
本連載はユーザー企業の情報システム担当者向けに、システム開発における様々な勘所を実際の判例を題材として解説しています。今回取り上げるテーマは「プロジェクトマネジメント」です。ベンダーからするとユーザーからの要望は断りにくいものですが、要望を受け続けることで、プロジェクトが悪い状態になりかけているのではあれば、「断る勇気」が必要ですし、ユーザーは「やめる勇気」が必要です。そして双方共に必要なのが「失敗を受け入れる勇気」でしょう。言うは易く行うは難しですが、それと向き合うしかないのです。
クラウド利用が主流の時代

私の働く政府でも今はシステム化を行う際に「クラウドファースト」という方針に基づき、まずはクラウド利用によるサービスの実現が可能かを検討することになっています。
こうしたクラウド化の流れは、もちろん政府よりも民間の方が先を行っており、ERPや営業支援、顧客管理、販売等、クラウドは様々な業務に活用され、早晩、ITの主流となることは間違いないでしょう。
ただ、これまでのパッケージソフトウェアを利用した場合も同じですが、クラウドの場合でも、実際にシステムの提案や実装を行うベンダーが、必ずしもクラウドについて十分な理解をしていないままプロジェクトがスタートするという問題があります。
ベンダーは、クラウドの機能や制約について一通りの知識をもっていますが、実際、そこで使われるソフトウェアのコードまでは見ることができません。また、ユーザーが望む機能の実装を本当にすべて実現できるのか、確証もありません。
クラウドベンダーにいろいろと質問をして、大丈夫だろうと判断しても、実際に開発を進める中で、ユーザーからの細かい要望を聞いてみたら、実現が難しかった。そんなケースが多々あります。
そうなるとベンダーは、クラウドで提供されるソフトウェアをカスタマイズしたり、別に機能を手作りしてクラウドと連携したりします。しかし、それ自体も技術的には大変な作業になりますし、当然、コストや期間も余計にかかってきてしまいます。
今回紹介するのは、クラウドベンダーの提供するソフトウェアを利用して、安価かつ短期に業務系システムを作ろうとした事例です。大量の要件追加が発生し、「カスタマイズのお化け」な状態のシステムになってしまい、最終的には失敗しました。原因はどこにあったのでしょうか。以下、概要からご紹介しましょう。
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細川義洋(ホソカワヨシヒロ)
ITプロセスコンサルタント東京地方裁判所 民事調停委員 IT専門委員1964年神奈川県横浜市生まれ。立教大学経済学部経済学科卒。大学を卒業後、日本電気ソフトウェア㈱ (現 NECソリューションイノベータ㈱)にて金融業向け情報システム及びネットワークシステムの開発・運用に従事した後、2005年より20...
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