アーティストの視座から学ぶワークショップ
日本は既存の技術に磨きをかけ、品質を高めることは得意だが、新しい技術やビジネスを生み出すことはあまり得意ではない。しかし今はデジタルトランスフォーメーションを背景に、破壊的とまではいかなくても画期的なイノベーションを生み出すことが求められている。これまで通り、直線的な進化を継続することも必要だが、斜め上を行くような「ありえない」発想や方向転換で、新しい道を開拓することも必要ということだ。
「新しいものを創造せよ」と求められると、多くの人は戸惑う。これまで学校で教わった通りに答え、会社で上司やクライアントの要求通りに応えるのが正しいとされていたのに、教科書にない、ググっても出てこないものをどうひねり出せばいいのか。
そうした時代要請に日本マイクロソフトが動き出した。「AI-Readyな社会を迎えるにあたり、自分らしい旗を意識すること」を重視し、新しく人材育成プログラム「Flags!」提供していく。プログラムの第一弾となったのが、6月に開催された「Art Thinking Improbable Workshop for Flags!」。
今回のワークショップの元となるのが、10年前にフランスの老舗ビジネススクールのESCPが開講した「Art Thinkingimprobable Workshop」。アーティストの視座を学ぶための講座として始まり、近年では起業家や経営者にも受講者が広がっている。この講座をHeart Catch社が日本に持ち込み、今回はFlags!のプログラムとして開講した。また会場提供などでスタートアップ支援のEDGEofも協力した。Co-CEOを務める小田嶋 Alex 太輔さんは「破壊的なイノベーションを起こすためにはクリエイティビティが不可欠」と指摘する。
アート作品で表現された問題提起から新しいビジネスが生まれた
イノベーションに、なぜアートなのか。もちろん、アートはイノベーションを生むためにあるものではないが、イノベーションを生むヒントになることもあるということだ。「Flags!」の記者向け説明会で、一例をHEART CATCH社の西村真里子さんが示した(なお西村さんは日本IBMでエンジニアを経験したのちにHEART CATCH社を起業した)。
過去にフランスで開催された「Art Thinkingimprobable Workshop」では、折り紙で作ったハトの作品が展示されたことがある。道にファーストフードの食べかすが散らばり、それをハトがついばむ姿を折り紙で表した作品だ。ここにはフランス食文化にファーストフードが普及していることを嘆く気持ちが込められていた。
その作品を見た人たちがフランスの食文化や食生活について改めて考え、シニアが活躍できるケータリングビジネスが生まれたという。アートで表現された問題提起から、ビジネスソリューションの誕生へと発展した好例だ。
アート作品はアーティストの気持ちや願いをほかの人に伝える媒体でもある。直接的な表現ではないため、見た人の感受性や解釈次第で自由に発展していく可能性も秘めている。そのためアートの可能性を知り、作品作りを経験することは多くの学びがある。特にこれまでのビジネスに没入していた人には、新鮮な刺激となるのは間違いないだろう。