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【緊急寄稿】新型コロナウイルスで今後企業に求められる対応とは

edited by Security Online   2020/01/30 16:00

 中国・武漢で発症したとされるコロナウイルスによる新型肺炎の問題が企業にも大きな影響を与えつつあります。新型コロナウイルスの正体と、今後必要となる企業の対応について、企業のリスクコンサルティングに携わるニュートン・コンサルティングの勝俣良介氏の緊急寄稿をお届けする。

はじめに

 世界中の関心が新型コロナウイルスに集中しています。中国の武漢市を中心に感染が拡大し、日本でも感染者が出始めました。企業にも影響が出ています。コーヒーチェーン大手の米スターバックスは中国国内の半分の店舗を閉めました。中国に工場を持つ大手自動車メーカーも、駐在社員やその家族を退去させ、国内からの海外渡航を制限しています。メディアは感染者数や感染者の状況、企業対応について、毎時間のようにニュースを更新しています。ややもすると情報過多とも言える状況下において、正確な判断をしにくくなっている方も多いのではないでしょうか。そこで「感染者数が何月何日に何人出た」とか「どの企業がいつ閉鎖した」などといった細かいニュースは他のメディアにお任せするとして、本稿では基本的な事実のみに着目し、今、何が起きていて、これから何が起ころうとして、今後、企業はどのような対応を考えることが望ましいのかについて、分かりやすく解説していきたいと思います。

コロナウイルスとは

 まずはじめに基礎知識を押さえておきましょう。そもそもコロナウイルスとは何でしょうか。これは、私達の日常生活において風邪を引き起こしているウイルスです。皆さんもよくご存知の比較的軽度な症状で治まるウイルスであり、人の命まで脅かすものではありません。

 しかし、ごくまれに重症化するウイルスが生まれることがあります。重症化するウイルスはこれまでに2種類が発見されています。その1つが、SARSコロナウイルス(SARS-CoV:重症急性呼吸器症候群)で世の中では一般的にSARSと呼ばれています。そしてもう1つが、MERSウイルス(MERS-CoV:中東呼吸器症候群)です。重症化の程度はウイルスにより異なりますが、SARSは2002〜2003年頃に特に中国で猛威を奮い数千人が罹患し、800人弱の命を奪いました[1]。これは致死率にして9.6%、感染者の約10人に1人が亡くなる計算です。

 そして今回、重症化する3番目のウイルスが発見されました。それが今世間を賑わせている新型コロナウイルスです。

新型コロナウイルスの特徴と今後

 新型コロナウイルスの特徴はどのようなものでしょうか。現時点で分かっているのは次のようなことです。(罹患者についてはここ数日だけでも千人単位で増えており、本稿を目にされるときには10,000人を超えている可能性もあります)

  • 感染力は1.4 〜 2.5(罹患者が他の人を感染させる平均人数のこと。SARSは2〜4[2]でした。風疹が5〜7[3]、例年流行する一般的なH1N1インフルエンザは1.4〜1.6[4])
  • 致死率は約2%(罹患者7,809人死者170人。2020年1月30日現在のデータ[5]に基づく。変異しているという話もあり、今後、変わる可能性があります)
  • 潜伏期間は2日から最大14日間[6]
  • 主な症状は咳、下痢、高熱、呼吸困難(ただし、発熱しない場合もある) ※2020年1月30日現在

 新型コロナウイルスの蔓延を受け、香港政府は中国本土との境界の多くを一時的に閉鎖するなど、封じ込めのための水際対策が各国・各地域で進められています。しかし、新型コロナウイルスが毎年流行する一般的なインフルエンザと同程度の感染力であること、また、ワクチンが未開発であることを鑑みると、寒さが続く2月〜3月にかけてより一層の感染拡大が想定されます。なお、寒い時期に感染拡大が起こりやすいのは、冬の寒さで体温が下がると、体の抵抗力が弱り、空気中に浮遊しているウイルスが口や鼻から体内に侵入しやすくなるためです。

今後想定される事態と企業に求められる対応とは

 対策を考える上ではまずシナリオを考えることが有効です。今後、想定されるシナリオは2つです。楽観的なシナリオとしては2002年〜2003年のSARSのときのように感染者数が増大するものの、日本への影響は最小限で、暖かくなるにつれ罹患者が減少し夏前に封じ込めに成功し事態が収束する可能性です。ただし、SARSのときは5月時点で感染者数が6,000例でしたが、今回は1月末時点でこの件数を超える勢いです。そこでもう1つの悲観的なシナリオですが、最悪の場合、日本でも中国本土のように爆発的に感染者が増え、不要不急の外出禁止や施設閉鎖はもちろんのこと、都心のビジネスが数週間にわたり事業停止に追い込まれる可能性が考えられます。では会社としての最悪の事態は何でしょうか。

 会社として特に対策を取らない▶社内に感染者が出る▶本人が感染したことに気づかず通常業務を続ける▶打ち合わせ等で他の社員や顧客に感染させる▶感染した別の社員が同様に他の社員にうつす▶2週間後、感染者が数十人単位で増え始める(咳をする者があちこちに出始める)▶一部の社員で重症化、部署全員が感染、社員の家族が亡くなる、というケースも出る▶事務所を閉鎖し事業を2週間完全停止する▶︎主要取引先が一部取引を他社に切り替える▶︎景気の先行きが見えず一部の受注契約が解除▶︎お粗末な対応にメディアが騒ぎ始める……

 上記のような状態に陥らないためにも、企業としてできる対策を打っておくことが必要です。具体的には、次のような対策が考えられます。

モニタリングの強化

  • 社員や家族の検温や健康状態の確認・報告の徹底
  • ウイルスの性質や感染拡大状況などの情報収集
  • この機会に便乗して社員がSNSなどで不適切な情報発信をしていないかを確認する風評モニタリング

社員の意識・知識向上

  • 社内にデマを流したり、差別をしたり、誤った対策を打ったり、パニックを起こすような過剰な対応を取ったりしないよう、ウイルスや対応に関する正確な情報共有

感染機会の抑制

  • 外出の抑制
  • 在宅勤務などの奨励
    • 海外渡航・出張やお客様先訪問・来社受け入れの制限
  • 休暇取得の奨励
    • 人的接触の抑制
  • テレビ会議
  • 通勤時間の変更
    • 人や施設の衛生面の強化
  • 手洗い・うがいの徹底
  • 「N95」規格マスク装着の徹底

社内の人命保護・事業継続に関わるルールの再確認とその実行準備

  • 社員や家族の感染者・濃厚接触者対応ルールの再確認と周知徹底
  • 人員稼働可能率が半減するなど異常事態となった場合の、BCPの発動(通常とは異なる業務形態に切り替えるため)の基準や、BCP発動時の対応の再確認と周知徹底
  • 事業中断となった場合を想定したキャッシュフローの確認と銀行への早めの相談

最後に

 「喉元過ぎれば熱さを忘れる」と言います。今はまさに新型コロナウイルスが喉元近くにいる状態で、目の前の対応を確実に行うことが大切です。しかし、できることならばその後のことも見据えた、すなわち、喉元を過ぎた後の熱さを忘れないための対策についても早い段階から意識しておくことをお勧めします。

具体的には、

  1. 新型コロナウイルス対応のために、社員に出した指示やそのタイミングなどの記録を残しておく
  2. 世の中の動向を記録しておく
  3. 事態が収束に向かったときに総括をする報告書が各所から公表されると思いますので、それらと合わせ、社内の振り返りを行い来るべき将来の強毒性新型インフルエンザや新型コロナウイルスに備えて対策を強化しておく

といったことです。

企業の皆さんは、日々入る情報に一喜一憂したり踊らされたりすることなく、冷静に状況を観察し、本稿で紹介した対策を踏まえ、できることから手を打っていきましょう。

[1] https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/414-sars-intro.html
[2] Consensus document on the epidemiology of severe acute respiratory syndrome (SARS) P.24
[3]https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/rubella/index.html
[4] https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19545404
[5] https://www.bloomberg.com/graphics/2020-wuhan-novel-coronavirus-outbreak/
[6] https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/dengue_fever_qa_00001.html



著者プロフィール

  • 勝俣 良介 (カツマタ リョウスケ)

    ニュートン・コンサルティング株式会社 取締役副社長 兼 プリンシパルコンサルタント 早稲田大学卒。オックスフォード大学経営学修士(MBA) 日本にてITセキュリティスペシャリストとして活躍後、2001年に渡英しNEWTONITへ入社。欧州向けセキュリティソリューション部門を立ち上げ、部門長としてISMSの構築をはじめとしたセキュリティビジネスを軌道に乗せた。 2006年、副島と共にニュートン・コンサルティングを立ち上げ、取締役副社長に就任。自社サービスの品質管理、新規ソリューション開発を率いる。コンサルタントとしても、その柔軟且つ的確なコンサルティング手法には定評があり、幅広い業界/規模のお客様に支持されている。全社的リスクマネジメント(ERM)、BCP・危機管理、ISO、コーポレートガバナンス、ITガバナンス、JS0X対応、セキュリティ対応など幅広いコンサルティングスキルを有する。 著書『世界一わかりやすいリスクマネジメント』『ISO22301徹底解説−BCP・BCMSの構築・運用から認証取得まで』

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