作業品質の悪さと売上未達により迫られた損害賠償
今回は、システムエンジニアに対する会社側の管理に関連する判決を紹介します。判決文には、システムエンジニアのメンタル症候群をはじめとして数多くの論点が含まれていました。その中で今回は、会社が従業員であるシステムエンジニアの退職にあたって損害賠償を求めるという、あまり聞いたことのない問題点について取り上げます。
このシステムエンジニアは、ある顧客企業のシステムにおいて、保守作業を行うとともに、同システムに関連する新たな機能追加などを受注することを、会社から命じられていました。
ところがこのエンジニアは、新規受注の売上目標に届かないことに加えて、作業品質も悪かったようです。その結果、顧客企業からの信頼を無くし、会社がこれまでこの顧客から受注していた売上額も減らす結果を招きました。
システムエンジニアは、その後会社を退職。会社は、こうして発生した損害の賠償を、システムエンジニアに求めるという裁判だったのですが、裁判所はどのような判断を下したのでしょうか。裁判の概要から見て行きましょう。
京都地方裁判所 平成23年10月31日判決より
あるIT企業に勤務していたシステムエンジニアは、顧客向けシステムの保守等を行うと共に、当該顧客から同システムに関する追加開発等を受注できるよう営業活動も命じられていた。
しかしながら、システムエンジニアは保守開発作業や顧客対応の品質が悪かったため、追加の受注を得られないばかりか、これまで受注してきた保守作業についても顧客からの発注額が減じられることとなった。
こうしたこともあり、システムエンジニアは退職をすることとなったが、これに際し、IT企業は、システムエンジニアの顧客対応により売上が落ちるなどの損害が発生したのは、労働契約上の義務違反にあたるとして、このエンジニアに対して約2,000万円の賠償を請求する訴訟を提起した。
システムエンジニアの作業品質の悪さとは、どの程度のものだったのでしょうか。そのいくつかが判決文にも書かれていますので、簡単に抜粋してみましょう。
抜粋
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システムエンジニアはカスタマイズの発注数を確保するため,顧客企業の担当者に対し適切にアプローチをとり緊密な関係を維持する義務があった。しかるに、システムエンジニアは、この担当者に叱られたことから苦手意識を持ち、これを避けて他の者からヒヤリングを実施していた。
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システムエンジニアには、顧客に提示する工数見積もりを作業着手前に行う約束であったにも関わらず、たびたび作業着手後に工数見積もりを実施していたり、不具合対応のメールで連絡を怠ったり、顧客と約束した定例打ち合わせや講習会を行わなかったりなどのルール違反が頻繁にあった。
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当該システムエンジニアはチームの責任者であり、業務の進捗管理,窓口対応,仕事の割り振りなどの指揮を任されていたが、ある時期から毎日一日中パソコンの前で下を向いて座っている状態で管理業務をほぼ行わなくなった
- システムエンジニアには1ヵ月あたりに行うプログラミング作業量がノルマとして与えられていたが、これを達成できず、数か月分の作業が未達状態となっていた。