この連載では、日本企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)を阻む要因を掘り下げ、経営者、顧客、従業員のための「共創型DX」の考え方を紹介する。第2シリーズでは「カイゼンDX ~現場が誇りを取り戻し業績が向上するIT経営の変革」と題し、DXが経営の改善と業績の向上につながるメカニズムを紹介する。第12回の今回は、著者の関わった事例を踏まえた変革プロジェクトの紹介の後編となる。
「モノ発想」の提供型、「コト発想」の経験価値型
前回、P社の経験価値型への変革にあたっての最大の障壁は、現場スタッフが、どのようにして経験価値型に求められるマインドセットやスキルを取得できるかにあると述べました。経験価値型に求められるマインドセットやスキルとは何でしょうか。提供型とどう違うのでしょうか。本連載の主な読者はITシステムの開発運用に携わっている方が多いので、その領域で馴染み深い用語を使って2つの型の違いを検討します。

図1:提供型と経験価値型の比較
提供型の特徴を「テクノロジー中心、モノ発想、分析思考」であらわすことができます。この特徴を顕著に備えたプロセスの型が、今回、事例として取り上げる「ウォーターフォール型」(以降、WF型)の開発プロセスであり「分析思考」のアプローチです。
一方、経験価値(共創)型の特徴は「人間中心、コト発想、共創(共感)思考」であらわすことができます。経験価値型の事例として「アジャイル型」(以降、AG型)や「デザイン思考」のアプローチを取り上げます。
日本で主流のウォーターフォール型開発プロセス

図2:ウォーターフォール型のプロセス
米国では、300万人のIT技術者が居て、そのうちの7割がIT利用企業側、残り3割がベンダー側にいると言われてます。それに対して、日本では100万人のIT技術者の3割がIT利用企業側、残り7割がベンダー側となり、ほぼ逆転しています。これは日本ではIT利用企業がITベンダーに依存する傾向が強いことを意味しています。ITベンダーは、SI(システムインテグレーション)ビジネスモデルと呼ばれる利用企業とベンダー間で請負契約を結ぶ商習慣が主流となっています。「請負契約」では、業務の請負人であるITベンダーは、仕事の完成に対して結果責任を負わなくてはなりません。
日本では、ITベンダーが成果物(=モノ)の完成を目指して工程管理するWF型が主流です。一方、欧米の大企業が戦略的なIT投資(DX)を行う場合、企画も業務設計もIT要件定義も設計や実装も運用も、IT利用企業が「自分でやるのが当たり前」です。パッケージアプリを活用した基幹システムや、実装工程は工数が膨らむためアウトソーシングすることがありますが、戦略的なIT投資は自分で全部やります。基幹システムの開発や運用支援がITベンダーの主要なミッションである日本とはかなり異なる商習慣です。欧米企業では要件の変更に対して柔軟性が高いAG型が普及していますが、WF型を前提とする請負契約が普及している日本ではAG型に取り組むことができない状況があります。
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- 経営変革としての共創型DXの実践(その2)
- 経営変革としての共創型DXの実践(その1)
- DXを経営変革に活かすために必要なこと(後編)
- この記事の著者
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宗 雅彦(ソウ マサヒコ)
株式会社サイクス代表
UNIXオペレーティングシステムの開発業務に従事後、オムロンのシリコンバレー・オフィスに駐在。ITベンチャーの先端リサーチ・発掘・投資・事業開発推進業務を経験し独立。DXをIT経営の変革と定義し、現場力のDXと未来創造のDXのふたつの観点から、企業の現場変革と顧客創造の推進支援に取り組む。
株式会社サイクス http://www.cyx.co.jp※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
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