場合には既製品であるが故に費用と期間が節約されることになる。しかも、世界の先進企業の模範的業務プロセス付きで。さらに言えば、保守もメーカーが行ってくれることで、人員は不要、最新技術や機能強化もバージョンアップの名目で保証される。さらにさらに言えば、ERP導入の過程で優秀なコンサルタントが「BPR」と称して業務改革をセットで実現してくれるのだ。

日本的企業文化の崩壊と断絶

 この10年で果たしてどれくらいの企業がこうした魔法の如き恩恵に浴することができたのだろう。某経済誌が「IT不良資産」をテーマに特集を組もうとして、各社にインタビューを試みた。出てくるわ、出てくるわ、これはもう一大特集記事間違いなしと思いきや、大半の関係者が直前になって記事掲載を断ってきた挙句ボツ企画となった。理由は簡単。費用も期間も昔と変わらず、バージョンアップするには初期投資と同じくらいの費用がかかり、ブラックボックスはかえって増大し、BPRのための膨大な報告資料は作ってもらったが実現不可能。これらを公言したら首が飛ぶ…。

 実は両者の間に横たわるのは、単なるブームやメーカーのうまい宣伝文句などではなく、ましてや技術革新の成果でもない。それは、ある文化の断絶なのではないかとさえ思えてくる。その文化とは、自己完結主義、言い換えるなら終身雇用制、これらに象徴される我が国の企業文化そのものの崩壊と断絶の結果だったのではないかと思えてしまうほどだ。それを助長したのが、コアコンピタンスアウトソーシングという流行語である。

 10年、20年を経過した手作りの基幹システムをリプレースすることほど困難なプロジェクトはないだろう。但し、その本当の理由とは巷間言われるような、技術の陳腐化によるマイグレーションの困難さや、要員の退職や配置換えによるシステムのブラックボックス化などというものではない。それは、旧システムがその企業にとって実に良く出来ているからなのである。ダベンポートが言うところの“芸術的”とも言えるERPであっても、ひとつの企業で長年熟成された文化や利便性を反映したシステムを、おいそれと超えることはできないのだ。

来るべき企業システムの革新に備えて

 連載一回目で早くも結論めいて恐縮だが、企業システムにおける今日の状況は、多分に過渡期的なものであると言える。この10年余りで縮小した情報システム部門は恐らく復活する。SI企業やメーカー等に存在するおびただしい数のSEは、次の10年でその大半が一般企業に移るだろう。そしてこの動きは、我が国における文化潮流の変化と同期を取りながら、今まさに始まりつつある、来るべき企業システムの革新とともに訪れるに違いない。この辺の詳細については、連載を進めるうちに徐々に明らかにしてゆきたい。

(第2回へ続く)



著者プロフィール

  • インフォベック 山口 俊昌(インフォベック ヤマグチ トシアキ)

    インフォベック株式会社 取締役。 日本総合研究所、インフォコム株式会社を経て現職。2003年、「次世代ERPコンソーシアム」設立に参加。国内のSI企業を中心としたコンソーシアム活動から純国産ERP「GRANDIT」が誕生した。インフォベックはその幹事会社であり製造元である。

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連載:企業システム像の変遷と展望~あるいはERPの終焉と再生
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