「新製品」ではなく、「社会や地域への貢献」重視
コロナ禍以前には、グローバルなITベンダーが開催する年次カンファレンスを取材するため、米国サンフランシスコやラスベガスを頻繁に訪れていた。数千人から数万人が参加する大規模なカンファレンスは、ベンダーの成長力とその勢いを図る格好の場だった。
10年以上前であれば、カンファレンスはベンダーの新製品や新サービス発表の場であり、基調講演などでは目玉製品を紹介するために多くの時間が割かれていた。
ところがここ最近は、その状況に少し変化があった。オープニングの基調講演では製品やサービスよりも、社会や地域への貢献、環境問題への取り組みなど、企業が社会の一員としてどうあろうとしているかを丁寧に説明するベンダーが増えていたのだ。
特に米セールスフォースが開催する「Dreamforce」では、オープニング基調講演の話題が社会や地域への貢献の話題ばかりで、IT系のメディアで記事として取りあげるには苦労することも多かった。
注目あつまるRE100、フォーチュン500の大多数が参画
企業は、よりよい製品やサービスを市場に提供し、売上や利益を向上するための努力をしてきた。結果として業績が向上すれば、株価が上がり投資家に大きなメリットをもたらす。この考え方は企業は株主のものであり、株主の利益を最大化するために経営されるべきという「株主資本主義」に基づくものだろう。
しかしながらここ最近は、企業経営においては社会に対する意識を持ち、株主はもちろん社員や顧客、地域社会などすべての人が恩恵を得る「ステークホルダー資本主義」に注目が集まっている。さらに2015年9月の国連サミットで採択されたSDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)も、企業経営には大きく影響を与えるようになった。
これらにより「環境問題の解決などに積極的な企業には投資しますが、そうでないところからは投資を引き上げる動きがあります」と指摘するのは、元日本法人の社長としてセールスフォースの日本のビジネスを大きく拡大し、今はYext日本法人の代表取締役会長として指揮を執る宇陀栄次氏だ。
気候変動リスクを理解し利益を最大化する「Carbon Disclosure Project投資家プログラム」によれば、今後世界で環境問題に前向きに取り組む企業に投資をしよう、その逆の企業からは資金を引き上げようという動きがあり、それに署名した金融資産の合計が約100兆ドル、日本円にして1京1千兆円に上る額である。
そして、環境問題や気候変動の問題に対し企業がどのような姿勢で取り組んでいるのか。それを明らかにする1つの指標が「RE100(100% Renewable Energy)」だ。RE100は、世界で影響力のある企業が、事業で使用する電力を100%再生可能エネルギーとすることを約束する協働イニシアチブ。これにはフォーチュン500の多くの企業が参画しており、アップルやグーグル、セールスフォースなどIT系のベンダーも多い。そして既に100%の再生可能エネルギー化を達成している企業も多々ある。