「S/4HANAへの移行はDXの必須条件ではない」と脇阪社長
経産省が警告する「2025年の崖」、企業はこれをどう乗り越えれば良いのか。乗り越えるためのアプローチの1つが、既存のレガシーなERPアプリケーション環境をクラウドに引き上げ、クラウドネイティブな環境に移行する「リフト&シフト」を実行すること。ERPアプリケーションを安定して動かすために行ってきた運用管理の大きな投資を、クラウド化でまずは減らす。次なるステップで、浮いたコストやリソースを新たなデジタル変革に投資するのだ。2025年のSAP ERPのサポート切れ課題に直面している企業などでは、このインフラのクラウド化から入り、デジタル変革レディな状態にして適宜SAP S/4HANAなどに移行し本格的にデジタル変革に取り組むのだ。
2025年の崖を乗り越えるためにはERPアプリケーションのクラウド化とは別のアプローチがあると主張するのが、エンタープライズソフトウェア製品に対する「第三者保守サポート」を提供するリミニストリートだ。リミニストリートでは、SAP ERPやOracle E-Business Suiteなどのベンダーが提供する高額な製品保守サービスを止め、そこで削減できるコストを企業のデジタル変革に投資すれば良いと言う。
「2025年の崖の問題とSAP ERPのサポート切れの問題は、たまたま同じ年の話だと言うだけです。サポートが切れるSAP ERPをSAP S/4HANAにバージョンアップしなければ、2025年の崖を越えられないわけではありません。これらの話を同時に語ることは、多くの企業をミスリードするものだと思います」と言うのは、日本リミニストリート株式会社 日本支社長の脇阪順雄氏だ。
2025年の崖を乗り越えて目指すべきデジタル変革は、かなりあいまいな存在だとも脇阪氏は指摘する。たとえば既にデジタル変革を行い成功しているAmazon.comは、デジタル技術を用いて流通小売業界を変革した。Uberはライドシェアとデジタル技術でタクシー業界を、Airbnbもデジタルの力でホテル業界を破壊した。とはいえこれらの企業のデジタル変革は、既存の基幹システムの更新やクラウド化などとはまるで関係ないところで起きている。
UberやAirbnbもビジネスを進めるためには、ERPアプリケーションを利用しているはずだ。彼らは新しい企業なので、最初からクラウドベースのERPアプリケーションを利用しているかもしれない。しかしながらそれらを利用していたから、業界を破壊するようなデジタル変革が実現できたわけではない。
「受注して出荷し、売り上げを計上して入金処理を行う。このプロセスは、どのような企業であっても変わるものではありません。デジタル変革を起こすような企業は、これらのビジネスプロセスの先にあるものが異なるのです。デジタル化を行い、さまざまなものが疎結合でつながるようにしています。そうすることでモバイルやロボット、IoTやAIなど新しい技術がビジネスプロセスの中で容易に活用できるようになります。デジタル変革を語るときには、不変的なERPの話とその周りにある新しい技術の話を一緒に語っていたのでは上手くいかないでしょう」(脇阪氏)
既存のSAP ERPもOracle E-Business Suiteも、既にさまざまなものと疎結合ができるオープンなアーキテクチャを持っている。クラウド化したり最新版に移行したりしなければ、新しい技術と疎結合で連携させられないわけではない。つまり既存のSAP ERPは、2025年の崖を越えるための足かせにはならないのだ。
クラウド化できないシステムが問題であるならば、メインフレームで動いているようなレガシーな基幹系システムは、デジタル変革の阻害要因かもしれない。とはいえ今時のメインフレームであれば、LinuxやJavaが動くの当たり前だ。APIで外部との連携も可能だろう。つまりたとえメインフレームのシステムであっても、デジタル変革の足かせになるとは限らないのだ。