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DX推進の目的化やツール依存症……ブレインパッドが語るAI/データ活用で頻発する症状と処方箋

 業界問わず各企業・組織で日常的に取り組まれつつある「AI/データ活用の推進」。注目度と比例してプロダクト・サービスも増加し、企業のツール選びも技術的な観点のみでは難しくなってきた。果たして、選ぶ際に何を重視すれば良いのか、導入後の成否を分けるのはどのようなポイントなのか――。AIブーム以前からデータ分析ビジネスに携わり、業界の先駆者として多くの事例を見てきた株式会社ブレインパッド マーケティング本部長の近藤 嘉恒氏が、実例を交えつつ、現場目線でみた課題と解決策について語った。

データ分析ビジネスの先進企業が語る、日本におけるDXの真の実状

株式会社ブレインパッド マーケティング本部 本部長 近藤 嘉恒氏

 今日では、様々な現場でAIやディープラーニングによる分析、最適化が進んでいる。120人超のデータサイエンティストを擁するブレインパッドがこれまで手掛けてきた事例を眺めるだけでも、スポーツチームの戦略分析食品会社(キユーピー)での不良材料検知飲料メーカー(コカ・コーラ)のSNS画像マーケティング分析など、業界問わずプロジェクトが展開されていることが伺える。

 同社のマーケティング本部長を務める近藤嘉恒氏は、「近年DXをテーマとする相談は『データ統合』『デジタルマーケティングへの活用』『分析チームの立ち上げ』『データを活用した新規事業』などに分類できる内容。最先端で華やかな取り組みのように思われているが、実際のプロジェクトは“大変地味”である。さまざまな案件に“愚直に”取り組む中で知り得た実談を紹介したい」と語る。

 そもそもDXとは――。IDCやGartner等から様々な定義がされているが、近藤氏は「DXの提唱者であるエリック・ストルターマン氏が掲げた<ITの浸透が、人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させる>に最も共感する。DXでは、テクノロジーを活用したサービスのその先にいる消費者によって、サービスが利用されることを意識することが重要」という。一方、日本では“DXが進んでいない”。近藤氏が紹介した記事では、“政府が率先して支援すべきレベル”であるという。さらに、国内の現状はDX推進どころか『2025年の崖』と言われるシステムリプレースの問題が大手企業の情報システム部の喫緊の優先事項として取り扱われており、政府では投資格付けを行なう制度も検討されていることも紹介。企業の意識調査では82%がDXに対する重要性を認識しながらも、対象は『社内の仕組みづくり』にとどまり、DXの本質である外部との連携や協業などを目的とした『エコシステムづくり』まで意識が及んでいない。

打開策は?「データ活用の目的明確化」と「顧客への価値提供」

 前述した状況のもと、ブレインパッドにDXプロジェクト関連の相談を寄せる担当者の多くは「『AIを使ってDXしろ』と経営陣から言われた」と困惑気味で、「なぜDXを実現するか」の目的理解が薄い傾向にあるという。そこで同社ではまず、目的の整理から行う。具体的には、顧客ビジネスのどこがDXの対象となるのか、「5つのタイプに分類」するモデル(下図参考)を活用しながら対話形式で明確にしていく。このプロセスによりプロジェクトの「やるべきこと」が可視化されるという。例えば、AI導入やシステム構築などの環境整備が解決策となるのか、もしくは人間が知恵を使って企画するのか。DXプロジェクトを進めるためには、目的の明確化が最優先である、と近藤氏は強調する。

DXの目的整理法 出典:ブレインパッド作成[画像クリックで拡大表示]

 食品メーカーのキユーピーは、目視作業を行っていた黒くなったじゃがいもの「選別業務を合理化したい」という目的から、(1)オペレーションのデジタル化にまず取り組んだ。そのPoCで培った検知システムの要素技術公開は、日本の食の発展に貢献し業界全体のスマートファクトリー化を後押しした。さらに業務効率化(デジタル化)により創出した人的リソースを新たな事業に充てるなど、(5)新規デジタルビジネスの創出にも意識が広がったという。

 「既存ビジネスの合理化など明確な目的があるならば邁進すればいい。DXの目的というと、つい『デジタルを活用した新たな事業を創る(図(5))』などと掲げたくなるが、それは人が事業戦略として考えて設計していくもの。プロセスの合理化や業務効率化(図(1、2))などの目的で始めた結果、そこから発展して新たなサービスが生み出されることもある。DXにおけるデータ活用の基本原理は同じであり、それを人間がどう新規事業やイノベーションに結びつけていくか次第」(近藤氏)

 データ活用の基本原理に基づくアプローチには、三つの階層があるという。第一階層は<データ基盤をつくること>、その上に第二階層として<技術基盤を重ねること>、そして最も大切なのが第三階層となる<ビジネス基盤をつくること>だ。データ活用の対象はどのような事業内容で、誰に対してどういったバリューを発揮するのか。単にAIツールを入れただけではデータ活用は実現し得ず、データ活用で実現できるビジネスモデルを構築することではじめて活用の方向性が見えてくる。

 また、環境面の進化でデータ活用が身近な時代に突入したとはいえ、道のりは決して平坦ではない。近藤氏は5Gなどネットワークインフラの進化に伴ってデータが次の5年間で4倍になるものの、分析可能なデータは3%しかないことを紹介。97%の溜まったデータが未活用と化してしまう。溜まったデータから収益を生み出したいという目的から「短絡的なデータ販売」など“勘違い”したデータ活用が生まれることに危惧を示した。

 近藤氏は「データ活用に対するモラルはもちろんながら、蓄積したデータは本来お客様のものという認識を大前提に持つべき。このデータは何より提供するサービスの『付加価値』を生み出すための設計に使われるべき。データの取得は『目的にする』のではなく、得たデータを組み込んだ『トレードオフサービス』に仕立てることが成功の秘訣」と語った。ブレインパッドではそうした新たなビジネスモデル設計についても、銀行や商社、百貨店などと業界を問わず共創型での事業開発に取り組んでいるという。

データ活用プロジェクトが行き詰まる3つの症状と処方箋

 同社には、時に行き詰まったプロジェクトの相談が持ち込まれることもある。近藤氏は、それらの原因を整理し、次の3つの症状を実際にあった案件事例として紹介した。

 まず一つ目は「AI勘違い症」であり、AIツールの導入を目的化してしまうこと。ある会社では、データが蓄積されていない、成型できていないにも関わらず、「AIを使って何かができる」と思い込んでしまっていた。これはデータ活用以前の「分析のプロセス」を最初から理解していないことに起因する。併せて、サポート役となるべく相談先の選定ミスもこの思い込みが是正されなかった状況をつくったと紹介。AIベンチャーはAIのエンジニアリング技術に詳しくともビジネスノウハウには疎い、逆に戦略コンサルファームは、要件定義などの設計は得意とするもののAIの技術選定、データの繊細な取り扱い方法については十分なナレッジを持っていない。すなわち、この類のプロジェクトをリードするためにはビジネス面とAI技術の「両面からサポートが適う座組み」を考えることが必要というわけだ。

 ここで近藤氏は相談先を選ぶ際にまず意識すべきこととして、データ分析の基本である“モデリング以前のプロセス理解”の重要性を強調した。目標設定からデータを準備し、分析設計を行なうまでに、データ分析プロジェクトの内80%の工数がかかるという。

データ分析プロジェクトの工数割合(1) 出典:ブレインパッド作成[画像クリックで拡大表示]

 特に「使えるデータを用意する、仕立てる」ことは存外難しい。提供ポリシーやガイドライン不足、データ抽出が外部ベンダー任せで「使えるデータが手元に届かない」、過去データの紛失やシステムの特殊運用によるデータの属人化、コードの使いまわし等による問題などの「データが読み解けない」ことが、「データ分析以前のボトルネック」になるという。


データ分析プロジェクトの工数割合(2) 出典:ブレインパッド作成[画像クリックで拡大表示]

 この処方箋として、近藤氏は「経営主導での『データガバナンス』推進」の重要性を強調する。データを第四の経営資源と捉え、法規制に対応しつつデータを「使い倒せる」状態へと導くには、各部門任せの運用ではなく、経営陣が先頭に立ち推進していくことが必ず求められるためだ。分析ができなくなるデータの「捨てない」「つなぐ」「隠さない」を避けるためのルールの厳守が不可欠となる。

 そして二つ目の症状として「PoC貧乏症」があげられた。ある会社ではPoCを2社に依頼しその結果を受領したものの、その先どうすればよいか選べなくなったという事例だ。曖昧な依頼内容が原因で、それぞれ精度検証の条件や使用したアルゴリズムが異なり、2社の比較ができない状況を引き起こしていた。最終的に業者選定を「業務理解が深い」として決定したが、ここでは「PoCのアルゴリズムの実用性検証」であるべきだったという。近藤氏は、この処方箋として「そもそも、『データ分析によってどれだけ利益が向上するのか』というビジネス面からの問いが必要だったのではないか」と指摘した。

 三つ目の症状に「ツール依存症」があげられた。これは目的や活用実現性を考えずに流行り先行で導入したツールの効果が出ないことから、他社へのリプレイスばかり考えてしまうこと。たとえば、CDP(Customer Data Platform)で蓄積しつつもデータの有用性を検証しないまま「このデータは使えない」と判断したり、何をもって「効果があった」とするのか曖昧な状態でMAツールそのものを「使えない」と判断したり、ツール導入が目的となってしまうケースが散見される。顧客行動データの収集・蓄積、分析を用いた施策設計、オンラインチャネル接客の「3プロセス」は一体的に考えていくべきだが、マーケターの意識は「オンラインでどんな接客をするか=How(策)」ばかりに目が行き、マーケター本来の「サービス提供目的」や「ターゲット選定」などの「マーケティングそのもの」の再考を見失いがちだという。そして、次から次へと新しいSaaSツールが台頭し、「これができます、あれができます」というベンダーの魅力的なトークも、「ツール依存症」を生み出す一因という。

 近藤氏は、「マーケティングの“三つの基礎“のうち、セグメンテーションにはデジタルの力が発揮されるようになった。しかし、ターゲティング、ポジショニングについては、サービス自体の変遷や消費者行動の変化に沿って考え続け、試行錯誤を続けるほかない」と語る。コミュニケーション、配信手段としてのMAは機能的にはどこも既に充実しているため、それよりもむしろ顧客理解のためのデータ活用を考えるべきというわけだ。

デジタル施策でリアル価値を追求、なぜ取り組むかを明確に

 近藤氏は、これらの症状に陥ることなくDXを推進するためのヒントとして、とある大型商業施設の成功事例をあげた。収益源は来店客による商品の購入というビジネス特性を軸に、デジタルをどう組み込むことが価値の向上につながるのか、施策についての綿密な検討を重ね、「デジタルの直接・間接の貢献効果を可視化すること」「分断したデータを統合する“シングルカスタマビュー”を追求すること」「来場前、来場中、来場後に紐付けたデータ分析を行ない、結果に基づいたコミュニケーションを徹底すること」などをポイントとしてあげた。

 効果検証についても、デジタル施策でありながら成果検証はデジタルに終始せず、リアルでの成果をKPIとして見つめ続けた。来店客の各種行動データをクラウド上のストリーミングデータ処理にかけ、蓄積されたデータとIDを統合し、集客コミュニケーションにつなげる「リアルとデジタルの融合による施策」は大掛かりな戦略設計であり大変先進的だ。経営陣にもこのプロジェクトがビジネスKPI(リピート率、年間LTV)に寄与するものだと理解された。近藤氏は「このプロジェクトの素晴らしい点は、システム構築以上に、『なぜその施策を行うべきなのかをデータで立証』しファクトを示すことで、データリテラシーが低い人たちにも状態を理解してもらい、高い解像度で共通解を求めようとする姿勢であった点。そして、あらゆるところで、まだ見ぬ課題についての仮説を立てて検証を行い潜在的な課題をあぶり出そうとしている点だ」と評した。

 ただし、こうしたデータ活用ができたのも、事例顧客の姿勢に加えて、ブレインパッドのデータサイエンティストの能力とマンパワーがあってこそとも言える。ここまでデータ活用に集中して取り組める会社は多くないだろう。はたしてデータサイエンティストが不在の場合はどうしたらいいのか。近藤氏は「“データ分析の第一歩“が踏み出しやすくなる時代に突入した」と話す。データ分析の民主化が進んでいることも話題にあげた。拡張分析とよばれる新たな概念では、回帰分析を用いて要因を特定し、分析したいテーマを自然言語で指定、その結果を日本語で出力するようなサービスの登場など分析トレンドを紹介した。なお、ブレインパッドからも2019年夏に“BI+AI”を用いた拡張分析領域の新製品「BrainPad VizTact」が登場している。

 そしてもう一つ、民主化に向けた取り組みとして、「データサイエンス職の育成」が紹介された。各企業の人事部と連動し、社員研修や昇格制度への組み込みなどの人事戦略面とデータ活用を連動させる取り組みも増えていることを述べた。日本には未だ1%しかいないというデータサイエンティストを増やす取り組みだけでなく、モデル・ツールを活用した解析ができるシチズンデータサイエンティストや各現場でデータ基盤整備や基礎集計が可能なインフォメーションアナリストなどの支援を通じ、社内に“データを触れる人”を増やしていく。

 最後に近藤氏は「DXの推進には“本質的な目利き”がポイントになる。AIやデータ分析などのバズワードに惑わされることなく、『本来何をすべきか』というビジネスの原点回帰を行なうことが大切だ。ITの進化に伴い、いろいろなツールがでているが、ツールはあくまで手段であることを忘れてはならない。ツールで『楽になる』ことだけではなく、『何のために』また『誰のために』ツールを使うのかを考えることが求められる時代になる」と語り、締めの言葉とした。

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