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SAPがローコード/ノーコードツールの強化で目指す「これからの業務システム」の姿とは?

 SAPは近年、「ローコード/ノーコード開発ツール」領域への投資を強化している。基幹業務パッケージのリーディングカンパニーである同社が、この領域へ注力する理由は何か。そして、具体的にどのようなソリューションを提供、強化していこうとしているのか。SAPジャパンの担当者に話を聞いた。

 本記事は、ソフトウェア開発者向けのオンラインメディア「CodeZine(コードジン)」からの転載記事です(オリジナル記事)。

ERPが直接カバーできない領域を補う、生産性の高い開発環境をSAP自身が提供

 近年、変化の激しいビジネス環境へ柔軟に適合する業務システムを、ユーザー企業が自ら開発、改善していく「システム内製化」への関心が高まっている。そうした背景のもと、市場で盛り上がりを見せているのが「ローコード/ノーコード開発ツール」と呼ばれるカテゴリの製品群だ。

 「ローコード/ノーコード開発ツール」に共通する一般的な特徴としては、グラフィカルな開発画面を持ち、複雑なコーディングは行わず、エンドユーザーにとって使いやすいユーザーインターフェースや、シンプルなデータ処理のプロセスを備えたアプリケーションを構築できる点が挙げられる。

 企業がこのようなツールを活用するメリットとしては、コーディングが必要な従来のアプリケーション開発と比べて、圧倒的に高い開発生産性が得られることがある。また、コーディングに習熟していないエンドユーザーでも、業務プロセスに関する知見があれば、比較的低い学習コストでアプリケーションの開発に携わり、業務の自動化、効率化を実現できる点もポイントとなる。ローコード/ノーコード開発は、ITシステムに対するビジネス側の要求が増え続ける一方で、対応できる技術者の数が足りない「エンジニア不足」を打開する仕組みとしても期待されている。

 現在、「ローコード/ノーコード」をうたう開発ツールが、多数のベンダーから提供されている。基幹業務パッケージ分野のリーディングカンパニーである「SAP」も、その1社だ。同社では近年、既存プロダクトの強化やベンダーの買収などを通じて、この領域への取り組みを強化している。

 SAPジャパンで、インダストリー&カスタマーアドバイザリー統括本部 BTPアプリ開発&インテグレーション 部長を務める本名進氏は「SAPの主力プロダクトであるERPの導入によって、企業は基幹業務の標準化、効率化を実現できる。しかし、企業で行われている業務全体を見渡したとき、ERPが直接サポートできる範囲は一部に限られる。特に他のシステムとERPの連携、ERPへの入力や蓄積されたデータを現場で活用するために抽出し他のシステムへ投入する部分では、効率の悪い手作業がまだ多く行われている。そうした作業を自動化、効率化するための生産性の高い開発環境をSAP自身が提供しようとしている」と話す。

SAPジャパン株式会社 インダストリー&カスタマーアドバイザリー統括本部 BTPアプリ開発&インテグレーション 部長 本名進氏
SAPジャパン株式会社 インダストリー&カスタマーアドバイザリー統括本部
BTPアプリ開発&インテグレーション 部長 本名進氏

 SAPでは、ERP製品「SAP S/4HANA」を中心とする基幹業務パッケージ群のデータを、ユーザーがより柔軟に活用できるようにするための仕組みを「SAP Business Technology Platform」(SAP BTP)というPaaS環境で展開している。SAP BTPは、データ管理、アナリティクス、AI、アプリケーション開発、自動化、データ統合に関わる機能を含み、それらを統合的に提供するプラットフォームである。

 SAP BTPにおいて、アプリケーション開発ツールとして提供されているのが、RPA(Robotic Process Automation)およびワークフロー構築ツールの「SAP Process Automation」と、ノーコード開発ツールの「SAP AppGyver(アップガイバー)」だ。

RPAとワークフローをノーコードで開発できる「SAP Process Automation」

 「SAP Process Automation」は、エンドユーザーがPC上の手作業で行っているような定型作業を自動化するRPA、およびワークフローを、ノーコードで構築できるツールとなっている。業務プロセスの中で関連性が強いRPAとワークフローを、別々のツールではなく、1つのツールで一括して取り扱える点がメリットの一つだという。

 「例えば、受発注プロセスを考えた際、さまざまな販売チャネルがある中、販売システムからERPへ自動連携されるものもあれば、一部は受注の一覧がメールにExcel添付され、担当者がERPへ入力するといった担当者による手作業になっているケースが多い。これに対し、RPAでメール添付のExcelや組込みのAI機能でPDFのテキスト情報を読み取り、得意先や金額などのルールに応じて、発注承認のためのワークフローへつなげるといったことが容易にできる。RPAとワークフローの両方を、ノーコードで作り込めるSAP Process Automationは、こうしたプロセスの自動化にあたって、特に使い勝手が良いツールになっている」(本名氏)

 上の画面は、SAP Process Automationの「Process Builder」でRPAタスクを実装したものだ。この例では、Excelファイルを開き、各行から条件に一致する受注番号を取得してそれを次のタスクに渡すという処理を行っている。SAP Process Automationでは、こうした処理を実行するためのライブラリが豊富に用意されており、それらをフローチャートのように並べることで、プロセスが自動化できる。一般的なRPAツールのように、PC操作のレコーディングを行って、それをプロセス内に組み込むことも可能だ。

UXの高いフロントエンドを迅速に開発できる「SAP AppGyver」

 「SAP AppGyver」は、2021年にSAPが買収したノーコード開発環境だ。SAP AppGyverはSAP BTPの一部に組み込まれ、現在、急ピッチでSAP BTP環境との連携強化、機能強化が進められている。

 上の画面は、SAP AppGyverでモバイルデバイス向けのUIを作成している様子である。画面左には、ドロップダウンリスト、ボタン、入力フィールドといったUI部品が並んでおり、これらを中央のカンバスへドラッグ&ドロップすることで画面を構成できる。各部品のプロパティは画面右側で設定し、データとのマッピングや処理の内容(レコードの追加、ページ遷移、QRコードの取得など)は、画面下部でコンポーネントの組み合わせによって定義する。

 「SAP AppGyverでは、業務システムのフロントエンドとなるWebアプリケーション、スマートフォンやタブレットのようなモバイルデバイス向けのアプリケーションを、ノーコードで開発できる。SAPのソリューションとなったことで、SAP S/4HANAをはじめとする基幹システムとの連携に加え、SAP BTPの豊富なサービス群との連携による柔軟性や、ビジネスアプリケーション開発向けの機能の拡充が多く予定されている。これらを組み合わせて活用することで、企業は、極めて迅速かつ低コストに業務ニーズに合ったアプリケーションを作成できる」(本名氏)

 SAPジャパンでは、2022年6月に、SAP AppGyverによるハッカソンを開催した。SAPのパートナーが参加した同イベントでは、基幹システム上の在庫情報と連動して、在庫管理や倉庫内のピッキング作業を効率化するアプリケーションや、画像認識技術を活用して一般家庭にある冷蔵庫内の食品管理を可能にするアプリケーションなど、さまざまなソリューションが開発されたという。

ERPと業務システムの「ライフサイクル」に対する考え方を進化させる

 過去に基幹システムの導入、アドオン開発などに関わった経験がある人の中には「ERPパッケージの開発は、独自の言語や開発環境のスキルが不可欠で、かつ大規模になりがち。ユーザーにとっては、コスト面の負担が大きく、時間もかかる」というイメージがあるかもしれない。そのイメージは、あながち間違いではない。

 実際、ERPパッケージに直接手を入れるような形でのカスタマイズには、専門のスキルが必要なケースがほとんどだ。事前に、導入パートナーと綿密に仕様を打ち合わせ、開発を依頼する必要がある。特に日本でERPパッケージが普及し始めた当初には、導入時に、自社の業務にパッケージ側を適合させるためのカスタマイズ、アドオン開発を大量に行う企業も多く見受けられた。その結果、柔軟性が失われ、硬直化してしまった基幹システムを、運用でカバーしながら十数年の長期にわたって使い続けることになったケースも少なくない。

 カスタマイズが多ければ多いほど、パッチ適用やバージョンアップで影響を受ける範囲は広くなり、事前の確認や事後の修正に時間とコストがかかる。基幹システムがビジネスの根幹に関わるものである以上、障害による停止は許されない。すると、ユーザーにとって恩恵があるようなパッチ適用やアップデートであっても、実施には必要以上に慎重にならざるを得ない。

 そもそもの話として、パッケージの中核となっているプロセスを、旧態依然とした自社のやり方に合わせるように変えてしまっては「グローバルのベストプラクティスに準じて基幹業務を標準化できる」という、パッケージの最大のメリットさえ享受できていないことになる。

 こうした「基幹システムの硬直化」に陥らないために、企業はERPのライフサイクルに対する認識を進化させていく必要がある。SAPは、最新のERPである「SAP S/4HANA」で、基本的に年1回のバージョンアップを行い、各バージョンのサポート期間を5年に設定している。つまり、ユーザーは最低でも「5年に1度」のペースでERPをバージョンアップしていく必要がある。このサポートサイクルは、SAPが最新の技術や知見を製品へ迅速に反映させ、ユーザーがその恩恵を享受しやすくするためのものだという。

 ユーザーがその恩恵を最大限に享受するためには、「パッケージを業務に合わせる」のではなく「業務をパッケージに合わせる」ことを意識しながら、極力カスタマイズや追加開発を行わず、標準状態に近い形で使っていくことが望ましい。それが、バージョンアップ時の、作業負荷やコストを削減することにつながるためだ。

 「基幹業務の中核となるプロセスは、短期間で大きく変化するものではなく、そこが差別化のポイントとなるケースも少ない。企業間で、大きな競争力の差を生みだすのは、より頻繁に変化する、より現場に近い周辺の業務プロセスだ」(本名氏)

 本名氏は、パッケージ内部で行う、従来のような形式でのカスタマイズを「イン・アップ(In-App)拡張」、より業務現場に近いところで行われる周辺システムの開発を「サイド・バイ・サイド(Side-by-Side)拡張」と呼んだ。「サイド・バイ・サイド開発」が適するのは、ビジネス要求の変化に応じて迅速な開発、改善が求められるシステムだ。求められる「変化」のスピードを見きわめて、「イン・アップ」と「サイド・バイ・サイド」を適切に切り分けながら、ERPを中心に展開する業務システム群の効率的な開発運用体制を整えていくことが、ERPと、そこに蓄積されたデータの価値の最大化することにつながる。

 「定型作業の自動化、最新技術やデバイスの活用による業務の効率化は、人間が、より価値の高い仕事を行うための時間を生みだす。SAP Process AutomationやSAP AppGyverは、特にそうした領域でのビジネス貢献にフォーカスしたプロダクトだ。これらをSAPに統合されたプラットフォーム上で利用することで、各業界のベストプラクティスが反映された業務アプリケーションを迅速に開発できる」(本名氏)

 SAPジャパンでは、2022年10月26日(水)に、「SAP AppGyver」を中心としたBTP関連ソリューションの紹介ウェビナーを開催する。SAPが、ローコード/ノーコード開発ツールをはじめとするSAP BTP製品群で目指す「これからの業務システム」の姿に関心がある人は、開発者、エンドユーザーを問わず、ぜひ参加してみてはどうだろう。

SAP Hyperautomation Webinar 「ローコード・ノーコードが変える開発環境!」

 2022年10月26日(水)にハイパーオートメーションを実現するSAPのアプリ開発と自動化ソリューションをご紹介するウェビナーを開催します!

 イノベーションの迅速化、ビジネスの絶え間ない変化にどう対応していくか? このような課題をお持ちであれば、是非ご参加ください!

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【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

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