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SAP、マイクロソフトと共同で人事分野に生成AIを適用──Sapphire 2023でCEOが発表

「SAP Sapphire 20233」レポート


 米フロリダ州オーランドで「SAP Sapphire 2023」が開催されている。SAPのCEOであるクリスチャン・クライン氏は基調講演で、製品ポートフォリオ全体にAI機能を組み込む戦略を発表。「SAPのジェネレーティブAIはMicrosoftと共同で人事分野から始める」という。

SAPはジェネレーティブAIを製品に組み込む

SAP CEO クリスチャン・クライン氏

 経済環境は依然として混迷が続いている。企業はビジネスモデルを変革し、継続的な改善を通じて成長を実現できるソリューションを求めている。その意味で、DXが依然として重要であることに変わりはない。冒頭、SAPのCEOであるクリスチャン・クライン氏は、「最高峰の山に登るには強いチームが必要です。同じことがビジネスの変革にも当てはまります」と、話を始めた。変革を成功させるには、ビジネスとITが一体化しなくてはならない。また、変革を成功に導く良いパートナーの伴走も必要だ。「私たちのビジョンは、レジリエントなサプライチェーンを構築し、俊敏でインテリジェントな企業になり、持続可能なビジネスを営むというお客様のニーズに焦点を合わせています」とクライン氏は訴えた。

 今、変革に取り組む組織が最も関心を示すテーマはAIであろう。SAPも基調講演の発表の柱の1つにAIを選んだ。ここ数年、ビジネスアプリケーションを提供する多くのベンダーがAIを自社製品に組み込んできた。SAPも同じアプローチを選択してきた。一方、ChatGPTを個人的に使ってみて良さを実感した人たちは、次のステップとして大規模言語モデル(LLM)を活用したジェネレーティブAIのビジネス活用を考え始める。

 SAPは製品ポートフォリオ全体にAI機能を組み込む戦略を強化する方向性を選択した。SAP Business AIは、Responsible AI(責任あるAI)を前提に機能を提供するものだ。クライン氏は「今日、私たちは2万人以上のお客様が利用しているアプリケーションにAIをすでに組み込んでいます」と述べ、SAPのAIを、ビジネスのためのAIとして提供することを改めて強調した。

 以降、クライン氏は変革に取り組む企業の人事、コマース、サプライチェーン、ファイナンス、ITの5つの分野それぞれのリーダーに向け、それぞれの仕事を変革する新しい取り組みを紹介した。

SAPのジェネレーティブAIはMicrosoftと共同で人事分野から

 最初に取り上げた課題は、人事に関するものだ。昨今のCHRO(Chief Human Resource Officer)あるいはCPO(Chief People Officer)と呼ばれるリーダーの悩みは、何と言っても人手不足だ。その背景には既存の人材が持つスキルとこれからの新しい仕事に必要なスキルとのギャップの存在がある。このギャップを埋めるには、人材の採用方法とスキル開発プログラムの両方を最適化しなくてはならない。しかし、現実は、新しいポジションが必要になる度に、募集要項の作成、魅力的な職務記述書の提示、候補者との面接の準備などの作業に忙殺されている。また、従業員1人ひとりのキャリアの方向性と、組織が提供する育成機会との間のギャップを埋めることにも取り組んでいかなくてはならない。

SAP SuccessFactorsとMicrosoft OpenAIの連携

 これらの悩みの解決に向け、SAPはMicrosoftとのパートナーシップを強化することにした。両社は、HCM(Human Capital Management)製品のSAP SuccessFactorsと、OpenAIのLLMをMicrosoft 365アプリケーションに組み込んだMicrosoft 365 Copilot、トレーニングプログラムをパーソナライズするCopilot in Viva Learningとの連携、OpenAIがサポートする様々な言語モデルにアクセスするためのMicrosoft Azure OpenAI Serviceとの連携を進める。このパートナーシップを通して両社は、企業が優秀な人材を引き付け、維持するための採用とスキルアップのプロセスを最適化する方法の確立を支援する。

SAP Customer Data Platform(CDP)

 続いてコマースリーダーに向け、SAP製品活用事例も紹介された。多くの企業では、売上目標の達成のプレッシャーに常にさらされている。背景にはデジタルチャネルの台頭がある。顧客は企業に従来のビジネスモデルを改め、パーソナライズした体験を求めるようになってきた。サプライサイドもデマンドサイドの要求に柔軟にかつ迅速に対応しなければならない。例えば、全世界で400のブランドを抱えるグローバル消費財メーカーのユニリーバでは、SAP Customer Data Platform(CDP)上に統合顧客プロファイルを作り、消費者動向を把握するためのインサイトの獲得に役立てている。また、1億3,000万人以上の顧客のデータ利用に関する同意もSAP CDP上で管理している。

 そして、サプライチェーンリーダーにとって頭の痛い課題は、最近の地政学リスクの増大への対応にある。サプライチェーンの回復力を高める処方箋として、以前からSAPはビジネスネットワークへ参加する意義を訴えてきた。1対1の打合せから始めるよりも、ネットワークに参加する方が新しいパートナーの探索は容易である。ネットワークの価値を理解したサプライヤーが集まり、取引が活性化したおかげで、SAP Business Networkは企業が年間約4兆5,000億ドルの取引を処理する包括的なB2Bコラボレーションプラットフォームに成長した。

 この成功を受け、SAPが新しく提供を開始するのが業種特化型のSAP Business Network for Industryである。当初は消費財、ハイテク産業、産業用機械、ライフサイエンス向けのものから提供を始め、徐々に他の業種業態に対象を増やしていく計画をクライン氏は明らかにした。

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冨永 裕子(トミナガ ユウコ)

 IT調査会社(ITR、IDC Japan)で、エンタープライズIT分野におけるソフトウエアの調査プロジェクトを担当する。その傍らITコンサルタントとして、ユーザー企業を対象としたITマネジメント領域を中心としたコンサルティングプロジェクトを経験。現在はフリーランスのITアナリスト兼ITコンサルタン...

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