SHOEISHA iD

※旧SEメンバーシップ会員の方は、同じ登録情報(メールアドレス&パスワード)でログインいただけます

EnterpriseZine(エンタープライズジン)編集部では、情報システム担当、セキュリティ担当の方々向けに、EnterpriseZine Day、Security Online Day、DataTechという、3つのイベントを開催しております。それぞれ編集部独自の切り口で、業界トレンドや最新事例を網羅。最新の動向を知ることができる場として、好評を得ています。

最新イベントはこちら!

EnterpriseZine Day Special

2024年10月16日(火)オンライン開催

EnterpriseZine(エンタープライズジン)編集部では、情報システム担当、セキュリティ担当の方々向けの講座「EnterpriseZine Academy」や、すべてのITパーソンに向けた「新エバンジェリスト養成講座」などの講座を企画しています。EnterpriseZine編集部ならではの切り口・企画・講師セレクトで、明日を担うIT人材の育成をミッションに展開しております。

お申し込み受付中!

EnterpriseZine Press

【緊急寄稿】新型コロナウイルスで今後企業に求められる対応とは


 中国・武漢で発症したとされるコロナウイルスによる新型肺炎の問題が企業にも大きな影響を与えつつあります。新型コロナウイルスの正体と、今後必要となる企業の対応について、企業のリスクコンサルティングに携わるニュートン・コンサルティングの勝俣良介氏の緊急寄稿をお届けする。

はじめに

 世界中の関心が新型コロナウイルスに集中しています。中国の武漢市を中心に感染が拡大し、日本でも感染者が出始めました。企業にも影響が出ています。コーヒーチェーン大手の米スターバックスは中国国内の半分の店舗を閉めました。中国に工場を持つ大手自動車メーカーも、駐在社員やその家族を退去させ、国内からの海外渡航を制限しています。メディアは感染者数や感染者の状況、企業対応について、毎時間のようにニュースを更新しています。ややもすると情報過多とも言える状況下において、正確な判断をしにくくなっている方も多いのではないでしょうか。そこで「感染者数が何月何日に何人出た」とか「どの企業がいつ閉鎖した」などといった細かいニュースは他のメディアにお任せするとして、本稿では基本的な事実のみに着目し、今、何が起きていて、これから何が起ころうとして、今後、企業はどのような対応を考えることが望ましいのかについて、分かりやすく解説していきたいと思います。

コロナウイルスとは

 まずはじめに基礎知識を押さえておきましょう。そもそもコロナウイルスとは何でしょうか。これは、私達の日常生活において風邪を引き起こしているウイルスです。皆さんもよくご存知の比較的軽度な症状で治まるウイルスであり、人の命まで脅かすものではありません。

 しかし、ごくまれに重症化するウイルスが生まれることがあります。重症化するウイルスはこれまでに2種類が発見されています。その1つが、SARSコロナウイルス(SARS-CoV:重症急性呼吸器症候群)で世の中では一般的にSARSと呼ばれています。そしてもう1つが、MERSウイルス(MERS-CoV:中東呼吸器症候群)です。重症化の程度はウイルスにより異なりますが、SARSは2002〜2003年頃に特に中国で猛威を奮い数千人が罹患し、800人弱の命を奪いました[1]。これは致死率にして9.6%、感染者の約10人に1人が亡くなる計算です。

 そして今回、重症化する3番目のウイルスが発見されました。それが今世間を賑わせている新型コロナウイルスです。

新型コロナウイルスの特徴と今後

 新型コロナウイルスの特徴はどのようなものでしょうか。現時点で分かっているのは次のようなことです。(罹患者についてはここ数日だけでも千人単位で増えており、本稿を目にされるときには10,000人を超えている可能性もあります)

  • 感染力は1.4 〜 2.5(罹患者が他の人を感染させる平均人数のこと。SARSは2〜4[2]でした。風疹が5〜7[3]、例年流行する一般的なH1N1インフルエンザは1.4〜1.6[4])
  • 致死率は約2%(罹患者7,809人死者170人。2020年1月30日現在のデータ[5]に基づく。変異しているという話もあり、今後、変わる可能性があります)
  • 潜伏期間は2日から最大14日間[6]
  • 主な症状は咳、下痢、高熱、呼吸困難(ただし、発熱しない場合もある) ※2020年1月30日現在

 新型コロナウイルスの蔓延を受け、香港政府は中国本土との境界の多くを一時的に閉鎖するなど、封じ込めのための水際対策が各国・各地域で進められています。しかし、新型コロナウイルスが毎年流行する一般的なインフルエンザと同程度の感染力であること、また、ワクチンが未開発であることを鑑みると、寒さが続く2月〜3月にかけてより一層の感染拡大が想定されます。なお、寒い時期に感染拡大が起こりやすいのは、冬の寒さで体温が下がると、体の抵抗力が弱り、空気中に浮遊しているウイルスが口や鼻から体内に侵入しやすくなるためです。

今後想定される事態と企業に求められる対応とは

 対策を考える上ではまずシナリオを考えることが有効です。今後、想定されるシナリオは2つです。楽観的なシナリオとしては2002年〜2003年のSARSのときのように感染者数が増大するものの、日本への影響は最小限で、暖かくなるにつれ罹患者が減少し夏前に封じ込めに成功し事態が収束する可能性です。ただし、SARSのときは5月時点で感染者数が6,000例でしたが、今回は1月末時点でこの件数を超える勢いです。そこでもう1つの悲観的なシナリオですが、最悪の場合、日本でも中国本土のように爆発的に感染者が増え、不要不急の外出禁止や施設閉鎖はもちろんのこと、都心のビジネスが数週間にわたり事業停止に追い込まれる可能性が考えられます。では会社としての最悪の事態は何でしょうか。

 会社として特に対策を取らない▶社内に感染者が出る▶本人が感染したことに気づかず通常業務を続ける▶打ち合わせ等で他の社員や顧客に感染させる▶感染した別の社員が同様に他の社員にうつす▶2週間後、感染者が数十人単位で増え始める(咳をする者があちこちに出始める)▶一部の社員で重症化、部署全員が感染、社員の家族が亡くなる、というケースも出る▶事務所を閉鎖し事業を2週間完全停止する▶︎主要取引先が一部取引を他社に切り替える▶︎景気の先行きが見えず一部の受注契約が解除▶︎お粗末な対応にメディアが騒ぎ始める……

 上記のような状態に陥らないためにも、企業としてできる対策を打っておくことが必要です。具体的には、次のような対策が考えられます。

モニタリングの強化

  • 社員や家族の検温や健康状態の確認・報告の徹底
  • ウイルスの性質や感染拡大状況などの情報収集
  • この機会に便乗して社員がSNSなどで不適切な情報発信をしていないかを確認する風評モニタリング

社員の意識・知識向上

  • 社内にデマを流したり、差別をしたり、誤った対策を打ったり、パニックを起こすような過剰な対応を取ったりしないよう、ウイルスや対応に関する正確な情報共有

感染機会の抑制

  • 外出の抑制
  • 在宅勤務などの奨励
    • 海外渡航・出張やお客様先訪問・来社受け入れの制限
  • 休暇取得の奨励
    • 人的接触の抑制
  • テレビ会議
  • 通勤時間の変更
    • 人や施設の衛生面の強化
  • 手洗い・うがいの徹底
  • 「N95」規格マスク装着の徹底

社内の人命保護・事業継続に関わるルールの再確認とその実行準備

  • 社員や家族の感染者・濃厚接触者対応ルールの再確認と周知徹底
  • 人員稼働可能率が半減するなど異常事態となった場合の、BCPの発動(通常とは異なる業務形態に切り替えるため)の基準や、BCP発動時の対応の再確認と周知徹底
  • 事業中断となった場合を想定したキャッシュフローの確認と銀行への早めの相談

最後に

 「喉元過ぎれば熱さを忘れる」と言います。今はまさに新型コロナウイルスが喉元近くにいる状態で、目の前の対応を確実に行うことが大切です。しかし、できることならばその後のことも見据えた、すなわち、喉元を過ぎた後の熱さを忘れないための対策についても早い段階から意識しておくことをお勧めします。

具体的には、

  1. 新型コロナウイルス対応のために、社員に出した指示やそのタイミングなどの記録を残しておく
  2. 世の中の動向を記録しておく
  3. 事態が収束に向かったときに総括をする報告書が各所から公表されると思いますので、それらと合わせ、社内の振り返りを行い来るべき将来の強毒性新型インフルエンザや新型コロナウイルスに備えて対策を強化しておく

といったことです。

企業の皆さんは、日々入る情報に一喜一憂したり踊らされたりすることなく、冷静に状況を観察し、本稿で紹介した対策を踏まえ、できることから手を打っていきましょう。

[1] https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/414-sars-intro.html
[2] Consensus document on the epidemiology of severe acute respiratory syndrome (SARS) P.24
[3]https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/rubella/index.html
[4] https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19545404
[5] https://www.bloomberg.com/graphics/2020-wuhan-novel-coronavirus-outbreak/
[6] https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/dengue_fever_qa_00001.html

この記事は参考になりましたか?

  • Facebook
  • X
  • Pocket
  • note
EnterpriseZine Press連載記事一覧

もっと読む

この記事の著者

勝俣 良介 (カツマタ リョウスケ)

ニュートン・コンサルティング株式会社
取締役副社長 兼 プリンシパルコンサルタント
早稲田大学卒。オックスフォード大学経営学修士(MBA)日本にてITセキュリティスペシャリストとして活躍後、2001年に渡英しNEWTONITへ入社。欧州向けセキュリティソリューション部門を立ち上げ、部門長...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

この記事は参考になりましたか?

この記事をシェア

EnterpriseZine(エンタープライズジン)
https://enterprisezine.jp/article/detail/12709 2020/02/01 10:24

Job Board

AD

おすすめ

アクセスランキング

アクセスランキング

イベント

EnterpriseZine(エンタープライズジン)編集部では、情報システム担当、セキュリティ担当の方々向けに、EnterpriseZine Day、Security Online Day、DataTechという、3つのイベントを開催しております。それぞれ編集部独自の切り口で、業界トレンドや最新事例を網羅。最新の動向を知ることができる場として、好評を得ています。

新規会員登録無料のご案内

  • ・全ての過去記事が閲覧できます
  • ・会員限定メルマガを受信できます

メールバックナンバー

アクセスランキング

アクセスランキング