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エーザイがMSとBoxで脱Notesを実現:直面した「コラボレーションとセキュリティの両立」という課題とその解決とは


 グローバル経済の進展で、イノベーションが生まれる環境の複雑化と多様化が進行している。業種業態の垣根を超えたオープンなコラボレーションも増えてきた。問題は自社のIT環境が新しい経済活動に適しているかだ。外部とのやり取りが増えるともなれば、セキュリティを懸念するところだが、研究開発者やクリエイターが求める大容量のファイルをやり取りするニーズにも応えなくてはならない。しかもグローバル規模での実現が求められる。コラボレーション環境のクラウド移行を進めている エーザイ IT統括本部 エンタープライズIT部 シニアマネージャー 松本みず穂氏に、これまでの歩みについて訊いた。

驚きだったIT部門への異動

──現在の仕事内容とこれまでの経歴をご紹介いただけますか。

 今の部署に来たのが2017年4月で、ちょうど5年になります。新卒でエーザイに入社し、最初に配属されたのは医薬品原料の開発・販売部門でした。その後、2回の育児休職を経て、人財開発部門に異動し、主に年金経理、退職金制度設計などの仕事に従事しました。入社以来、一貫して本社スタッフだったのですが、現職の内示が出た時は当時の上司と「なぜ?」と首を傾げたぐらいです。着任後に取り組んだのが、今も継続中のコミュニケーション基盤、ポータル基盤、ファイル共有基盤をグローバルで統一する目標を掲げたプロジェクトでした。このプロジェクトを社内では“TSUNAGU”プロジェクトと呼んでいます。その最初に実施したのがMicrosoft 365(2020年4月以前の旧称はOffice 365)の導入でした。

エーザイ株式会社 IT統括本部 エンタープライズIT部 シニアマネージャー 松本 みず穂氏
エーザイ株式会社 IT統括本部 エンタープライズIT部 シニアマネージャー 松本 みず穂氏

──IT畑ではないところからの社内異動だったのですね。

 おそらく私に期待されたのは技術力ではなく、ユーザーへの共感力や人事時代に培った社内ネットワークではなかったかと想像します。IT部門には、コミュニケーションを面倒に思う人たちが集まる傾向がありますし、要件定義の際はユーザーニーズをヒアリングしたつもりが、ユーザーの期待に沿えないものができることが多々あります。今はコミュニケーション基盤だけでなく、ヘルプデスクも担当していて、双方共通するのがユーザー接点に関わることです。今まで使っていた仕組みを新しくしても、定着はすぐに進みません。UIが大きく変わる関係で、ユーザーの中には不満を持つ人たちが出てきますし、役員にはなかなかメリットを理解してもらえないこともある。人財開発部門時代、ライフプランセミナーなどの全社展開を経験し、役員とも近しく話ができるようになっていましたから、新しい仕組みを導入した後の展開を担えると期待されたのだと思います。

──ヘルプデスクまで担当しているとなると、結構な仕事量ですよね。

 弊社の場合、何か新しいプロジェクトが始まると、同時並行で担当業務を進めます。直接の対応は、委託先のパートナー企業にお願いしていますが、一次受付は私の担当です。それから、Microsoft 365のようなクラウド製品は次々に新しい機能が追加されるので、自分で使ってみてFAQを更新し、ヘルプデスク担当者と共有することも仕事のうちです。問合せ件数は、月平均で3,000件ぐらいでしょうか。

2017年4月から始まったコミュニケーション基盤のグローバル統一

──進行中のプロジェクトについて伺います。松本さんが着任した頃からクラウドへの移行を全面的に進めてきたようですが、担当のコミュニケーション基盤領域では、どのようなゴールを描いて「脱オンプレミス」を進めてきたのでしょうか。

 2017年4月時点で使っていたシステムは、メールはNotes/Domino、Web会議システムはWebex、合わせてテレビ会議システムを使っていました。その刷新計画自体は以前から決まっていたのですが、全てをグローバル統一基盤にすることが目標でした。段階的に進めてきたのですが、まだ完全に統一はできていません。メールだけでなくコンテンツ管理もNotesで、オンプレミスのシステムである分、常に維持管理の負担がかかりますし、他のシステムとの連携に問題を抱えていました。

──Notesのコンテンツ移行は、どの企業も大変な苦労をすると聞いています。

 全社ポータルサイトだけでなく、多くの部門ポータルも運用していた関係で、コンテンツ移行は本当に大変でした。これをSharePoint Onlineに移行する「脱Notesプロジェクト」を進めたわけですが、作業は週末にやるにしろ、関係部門全てとの調整に時間を要しました。また、移行後にリンクが切れていて、貼り直しが必要になることもありました。その後も、画像の扱いなど、コンテンツオーナーは細かい使い勝手の違いに戸惑うこともあるようです。とは言え、クラウドに移行したことで、少なくともNotesサーバーの維持にかけていた時間と費用の負担を軽減できたことは、成果だと考えています。

──ゴールは「グローバル統一基盤の整備」と、当初から明確だったようですが、プロジェクト計画と現時点での進捗を教えて下さい。

2017年4月にSkypeを導入した後、10月にメールをOutlookに、2018年に前述のポータルサイト移行の「脱Notesプロジェクト」を進めてきました。そして2019年1月から始まったのがBoxの導入で、ファイルサーバーを廃止し、Boxに全てを移行することをゴールに据え、2021年2月から展開計画を進めているところです。プロジェクトの終了は2023年3月を予定しています(図1)。

図1:コミュニケーション基盤のグローバル統一に向けての歩み 出典:エーザイ

図1:コミュニケーション基盤のグローバル統一に向けての歩み 出典:エーザイ [画像クリックで拡大]

──Boxを導入しようと考えた背景にはどんな事情がありましたか。

 製薬会社の業務の特徴に、医師、パートナー企業、公的機関など、外部とのやり取りが多いことがあります。Microsoft 365導入後の2018年11月、セキュリティポリシーが強化され、USBメモリーのような外部記憶装置を利用したファイルのやり取りが禁止になりました。その代替手段を迅速に用意する必要があったので、急遽導入を決め、2019年1月から利用開始に漕ぎつけました。これがステップ1です。続くステップ2が2020年4月からのBox利用範囲の拡大で、Teamsの導入も実施しました。ステップ3がファイルサーバー廃止を前提としてのBox完全移行です。2022年2月から始まる40TB超の大容量の移行計画が、”TSUNAGU”プロジェクトの集大成になると考えています。これが終われば、今までのようなファイルサーバーの維持負担がなくなりますし、ユーザーの業務効率も向上すると期待しています。

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SharePoint Online導入後に直面した課題

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この記事の著者

冨永 裕子(トミナガ ユウコ)

 IT調査会社(ITR、IDC Japan)で、エンタープライズIT分野におけるソフトウエアの調査プロジェクトを担当する。その傍らITコンサルタントとして、ユーザー企業を対象としたITマネジメント領域を中心としたコンサルティングプロジェクトを経験。現在はフリーランスのITアナリスト兼ITコンサルタン...

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