「第二章」
今年2月にサンフランシスコで開催されたIBM社年次カンファレンス、そこで冒頭示されたのは、テクノロジが「第二章」を迎えているという現状認識だった。これまでの試行錯誤の時期を経て、ユーザが自身のデジタル資産を活用して基幹業務の変革を行う、そんな次世代に移行しているという評価だ。
この「第二章」のムーブメントは、日本でもたしかに感じられている。コスト削減と効率化にとどまらない、少子高齢にそなえて働き方改革にも対応する、新しいビジネスを見据えたテクノロジやクラウド、そして“AI”の利用が日本企業でも志向されている。
政府Society 5.0において、情報社会(Society 4.0)から、次の、情報連携で新たな価値創造を目指す社会への移行を謳っているのも、この上位概念にあたるだろう。
そのような中で、電子契約は、現状44%以上の企業が利用しているとの数字もあって(下表。従業員50人以上の国内企業へのWebアンケート)、これによると、すでにイノベーター(全体の2.5%の革新者層)とアーリーアダプター(13.5%の積極者層)を獲得し、固有の市場を形成していることになる。ただ、同じ資料によれば、その伸び率としては存外に低迷しているのも見て取れる。契約書は全ての企業に関わる文書で、そこでの基幹業務をデジタルで変革する際には、その電子化は必須とも言える。にもかかわらず、中間のアーリーマジョリティー層の取り込みで、足踏が生じているのはなぜなのか。
「心理的抵抗感」という言葉で説明している論者も多いが、ここではマジョリティーという量の獲得のためには「第二章」を迎えるという質的な転換が必要なのだと仮定して、過渡期にある電子契約の方向性を探る。
電子契約はどのように規定されているのか
電子契約とは何なのか、まずはビジネスの起点ともなる法律概念を確認しておこう。
この電子契約という言葉もまた、法律上、多様な使われ方をしている。
たとえば、電子契約法とも略称された法律では、企業のウエブ画面にアクセスして商品を購入するなどのB2C電子商取引をもって電子契約と呼んでいる(平成13年法律95号電子消費者契約及び電子承諾通知に関する民法の特例に関する法律。近時は電子消費者契約法と略称される)。また、電子委任状法は、「この法律において「電子契約」とは、事業者が一方の当事者となる契約であって、…契約書に代わる電磁的記録が作成されるものをいう」としていて、ここでは事業者限定の民民(B2C・B2B)と官民での契約の電磁的記録が電子契約ということになる(平成29 年法律64 号電子委任状の普及の促進に関する法律2条)。
さらに、多くの法律では法文中には電子契約という文言を使っていないが、「電子取引の取引情報に係る電磁的記録」(電子帳簿保存法10条)、「電磁的記録であって情報を表すために作成されたもの」(電子署名法3条)などの規定をしていて、ここには当然電子契約を含んでいると理解されている。
言葉は統一されていないけれども、法的効果を意図したデジタル・テクノロジによる合意の記録一般を電子契約として考えることができる。