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「ITに詳しくない人のためのDX本」を書いた西田さんに訊く──DXで何が変わるのか

 デジタルトランスフォーメーション(DX)の重要性は多くの企業経営者が認識していることであろう。その一方で、DXという言葉は一般のビジネスパーソンには、なかなか難しいようだ。2019年11月に刊行された『デジタルトランスフォーメーションで何が起きるのか 「スマホネイティブ」以後のテック戦略』は、この問いに正面から挑み、DXがもたらす価値に焦点を当てた本である。著者でテクノロジーに精通するITジャーナリストの西田宗千佳氏に、必読のポイントを尋ねた。

フリージャーナリスト 西田宗千佳氏/デジタルトランスフォーメーションで何が起きるのか 「スマホネイティブ」以後のテック戦略 (講談社)

フリージャーナリスト 西田宗千佳氏/
『デジタルトランスフォーメーションで何が起きるのか 「スマホネイティブ」以後のテック戦略 』(講談社)

企業がデジタルでどう変わったのか

――著書の中では「デジタルトランスフォーメーション(DX)」という言葉に批判的でしたが、執筆にあたってはどんなスタンスで取材を進めたのでしょうか。

 ターゲットとして意識したのは、システムの知識がない読者です。私自身がキーワードマーケティングに関わってきた立場にいて、過去を振り返ると、同じ現象を少しずつ違う言葉で表現してきたように思います。新しいテクノロジーで変革を促すことは、以前であれば「IT化」と呼んでいたはずですが、現在はDXと呼ばれています。本当はDXで企業に何が起きるのかを理解した上で、自社でどうかを考える必要があるのですが、それができない。

 DXという言葉の定義にこだわりすぎると、実際に起きている現象を理解できなくなるんですね。実際にエンタープライズITを専門としていて、業務改革に関わっている人の理解には問題はないと思いますが、経営層や一般人はキーワードから入るので、理解が中途半端になりやすい傾向があるのです。ですから、今回の本の企画では、言葉の定義に拘泥することを止めました。

 DXで何が起きるのかについては、業種によっても、企業規模によっても違います。だとすると、使っているシステムは似ていても、業務改革でやるべきことが同じではない可能性があるわけです。そんな「エラスティック(幅のある)」な状況がDXの本質と考えたので、できるだけ共感を持ってもらえるよう、大きな会社の事例を重点的に取り上げ、それぞれの企業がどう変わったかを理解してもらいたいと思いました。

――取材にあたってはアドビの協力の他、アドビユーザーである日本航空(JAL)、アスクル(LOHACO)、三井住友カード、そして金融スタートアップのFinatext(フィナテキスト)を取り上げてらっしゃいます。これらの企業を選んだ条件は何だったのでしょうか。

 取材しやすいこと、かつDXの方向性が変わっていないことを重視しました。事例紹介はITを知らない人向けに理解しやすい順に並べています。読んでもらってすんなり頭に入るなら狙い通りですし、階段を上がるように理解を深めてもらえればうれしいです。

 その意味で、業務系のシステムを知っている人には初歩的な内容かもしれません。ITに詳しい人たちに言いたいのは、経営層や一般人は、ツールを導入して業務改革をすることがどんなことかがわからない人たちの方が多数派だということです。例えば、Webサイトの管理でCMS(Contents Management System)を導入するのと、ゼロから立ち上げるのではどちらもソフトウェアを使っていると考えてしまうんですね。きちんと理解している人であれば、CMSを導入すれば働いている人が楽になるし、コンテンツの品質も上がるとわかります。でも十分な理解がないと、「CMSにコストをかける意味があるか」という残念な判断をされてしまうことになりかねません。その意味ではすごく手前に戻って、事例を挙げながら、業務変革とは何かを丁寧に説明したつもりです。

輪郭が明らかになるにつれて浮かび上がってきたDXの本質

――最近の大企業の中期経営計画では、DXという言葉が必ず出てきます。そんな会社の経営層は必ずしもわかっている人たちばかりではなさそうですね。

 その通りです。でも、その中に具体的に何をやるかまでは書いていないのではありませんか。三井住友カードのように、カード会社としてのデジタルツールの活用方針を明確に示しているでしょうか。本の中では取り上げていませんが、トヨタも自分たちのプロモーションでデジタルツールをどう使うかを決め、業務変革に取り組んでいます。一方、単なる業務効率の向上をDXだとしていると、ベンダーの食い物にされることにつながりかねない。結局、経営層、現場レベルで何をどう変えるか。ツールを導入するならどのビジネスプロセスを改善するか。その発想で実践ができれば、今時デジタルツールを導入しないはずがないので、結果的にDXになるでしょう。ツールの導入ありきではなく、経営課題の解決のためにツールを導入したという順番にしなくてはなりません。

――今の話を聞くと、DXの本質自体は書く前からある程度見えていたように思います。

 そうですね。私は製造業と話す機会が多いのですが、自分たちのビジネスプロセスのビルディングブロックの組み替えを実施した会社としなかった会社で、明暗が分かれたと見ています。実施しなかった会社は、人件費が安い会社やもっと大きな投資をした会社に対して劣勢に立たされていますが、ビジネスプロセスを変えたところは違います。その意味で、世の中で言われているDXを言語化まではできていませんでしたが、ぼんやりとは掴んでいたと思います。取材を通じて、私が考えたDXの姿からそれほど外れていないという確信が得られましたし、その後は少しずれていたところを微調整してストーリーを作るだけでした。

――微調整したというのは、具体的にどんなことですか。

 ツール導入後のプロセスが試行錯誤を繰り返すことです。当初、私はあまり試行錯誤をしなくてもゴールに行き着くものだと考えていました。企業側が変革のグランドデザインを描けていたら、調整はあるとしても一山か、せいぜい二山を越えるぐらいだろうと思っていたんですね。でも実際は、導入した後も度重なる紆余曲折がありました。むしろ、データの読み方やビジネスプロセスがその都度変化する方が当たり前で、変われることがDXのポイントだと言ってもいいくらいです。スモールスタートで始めてスケールアウトさせることも含め、DXでは、エラスティックにデータの読み方、ビジネスプロセス、システムのビルディングブロックを変えられるかが重要で、試行錯誤が不可欠であるという認識がより深まりました。

 例えば、アドビでは2012年にCreative Cloudをリリースして以降、今に至るまで内部のシステムが変わり続けています。変われたということは、変革がうまく離陸できたということですよね。それにもかかわらず、次に変わらなくてはならない時が来るまでその形を維持するのではなく、データの読み方、組織体制、システムの使い方に至るまでを数回にわたって変えています。三井住友カードもそうですし、アスクルはもっと頻繁に変更しています。スタートアップのFinatextは一人がその都度仕組みの運用を変えています。

 業務改革とは、変化し続けることだというイメージを持っている人がどれだけいるでしょうか。デジタルツールを導入したからこそ変わり続けられる。その理解はさほど浸透していません。各社の紆余曲折を書くことで、DXが連続的な変化だということを改めて認識しました。

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この記事の著者

冨永 裕子(トミナガ ユウコ)

 IT調査会社(ITR、IDC Japan)で、エンタープライズIT分野におけるソフトウエアの調査プロジェクトを担当する。その傍らITコンサルタントとして、ユーザー企業を対象としたITマネジメント領域を中心としたコンサルティングプロジェクトを経験。現在はフリーランスのITアナリスト兼ITコンサルタン...

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