部門の壁を乗り越えるには、経営層を巻き込むにはどうしたら?
岡本:次に3つ目のテーマとして、DXのXにあたるトランスフォーメーションを進めていくとき「部門間の壁をどう越えていけばよいのか」という課題を考えていきたいと思います。IPAによると、経営者・IT部門・業務部門の協調について、日米間で比較してみると日本はまだまだ進んでいないようです。[※2]これを解決するためには、全社的にDXを主導できるリーダーや、現場で業務プロセス改革をけん引できるビジネスパーソンが必要とも言われているようですが、どう思われますか?
大西氏:ビジネスパーソンか専門人材かという区切りはあまり関係ないと思います。事業や顧客体験を変革したいという強い思いを持つ人がいれば、誰でもいいのではと思います。
ただし、領域をまたげるタイプかどうかは大事です。弊社でも課題解決のため、ビジネスとテクノロジーをつなげるタイプの人材はいて欲しいと考えています。このとき、部門間の壁がありつつも紳士的に越えていくので、私たちは「紳士的領空侵犯」という言い方をしているのですが、そういうことができる信頼関係構築のためのスキルなどを持つ人がいると、進展しやすい気がします。
黒川氏:まさにその通りです。変革と事業の両方をパラレルで進めることに興味を持つことができる人が重要だと思っています。大西さんの「紳士的領空侵犯」しかり、私自身も研究出身でありながら研究以外に興味を持つなどしてきました。自分に関係のないテーマや業務部門に興味を持つと、新しいイノベーションが生まれ、今後のキャリアに気づきが生まれるかもしれません。
岡本:DXを推進する部署では、どのような役割を担っていくべきでしょうか。
大西氏:我々はCoEという形をとりましたが、手触りといいますか「これがDXだ」とわかるようなものを出す必要があると思います。弊社は製造業ですので、最初は「DXって何だ? それはタイヤがついているのか?」といった感じですから、目で見てわかるように、自分ごととして理解しやすいようにしていくことが大事です。小さくてもいいので、不良率が下がったといった成功事例を経験することの他、データを現場に適用するところまで一気通貫で動ける組織が必要かと思います。
黒川氏:事業部門の人たちが自身の業務に照らし合わせて体感できないと、デジタルの良さってわかってもらえないと思っています。いくら研修で他社事例を出しても「それは他社の話だよね」となりかねません。
岡本:色々な企業の話を伺っていると、経営層を巻き込むことが特に課題だと感じます。
黒川氏:私たちの部署が活動を開始するにあたり、経営層と対話する機会を増やしてきました。その中でリクエストされたのが「レクチャーを入れてくれ」ということでした。私たちが無意識に専門用語を使うので「言っていることがわからない」と。
言葉がわからないから伝わらない、それが障壁になっているのだと気づくことができました。弊社では何が足りなくて、現状はどう進んでいるのか。これを丁寧に説明することが解決の第一歩になります。
大西氏:我々はラッキーなことに、2017年にインテル出身の平野浩介さんがフェローに就任してくれました。その平野さんが最初の1~2年、かなりの時間を使って経営層にDXやIT、データ利活用について話をしてくれまして、トップの間で共通認識が醸成されました。それもあり、現場側がかなり自由に動けるようになりました。
岡本:一方で、テクノロジーを司っているIT部門は、どのような役割を担うべきでしょうか。
黒川氏:私たちの役割の一つは社内の課題を見つけることであり、概念検証やPoCもやります。しかし、本番に向けての実装や運用については、IT部門が大きく関わってきます。言い換えるならば、私たちが入口であり、IT部門は実装部分を担います。ただし、全体が見えるようにするにはIT部門と一緒に動いていく必要があり、密に連携するようにしています。実際に同じフロアの隣同士で、毎日よく会話しています。
大西氏:そもそも、組織の立ち位置や成り立ちが異なると思っており、特に担うべき領域が違います。IT部門がセキュリティ、ネットワーク、オフィスウェアをコントロールしている一方で、我々は既存事業をデジタル強化するための活動をしています。そうした役割分担をしつつも、一緒に協議しながら全社にDXを広げています。
岡本:お二人ともありがとうございます。最後にエールやメッセージをいただけますか。
黒川氏:まだ、私たちも道半ばであり、ともに切磋琢磨しながらDXを進めていきたいと思っています。そのため、多くの方と情報交換していきたいため、ぜひお声かけください。
大西氏:同じく、DXについては試行錯誤しており、苦しみながら、楽しみながら進めています。黒川さんとは、DXを推進している共通の友人がいるように、みんなでつながることが支えになっています。非競争領域でも連携の余地があると思いますので、知見を持ち寄りながら進めていきたいです。どうぞ、これからもよろしくお願いいたします。
岡本:本日はありがとうございました。
[※2] 『DX白書2021 日米比較調査にみるDXの戦略、人材、技術』(IPA、2021)より、第1部第2章「DX戦略の策定と推進」(PDF)