エンジニアをはじめとするビジネスマンにとって必要なのは、病気や病名の細かな知識ではありません。心の病気(メンタル不全)が、チームとプロジェクトにどのような悪影響を及ぼすかを理解することがポイントになります。 今回はメンタル不全がビジネスに及ぼす影響を、数が最も多い(80%)うつ病を中心に述べます。
メンタル不全の負の連鎖
まず、メンタル不全は個人だけでなく、なぜチーム全体に損失をもたらすのかを図解するとこのようになります(図1)。

①出発点は寝不足とストレス
うつ病は長時間勤務による寝不足を土台に各種のストレスが加わった結果、脳が疲労状態になって起こる病気です。神経細胞の間で情報を伝達する物質(神経伝達物質)であるセロトニンやノルアドレナリンが足りなくなって発病します。
もちろんストレスは誰にもあります。ストレスの全くない人間とは、文字通り生きていない人間です。ストレスを適切に処理し、乗り越えていくことで人は成長するわけですが、度を過ぎれば心身を破壊することになります。
②発病初期は不眠症とミス・能率低下
発病すると、不思議なことに、寝不足であるにもかかわらず眠れなくなくなります。寝つくまでに30分以上かかる、何回も目が覚めて眠りが浅い、朝早く目が覚める、などの不眠症になります。
うつ病の具体的な症状については次回に述べますが、ここでは不眠症がポイントであることを、まず理解してください。
さらに大事なことは、集中力と判断力が落ちて、本来持っているはずのスキルやノウハウが発揮できなくなり能率が低下していきます。同時に注意力が低下してミスが増えていきます。これは知識やスキル不足が原因でおこすミスではなく、ケアレスミスといえるものです。「彼らしくないミスが、この頃増えてきた」という場合はメンタル不全の始まりかもしれません。
以上の結果、さらに仕事に時間がかかるようになり、脳の疲労が加速して病気が進んでいきます。
慢性的な寝不足や不眠症の人は「メンタル不全予備軍」と言えますが、彼らの能率も落ちて判断ミスも増えています。ただ、うつ病ほどの注意力低下はないので、ミスをしたことに気づくのです。5時間未満の睡眠不足が続くと、ケアレスミスが1.5~1.7倍に増えるという研究もあります。
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鈴木 安名(スズキ ヤスナ)
(財)労働科学研究所 主任研究員 医学博士(産業医、内科医)。旭川医科大学卒業。メンタルヘルス研究の成果にもとづき、企業の対策をサポート。著書は「人事・総務担当者のためのメンタルヘルス読本」(財)労働科学研究所出版部など多数。モットーは「現場のビジネスマンから学ぶ」。著者のサイト:職場のメンタルヘルス
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