契約前にユーザーやベンダーには“債務”があるのか?
最近、改めて契約法の勉強を始めたのですが、その中で少し気になっていることに“契約前の当事者の責任”があります。契約というのは通常、“誰かが誰かのために何かをしてあげる代わりにお金を受け取る”という約束事で、この“何かをしてあげる”ということを“債務”と呼んだりします(無論、発注者側がその対価としてお金を払うことも債務です)。
ベンダーがユーザーのためにシステムを作ってあげることも“債務”というわけですが、これはあくまで契約あってのことです。「この仕事をいつまでにいくらでやる」という約束をしない間は、受注者であるベンダーに“債務”はなく、仕事をする必要もないというのが基本的な考え方です。
ところが場合によっては、まだ契約前にも関わらず、受注予定者側が一定の責任を負わなければならない場合もあります。たとえば、銀行や証券会社のセールスパーソンが金融商品の危険性について、十分な説明を行わずに売り、契約後に商品の価値が下落し、顧客が被った損失については銀行や証券会社が賠償しなければならない、というような判例もあります。
契約前の行動が、契約後の責任に発展する。今回はそんな問題について紹介します。さて、どんな裁判だったのでしょうか。
(東京地方裁判所 平成19年12月4日判決より)
ある経営コンサルティング会社(以下ユーザーと言う)が、企業の財務状況の分析や格付けを行うシステムの開発をソフトウェア開発業者(以下ベンダーと言う)に依頼した。しかし開発が大幅に遅延したことからユーザーは契約を解除し、既払い代金の返却および損害の賠償を求めて訴訟を提起した。
しかしベンダーは開発の遅延は、ユーザー側が開発にあたって必要な要件定義書やDBの更新仕様等の提示を行わなかったためであるとして未払金の支払い等を求めて反訴を提起した。尚、ベンダーからの資料要求と、それに対するユーザーの対応は契約前のことだった。