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今だからこそ専門家に聞いておきたいAIのリアル

スン博士に訊く、「現在のAIが得意なこと、不得意なこと」

第1回

 あらゆるアプリケーションにAI技術が組み込まれつつあり、今やテレビや新聞などでもAIは当たり前のキーワードとなっている。AIはなんだか便利そうで、利用シーンは今後どんどん増えそうなことは理解できる。しかしながら実際に今のAIは何ができ、これからどこに向かっていくのか。それが今ひとつはっきりしない。そこで、AIの専門家であるAppierのチーフAIサイエンティスト ミン・スン氏に、現状のAIのリアルな姿を解説してもらう。

スン氏は、Appier入社以前は台湾の国立精華大学電子工学部の准教授を務め、アジアのAIコミュニティにおいて高い知名度のある科学者だ。専門分野はコンピュータビジョン、自然言語処理、深層学習、強化学習。2015年から2017年にはComputer Vision Graphics and Image Processing Best Paper Awardsを3年連続で受賞、さらに2016年にはミシガン大学から電子工学システム分野の博士号を、スタンフォード大学から電子工学の修士号を取得している人物だ。

スン氏は、Appier入社以前は台湾の国立精華大学電子工学部の准教授を務め、アジアのAIコミュニティにおいて高い知名度のある科学者だ。専門分野はコンピュータビジョン、自然言語処理、深層学習、強化学習。2015年から2017年にはComputer Vision Graphics and Image Processing Best Paper Awardsを3年連続で受賞、さらに2016年にはミシガン大学から電子工学システム分野の博士号を、スタンフォード大学から電子工学の修士号を取得している人物だ。

今のAIはゴールが数値で表せてデータがたくさんある領域が得意

Q:現状のAI技術は、世の中のどのような問題解決が得意なのでしょうか。

スン氏:AIは60年ほど前の研究者が、人間のインテリジェントと同じようなシステムを作ろうとしたところから始まりました。紆余曲折を経て、今のAIは人間のインテリジェンスとは違うところに行き着いています。たとえば、人間には馴染みのないたくさんの次元があるデータ(ハイディメンション・データ)の理解に、今のAIは優れています。ハイディメンション・データの例としては、人間の行動などの「振る舞いデータ」があります。人間の行動を示すデータは多様で、それを扱うのは人間はあまり得意ではありません。しかしコンピュータやAIは、それが得意です。

 AIの仕組みならば、膨大なデータを取り込んで処理できます。一方人間は、膨大なデータは扱えません。小規模なデータしか、人は扱えないのです。もう1つAIが得意なのは、ゴールが数値化できるものです。たとえば株価の予測や商品の最適な価格を設定するなどは、ゴールが数値となるのでAIは得意です。一方で「何か世の中に役立つことをしてください」と言った依頼は、今のAIは得意ではありません。これは「役立つこと」が明確に定義されておらず、AIには理解が難しいからです。

 また、AIはゴールの最適化ができます。その際、最適化する過程がブラックボックス化されてしまうことが多々あり、人間にとってはなぜそうなったかを理解できないかもしれません。しかし、パフォーマンスに優れ妥当な答えをすぐに導き出せる。世の中には途中の経緯が分からなくても良い課題があり、そういったところではブラックボックスなAIも活用されています。

Q:逆に今のAIが、明らかに不得意な領域はどのようなものですか。

スン氏:AIの強みが分かれば、不得意な領域も分かるでしょう。たとえばほんの2、3枚のカンガルーの写真を見せるだけで、子どもは次からカンガルーを見分けられます。コンピュータで同じことを実現しようとすると、1万枚もの写真を学習する必要があるでしょう。AIで新しいものを認識できるようにするには、常に数万枚の写真データが必要です。つまり、データをたくさん集められないものの認識は、今のAIは不得意です。

 人間は持っている経験のところに、強みがあります。なので「だいたいこういうことをやっておいて」との依頼にも応えられるのです。この「だいたい」という指示で対応できるのは、人には経験があり心の中に常識が備わっているからです。AIにはそれがないので、正確に指示するために定量的な情報を与えなければなりません。これができない領域は、AIにとって苦手となります。

 また最新のAIで一番うまく処理できるのは、単一のタスクです。十分に経験(学習)させれば、単一のタスクに対し正確に素早く対処できます。一方で人間はさまざまなタスクを柔軟にこなせます。それは今のAIは苦手です。

 もう1つ、前出のブラックボックスの問題があります。人であれば、教育することでなぜそうしたかを説明できます。たとえば医療における医師の診断でも、なぜそう診断したかを十分に学んだ医師なら説明できます。ところがAIは診断を導き出せても、なぜそう診断したかをなかなか説明できないのです。

Q:一般にAIはクリエイティブなことは不得意だと言われます。そのためクリエイティブでない仕事はAIに置き換えられ、クリエイティブさが求められる仕事は今後も人が行う。本当にAIは、クリエイティブな仕事はできないのでしょうか。

スン氏:最も新しいAIは、イメージ画像を生み出すこともポエムのような文章を書くこともできます。とはいえ、新たな作品は生み出せても、それがクリエイティブとは限りません。これまでにない新しいものだからと言って、それでクリエイティブとはならないのです。新しくても、つまらないものかもしれない。新しいことは、クリエイティブさの1要素かもしれません。とはいえクリエイティブさは人による主観的なもので、それは現状のAIが理解するのが不得意なところです。

 人の主観をAIに伝えるのは、難しいものがあります。とはいえ最近のAI技術には、イメージを解釈するGenerative Adversarial Trainingといった手法があります。人が良いと感じる絵画や文章を学習することで、どんなものが良いかをAIが理解し、学習したものに近く新しい絵や文章をAIが生み出すのです。この方法で、新しくて「良いであろうもの」を生み出せます。これは、AIがクリエイティブなことができると言える例かもしれません。

Q:今のAIでは説明が難しいのはなぜでしょうか。

スン氏:説明が苦手な理由は、これまでのAIの研究者が説明できることが重要だと考えてこなかったからです。しかしながら、この状況もここ5、6年で変わってきました。それはAIで導き出された答えが、現実社会で使われないことが出てきたからです。

 たとえば医療分野でAIを用いることで高い精度で診断を下せ、論文でもその優位性が証明されています。しかし緊急時に医師は、AIの診断結果を使わない。医師や看護師は答えが導き出された過程を理解できないと、責任を負えないので使わないのです。医療診断のように説明できることが重要な領域があり、それに対処するためのAI研究がまさに始まっています。

AIは信頼されるものでなければならない

Q:クリエイティブなものを生み出す領域では今、AIがどのように活用されているのでしょうか。

スン氏:AIでクリエイティブなものを生み出す取り組みも行われてはいます。とはいえこれには莫大なコンテンツのデータが必要になり手間もかかっています。

 一方でクリエイティブなものをAIで生み出すのではなく、人がクリエイティブなものを生み出すための判断をサポートする。それにより人の作業の負荷を減らすのが、今は現実的なAIの利用方法です。人がものを作るためのスピードをAIで加速します。AIで人間をサポート、アシストするところが、最近では強調されます。AIを信頼できるものにするには、人間の生産性を高めるものでなければならないのです。

Q:目指しているゴールに対し、今のAIはどの程度まで進んでいますか。

スン氏:デジタルマーケティングや証券取り引きで利用されているAIは、今でもかなりのことが実現できています。これらは既にAIの技術が信頼されている領域です。人材管理や不正利用の検出などでもかなり使えるものになっています。これらは人間ではやることが難しいけれど、データがたくさんあってゴールを数値で定義しやすい分野です。

 シングルAIの領域、つまりは特定問題を解決するAIについては、かなりゴールに近づいています。一方で汎用的でさまざまなことが処理でき、それを説明できるAIの実現はまだまだ先でしょう。とはいえ、私はこういったAIの未来については楽観しています。近いうちに社会生活の中で多くの人たちがAIの影響を感じるようになるはずです。医療分野などでは、それが早期に起こるでしょう。この領域ではAIに対するニーズがたくさんあり、研究者なども数多く取り組んでいます。たとえば、少子高齢化などの対策をAIで行おうとしています。また流通小売業などでも、人手不足は深刻です。それをAIで保管しようとする動きがあります。とはいえAIに置き換えるには、信頼感が重要でありそれがないとダメです。今後人手が足りない領域には、AIがどんどん進出してくるでしょう。

 ~続く

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この記事の著者

谷川 耕一(タニカワ コウイチ)

EnterpriseZine/DB Online チーフキュレーターかつてAI、エキスパートシステムが流行っていたころに、開発エンジニアとしてIT業界に。その後UNIXの専門雑誌の編集者を経て、外資系ソフトウェアベンダーの製品マーケティング、広告、広報などの業務を経験。現在はフリーランスのITジャーナリスト...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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