「RPA」という言葉を聞いて「何それ?」という人は、少なくともオフィスでビジネスをこなす「デスクワーカー」と呼ばれる人たちにはほとんどいないであろう。
今や毎日のようにメディアに取り上げられており、国内において喫緊の課題である労働人口の減少に伴う人手不足や長時間労働対策など「働き方改革」の即効薬ともいわれ、大きな注目を集めてきた。さらに2018年6月に参院本会議にて「働き方改革関連法」が承認され、特に時間外労働の上限が規制されたことがポイントだ。また、業務の効率化だけでなく、人を介在せずに業務を完了することができる点や、さらに実行した結果が証跡(ログ)として残ることから、近年相次いだ不正会計や製造データの改ざんなどの不祥事などに対処できる点もRPAが注目される理由といえる。
このようなメリットから、すでに国内でも多くの事例が公開されており、特にメガバンクや大手生命保険会社など金融業界での導入が先行しているが、もちろん製造業や流通、サービス、公共など、業種に関係なくRPAの導入は進んでいくといわれている。富士キメラ総研「2017サービスロボット/ RPA関連市場の将来展望」によると、2020年にRPAの市場規模は338億円(2016年実績は59億円)に拡大すると予測されており、業種別比率を見ても金融業:26%、情報通信業:19%、製造業:21%、その他:34%となっている。なお、RPAについては、「プロセス改革」や「BPR」(Business ProcessRe-engineering)といったこれまで企業が取組んできたことと同じように語られることが多いが、あながち間違いではない。RPAにより業務を自動化するには、現状の業務プロセスでは自動化に適さない場合が多く、業務プロセスの見直し・改善を行うのが一般的である。
実はこれがPRA導入における課題の一つであり、業務プロセスの見直しは現場の業務担当者、つまりユーザー部門の協力が不可欠だからである。
一方でRPAはユーザーがこれまでのシステム開発のような高度なプログラミングの知識がなくとも、シナリオ作成と呼ばれる簡易的なGUI操作によりロボット開発を行うことができる。ユーザーが自由にロボットを開発しユーザーの管理下で動作させることは、「野良ロボット」と呼ばれる管理者不在のロボットや、コンプライアンス違反の「闇ロボット」を防止することが難しいといった課題も発生する。
開されている多くの事例について、今一度考えていただきたい。効果の創出を明確に記載した事例であるほど、特定の業務の自動化をターゲットにしたような事例ではないだろうか。
金融業界の事例で年間数億円のコスト削減やオペレーター人員を1/10に削減などの効果を謳っているが、一つの業務に膨大なボリュームがあり、それを自動化するだけで十分に効果を創出できるのだ。同じことを製造業や流通業、サービス業などの企業に置き換えてみると、一つの業務の自動化でこれほどの効果を期待できる業務が社内に存在するであろうか。
つまり一般的な企業がRPAによる大きな効果を享受するには、小規模ではあるがさまざまな種類があり、かつ多くの業務を自動化する必要がある。しかもロボット開発は現場主導で進めながらも野良ロボットや闇ロボットを発生させない“管理・統制”と“活用支援”という相反する2つの要素を両立させながら運用することが不可欠だ。これがRPA導入の難しさである。
RPAの導入において通常PoC(Proof of Concept:概念実証)を実施するのが一般的であるが、PoCの段階では、これら運用面の課題は表面化せず、利用部門の拡大もしくは全社導入を進める時点で表面化してくる。
はじめに全社導入で直面する課題を以下の8つ項目にまとめてみた。
- 「野良ロボット/闇ロボットが発生する」
- 「ロボットの開発は難しい」
- 「期待したほど活性化しない」
- 「自動化できない業務が多い」
- 「ROIを算出できない」
- 「全社で管理・運用するには?」
- 「IT部門のロボット開発の負荷が大きい」
- 「セキュリティは大丈夫?」
これら8つの課題の詳細については本書で解説していくがRPA全社導入を成功に導くのは、これらの問題をどう解決するかがポイントだ。
当社はITベンダーであると同時にユーザーである。
「働き方改革」への取り組みの施策の一つとして、2016年7月にRPAの導入検討を開始し、PoCを経て2017年9月に全社展開を行った。全社展開に向けた運用体制の構築やルール作り、ヘルプデスクの整備、開発ノウハウの蓄積により運用を行った結果、定量的な効果としては人事、総務、財務部門を中心に109業務を自動化しトータルで7,186時間を削減している。今後もRPA導入を加速し自動化業務の範囲を拡大していく。
なお、削減された作業時間は付加価値の高い作業にシフトしているためコスト削減だけでなく売上や利益率の増加にも貢献していることはもちろん、これまで繁忙期に増加していた残業時間の平準化や、業務スケジュールに影響され社員の都合で年休取得が難しかった状況の改善は、メンタルヘルス対策やエンゲージメントの向上など働き方改革の推進にも大いに貢献している。
先に述べたRPA活用における8つの課題も解決済みである。本書では当社のRPA導入事例として、製品選定から社内運用体制・ルール、ユーザー部門への展開・定着までの取り組みについて実例をベースに記載している。
当社が選定したRPA製品は米国Automation Anywhere社の「Automation Anywhere Enterprise」である。ただし全社運用に必要な機能を実装していれば必ずしも同社製品でなくてもよいが、全社運用に必須となる機能や製品特性については選定を行う際に参考にしていただきたい。(次回に続く)