デジタル変革の本質は進化にあり
グッドナイト氏に続いて登壇したシャーベンバーガー氏は、「多くの組織のリーダーは、デジタル変革を十分に理解していない」と主張する。同氏はトランスフォーメーションを生物の進化に喩え、デジタル変革の本質は組織が進化することにあると指摘した。
進化と聞くと、私たちはつい直線的なものを連想するがそれは違う。実際には多くの種の絶滅を伴いながら、長い時間をかけて繁栄する種が現れてきた。私たち人間の祖先も猿ではなく、「ティクターリク」と呼ばれる古代魚だという研究成果がある。この魚が水から陸に上がり、現在の四足動物の祖先になったことを踏まえ、シャーベンバーガー氏は、これからデジタル変革に取り組もうとする組織に対し、「私たちは今、陸に上がったばかりの魚のような存在であり、歩くことや話すことなど、多くを学ばなくてはならない」と訴えた。進化と同様に、デジタル変革もまた理論ではなく事実であるというのだ。
組織がデジタル変革に取り組まなくてはならない原動力が、Uberのような既存の業界秩序を破壊するようなプレイヤーの存在である。伝統的な企業が市場競争で生き残るには、共有リソースへの自由なアクセスを許可することがリソースの所有よりも重要になる。さらに、分散は集中よりも強力であり、コネクティビティはイノベーションの出発点になる。シャーベンバーガー氏は「組織は新しいOSを実装しなくてはならない」と呼びかけた(図1)。
新しいOSを実装した組織はプロダクト中心ではなく顧客中心に変化し、データに基づく意思決定が運営の前提となる。「その実現のために不可欠なテクノロジーはクラウドとAIである」とシャーベンバーガー氏は強調する。
クラウド上のコンピューティングリソースは分散していてもアクセスは容易であり、組織内でのコンテンツ共有も簡単にできる。コネクティビティは言わずもがなだ。だが、デジタル変革におけるクラウドへの移行は、システム環境の近代化と新しい破壊的なビジネスモデルを実現するために不可欠である。
もう一つの重要テクノロジーであるAIは、昨今ではアナリティクスとほぼ同義のものとして言及されることが多い。ここでこれまで組織が蓄積してきたデータをクラウドに移せば、即座にAIやアナリティクスが活用できると考えるのは楽観的すぎる。実際のところ、デジタル変革に成功できるのは4社のうちわずか1社にすぎず、失敗する理由は以下の4つにあるとシャーベンバーガー氏は語った。
- 全てのレバーを試していない
- 明確な戦略が欠けている
- リーダーシップに問題がある
- 不本意なまま変革に取り組む
変革が成功するまでには時間を要する。シャーベンバーガー氏は「AIやアナリティクスの力を組織に取り込み、デジタル変革を成功させるためには、テクノロジー、プロセス、人間を連携させることが鍵となる」と訴えた。組織は単にインフラをクラウドに移行するだけでなく、ビジネスプロセスや人間の意思決定を新しい環境に適応させることを迅速に行わなくてはならないということだ。
大企業だけでなくスタートアップもSASを採用
ここでシャーベンバーガー氏は、保険業界でアナリティクスを活用しているスタートアップ企業の取り組みを紹介した。
イタリア・ミラノに本社を置くYOLO Insuranceは2017年創業のスタートアップ企業。デジタル専業の保険ブローカーであり、主要保険会社グループにデジタルチャネルを提供するプラットフォームを運営している。各保険会社は、同社のプラットフォームを利用し、オンデマンドで適切な保険オファーを顧客に提供できる。同社の創設者兼CEOのジャンルカ・デ・コベリ氏は、創業からわずか2年で約10万件の保険契約を扱うまでにビジネスが成長したと胸を張る。
同社はデジタルネイティブの会社であり、プロセスの変革を必要とはしていない。しかしビジネスプラットフォームの運営で、データを非常に重視している点では従来型の企業と共通する。顧客体験価値を高めつつ、規制当局の要請に応えられるデータガバナンスを確立するため、YOLO InsuranceはSASをアナリティクスプラットフォームにすることを選択した。
コベリ氏は、「当初はオープンソースの環境構築を検討していたが、最終的にSASを選択したのは金融業界に関する深い知識と経験、そして今後のビジネス拡大に向けて重要となる欧州全域のサポート体制が決め手になった」と話す。
シャーベンバーガー氏は、「デジタル変革は簡単に成し遂げられるものではないが、競争力のある俊敏性を実現するために必要な機会と捉えることが重要」と強調した。組織の取り組み内容や要件は少しずつ違ったとしても、SASはデジタル変革に挑戦する多くの企業をサポートしていく強い意思を示した。