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共創型DX

DXを経営変革に活かすために必要なこと(後編)

#10 カイゼンDX ~現場が誇りを取り戻し業績が向上するIT経営の変革

 この連載では、日本企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)を阻む要因を掘り下げ、経営者、顧客、従業員のための「共創型DX」の考え方を紹介する。第2シリーズでは「カイゼンDX ~現場が誇りを取り戻し業績が向上するIT経営の変革」と題し、DXが経営の改善と業績の向上につながるメカニズムをを紹介する。第9回の今回は、DXと経営変革についての後編。

経営変革の弾み車の法則

netflix

 前回はNetflixの成長と発展の要となった「バリューベース経営モデル」について解説しました。今回も引き続きバリューベース経営モデルについて検討を深めたいと思います。

 Netflixが創業した1997年当時といえばインターネット・ビジネスの黎明期です。リアルビジネスモデルのバリュープロポジションをそのままに、リアル店舗をWeb店舗に置き換えるというモデルが当時としては一般的でした。しかし今日においても、このモデルを採用したEコマースサービスが数多くあることがわかります。

 Netflixやアマゾンといったトップベンダー以外のEコマースベンダーの苦境が伝えられる今日。前回、検討したように、プライスリーダーやコストリーダーのポジションを握っていなければコストプラス経営モデルは機能しません。ましてや顧客へのバリュープロポジションを意識しないコスト積み上げの価格設定法は、モノが売れなくなってしまった時代に逆行する経営モデルといわざるをえません。

 筆者は、Netflixとアマゾンの成功モデルに数多くの共通項をみつけますが、そのひとつが継続したバリュープロポジションの変革活動です。なぜこれが大切であるのか。それはバリューベース経営の弾み車の回転を止めないで、加速させていくために必要なことだからです。

 Netflixが月額定額のサブスクリプション・サービスを開始した直後、2000年の11月に通称、「ドットコム・バブル」と呼ばれたインターネット関連企業への過剰な投資バブルがはじけます。当時、シリコンバレーに駐在していた筆者は、バブル絶頂期の異様とも言える熱気と、そしてバブルがはじけた後のドットコム・ベンチャーの惨憺たる残骸の両方をみました。しかしNetflixが生き残り、なおかつ発展と成長を続けることができた背景には、常にバリューベース経営の弾み車を回し続ける努力がありました。

 ジム・コリンズの『ビジョナリー・カンパニー:弾み車の法則』には、ドットコム・バブルがはじけた直後に、アマゾンのベゾスに呼ばれ、バブル崩壊の余波が深刻な時期に、どうすればアマゾンは復活できるのか、そもそも復活できるのか、とアドバイスを求められたことが書かれています。そこでコリンズは、「弾み車効果」について述べたそうです。良い会社から偉大な会社への飛躍とは、巨大な重い弾み車をまわしつづけるようなものだ。力いっぱい押しても、最初は数センチしか動かない。しかし手を止めずに押し続けると、すこしずつ回転があがっていく。そして回転が高まっていく。ある時点でブレークスルーが起きると、止めようのない勢いがついた弾み車は飛ぶように転がっていくと。

 ベゾスはこの考えに強烈に共感し、アマゾン版弾み車を構想し、それ以来、ビジネスモデルのイノベーションと磨き上げの手を緩めることがなかったのです。カタチがあるモノを売るアマゾンEコマースは、一見、リアル店舗のエンゲージをWeb店舗に、デリバリーを宅急便サービスのような物流サービスに置き換えただけのように見えます。しかしドットコム・バブル崩壊の深刻な影響を受けてベゾスは、「Web上の小売店舗(=コストプラス経営モデル)」から、「ベゾス版弾み車(=バリューベース経営モデル)」へのビジネスモデル・イノベーションをデザインし、その実現と磨き上げにまい進してきたと言うことができるのです。

 ドットコム・バブル崩壊で消え去ったあまたのベンチャーと、成長と発展をつづけたアマゾンやNetflixを分けた分水嶺は、弾み車をデザインしまわしつづける経営努力にあったのではないでしょうか。

Netflixはこれからどのように進化していくのだろうか?

 もちろん今日、Netflixがトップベンダーであることが未来の繁栄を保証してくれるわけではないことは明らかです。しかし筆者がNetflixの変遷の歴史をながめていると、インターネット・ビジネスモデルの第2の潮流が見えてくるように思えます。

 ビフォアー・インターネットの時代には、映像や音楽コンテンツ、雑誌や本、ニュースなどの情報は、「つくる」から「くばる」まで1社がすべて担っていました。新聞は、取材からの記事の執筆、印刷から配送まで新聞社が1社ですべて行いました。テレビ局もそうです。番組制作から電波での放映までがテレビ局の役割でした。映画の場合には、映画制作会社が企画からのシナリオづくりを経て、撮影からの編集を経て配給となります。この流れを複数の会社で分業することがあったとしても、その活動を統合しているのは映画制作会社です。

 しかし今日、インターネットの世界では、ニュース記事は細切れにされて、いったんニュース配信サイトに集められ、そこから配信されます。音楽や映像コンテンツもNetflixのようなプラットフォーマーと呼ばれるサイトに集約された後に、コンテンツ1単位あたりでストリーミング配信されます。つまりインターネット第1世代のビジネスモデルは、「つくる」と「くばる」が水平分業になり、「くばる」をインターネット・プラットフォーマーが握ることが基本的な図式でした。

 しかしNetflixの番組の自主制作はかって映画制作会社やテレビ局が垂直統合型で行っていたことです。つまり映像コンテンツの自主制作の領域でのNetflixの比較対象企業は、映画制作会社やテレビ局です。「くばる」の領域で大きな力を発揮してきたプラットフォーマーが「つくる」領域の活動を垂直統合する動きは、インターネット第2世代ビジネスモデルの特徴であるように思えます。そういえばアマゾンEコマース事業も、プライベートブランドや限定ブランドといった「つくる」領域に力を入れていることがわかります。

 一方、水平方向の展開も留まるところを知りません。シリーズ1では、日本よりもDXの進展著しい米国小売市場で、アマゾンをリーダー企業に、「O2O(Online To Offline)」や「OMO(Online Merges with Offline)」と呼ばれるオムニチャネルの活動が進展著しいことを書きました。これはオンライン店舗などのデジタル系チャネルとリアル店舗などのリアル系チャネルの融合を意味します。インターネット第2世代ビジネスモデルの特徴は、垂直方向も水平方向も、リアルとデジタルの境界が溶けて融合が進展するところにあります。もはやオンラインビジネスとオフラインビジネスでは区分けできない未来がやってくることでしょう。そしてリアルとデジタルの融合は、小売サービスや映像や音楽のストリーミング配信サービスに留まらず、自動車業界のCASE/MaaSやシェアリングエコノミーの領域(シリーズ1参照)でも起きつつあることです。

 それではNetflixやアマゾンは、将来にかけてどのようなビジネスモデルのインプルーブメント(磨き上げ)やイノベーションを選択するのでしょうか。アマゾンのベゾスは、新しいサービスのアイデアを評価するにあたって「なぜそれが必要なのか」の説明を厳しく求めると言います。筆者は、ベゾスが期待する答えは、「カスタマーファーストのビジョンに沿ってそのサービスは必然と言えるのか」であるように思えます。実は「バリューベース経営の弾み車」とは、シリーズ1で解説したアマゾンの弾み車を模倣して筆者が独自に一般化したものなのでした。

図1:地球上でもっともお客様中心の企業
図1:地球上でもっともお客様中心の企業

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デジタルサービスはどのようなバリューを生み出すのか

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この記事の著者

宗 雅彦(ソウ マサヒコ)

株式会社サイクス代表
UNIXオペレーティングシステムの開発業務に従事後、オムロンの シリコンバレー・オフィスに駐在。ITベンチャーの先端リサーチ ・発掘・投資・事業開発推進業務を経験し独立。DXをIT経営の 変革と定義し、現場力のDXと未来創造のDXのふたつの観点から、 企業の現場変革と顧客創造の推進支援に取り組む。
株式会社サイクス http://www.cyx.co.jp

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