Shoeisha Technology Media

EnterpriseZine(エンタープライズジン)

EnterpriseZine(エンタープライズジン)

テーマ別に探す

「ITに詳しくない人のためのDX本」を書いた西田さんに訊く──DXで何が変わるのか

edited by Operation Online   2020/02/14 06:00

裏側で活躍するIT部門

フリージャーナリスト 西田宗千佳氏

フリージャーナリスト 西田宗千佳氏

――スモールスタートの話が出たところで、ゴールを描くことの重要性を確認したいです。

 ゴールとは数字目標ではなく、解決したい経営課題だと思います。それを実現する方法は一つでなくてもいい。JALの場合、CMS導入の目的は品質の悪化を改善することでした。繰り返し作業を減らし、マスターコンテンツの制作に費やす時間を増やすことで、結果的に時短とコスト削減を両方実現できましたが、ゴールとしての方向性は決まっていたものの、解決のアプローチは変えているし、試行錯誤もしています。三井住友カードの場合のゴールは、当初はWebサイトをわかりやすくすることでしたが、顧客接点を増やし、コミュニケーションの頻度を増やすことに変わりました。ゴールは変わりましたが、経営課題から本質的に外れているわけではありません。「課題の再発見」を行ったわけで、そうなると解決のアプローチを変える必要がありますが、それでいいんです。

 スモールスタートのいいところは、最初の導入費用が安いことです。最初に解決しようとした課題のベクトルは、再発見することになる本来の課題と同じでしょうし、目的と手段が入れ替わるリスクは小さいと思いますよ。

――今の意見はIT部門に示唆を提供しそうです。著書の中では、IT部門の存在感が薄かったと思いますが、それは意図的にしたことですか。

 事例紹介では、経営課題を持つ部門がIT部門と連動し、IT部門にツールの良し悪しを判断してもらうという構図を前提にしています。IT部門の存在感が希薄になりましたが、本当は大活躍していると考えています。経営課題を解決するための道筋を明らかにし、適切なツールを選ぶ権利を持っているのはビジネス部門ですが、適切なツールを判断する上でIT部門の能力は必須だからです。

 スモールスタートができるということは、間違ったと思ったら、正しい方向に戻ることができることでもあります。スケールさせるか、ピボットするかです。ピボットできないとすると、うまくいかないことがIT部門の責任になるからかもしれません。その意味で、今回の取材先の会社で失敗の責任論を口にする人は誰もいないのが特徴的でした。ビジネス部門とIT部門の間の関係が健全なものであるからこそDXを進めることができるのだと思います。一方で、バランスが崩れていて、IT部門が無視されているような会社ではおそらく難しいでしょうね。

失敗も共有するべきノウハウのうち

――この本で取材した企業の共通点はどこにあると思いますか。

 失敗を語ることを恥ずかしいと思っていないことです。変化し続けるからだと思いますが、話を聞いた会社の人たちは、やってみて、うまく行かなかったことや思っていたことと違ったことを語ることを躊躇しなかった。むしろ、失敗したことも含めて他の人たちに知ってほしいという気持ちが強いという共通点を感じました。

 自分たちができたことは他の会社でもできる。その知見を共有するための場がユーザー会です。何かのノウハウを得ようとすると、通常は成功事例を参考にすると思いますが、アドビがB2B向けに提供しているMarketo Engageのユーザー会では成功だけでなく失敗も共有するのが特徴です。製品チームがサポートするよりも、ユーザー同士で情報共有を促した方がうまくツールを活用できる。ユーザー会に集まる人たちは、それぞれが業種も違えば、部署や職責もバラバラです。経営層との関係も違うでしょう。

 ソフトウェアエンジニアリングの世界ではオープンソースの文化が根付いています。仮に間違っていたとしても個人のミスではありません。ツールの導入でも同じことが言えるのは発見でした。失敗もノウハウの一部で、共有することは全部プラスになるのです。

 今、経営層やビジネス部門との関係に悩んでいるとしたら、IT部門から歩み寄ることを勧めます。経営層は技術のことをわかっていないので難しくても、技術を理解した上で別の言葉で説明することはできるはずです。



著者プロフィール

  • 冨永 裕子(トミナガ ユウコ)

     IT調査会社(ITR、IDC Japan)で、エンタープライズIT分野におけるソフトウエアの調査プロジェクトを担当する。その傍らITコンサルタントとして、ユーザー企業を対象としたITマネジメント領域を中心としたコンサルティングプロジェクトを経験。現在はフリーランスのITアナリスト兼ITコンサルタントとして活動中。ビジネスとテクノロジーのギャップを埋めることに関心があり、現在はマーケティングテクノロジーを含む新興領域にフォーカスしている。

バックナンバー

連載:DX最前線
All contents copyright © 2007-2020 Shoeisha Co., Ltd. All rights reserved. ver.1.5