他国では「サイバー戦争」を見据えた国家戦略も
イタチごっこと言われるように、対策を実施してもそれを超えてセキュリティインシデントが発生する、この歴史は終わることなく繰り返されてきた。そして恐らく、未来永劫これが終焉を迎えることはない。
近年ではアメリカの「コロニアル・パイプライン」事件や、国家政府の関与する組織による世界的なサイバー攻撃など、国家規模の「サイバー戦争」とも言うべき事象が、水面下どころか一般の我々の目にも届くようになっており、2021年5月にはアメリカのバイデン大統領が30ページにも及ぶ大統領令を発表したほどだ。その大統領令の主なテーマの1つには「各省庁に60日以内にゼロトラストアーキテクチャの導入計画を策定すること」などが設けられている。これに賛同する議員たちからも「少なくとも過去6ヵ月間に発生したサイバーインシデントは、現在そして将来のネットワークを防御するために、抜本的な対策として何が必要であるかを示している」といった声が上がっていた。また、こうした動きは当然アメリカのみならず多くの先進国でも同様で、多くの国でいわゆる「サイバー戦争」を見据えた国家的な軍事サイバー戦略が策定されている。
今は日常生活のいろいろな部分、たとえば目の前のデジタルデバイスやそこに流れる情報の類だけでなく、会社も家も交通網も、水道やガスや電力など様々なライフラインも、物流や日常生活のあらゆるものがデジタルでつながっている時代である。データがつながり、便利になる一方で、様々なサイバー攻撃にさらされるリスクは高くなる。
いくら国家が物理的に兵士や兵器の襲来に備えて国境や空港等を守ったとしても、サイバー空間を利用して国家を攻撃できてしまう。もし街の灯がすべて消されてしまったら、もし水道や物流ライフラインが何者かの手によって支配されてしまったら、どんな状況になるのか想像してみてほしい。実際こうした攻撃によって、国家を崩壊させることも不可能とは言い切れないだろう。