予測不可能な環境変化──高まる「調達リスク」は経営戦略上の重要課題に
サプライチェーンの安定供給を妨げる要因は年々不確実性・多様性・複雑性を増しており、リスクが高まるばかり。近年、取り引きの複雑化やグローバル化により特に顕著になっているのが供給遅延やサプライチェーンの断絶、生産の国内回帰、海外移転、物流の遅延などによる「調達リスク」です。
消費者に商品やサービスを届けるためには、サプライチェーンにおける各工程が正しく機能しなければなりません。どこか1つの工程が止まっただけで一部ないしは全体に影響を及ぼしてしまい、事業活動にも大きな損害を与える可能性があるからです。たとえば、原材料が調達できなければ部品や商品を製造できず、物流や販売といった後工程に進めないため、大きな損害が発生するでしょう。
実際にパンデミックや地政学的な問題から海外で製造した部品や材料を輸入できなかったり、自然災害によって工場が生産停止に追い込まれたりしたケースも少なくありません。また、日本では大規模地震が発生する可能性が示唆されており、今後も予測不可能な環境変化に備えた対策が必要不可欠と言えるでしょう。
環境・人権に対して“透明かつ倫理的”な調達が実現できているか?
前述したリスク要因の他に、今高まっているものが「環境リスク」です。世界中でESG経営が求められるようになり、サプライチェーンでも環境に配慮したサービス・商品を消費者へ提供したり、サプライチェーンにおけるCO2排出量を削減したりと、自然環境に配慮した取り組みは欠かせないものとなりました。
日本では2050年にカーボンニュートラルを実現するとした政府の宣言を受けて、各企業が追従する動きを見せています。特にグローバルな取り引きを行っている企業は、取引先企業の国・地域ごとにCO2排出量や有害化学物質含有量などが厳しく法規制されている場合があるため、それぞれの状況に準拠した対応も必要でしょう。
また、消費者の購買意識の変容による「人権リスク」への取り組みも、今後ますます重要になっていくと考えられます。
新型コロナウイルス感染症の拡大以降、“倫理的に調達された”製品への購買意欲が高まっています。2021年にOpenTextが行った『消費者のエシカル・サプライチェーンに関する意識調査』[1]によると、約9割の消費者が「倫理的な調達戦略を明らかにしている企業からの製品購入を優先する」と回答。日本でも約7割の消費者が、倫理的に調達・生産されたものであることが確認できる製品に対して「多少の不便(配送の遅延など)が生じても購入する」と回答するなど、“エシカル・サプライチェーン”の重要性が読み取れます。
とはいえ、「我が社は紛争や強制労働と直接関係がない」と思われたかもしれません。しかし、Tier1、Tier2、Tier3……と下請けサプライヤーがどこから原材料を調達しているのか、しっかりと把握できているでしょうか。本当に、紛争にある国や地域から調達していたり、過酷な労働や児童の強制労働といった人権を無視した生産者だったりする可能性はないと言えますか。
実際に人権侵害を理由に製品・サービスの不買運動などにつながったケース、特定の国へ販売ができなくなったケースをはじめ、中には投資先としての評価降格、投資候補先からの除外、投資引き揚げなどに直結するリスクも潜んでいます。
加えて、地球環境や人権へ配慮した、“エシカル・サプライチェーンの実現”を取り引き条件としている世界的な大手企業も増加。逆に言えば、エシカル・サプライチェーンを実現できれば、ブランドイメージの向上はもちろん、国内外における競争力や企業価値の向上につなげられるでしょう。
[1] 「オープンテキスト、 『消費者のエシカル・サプライチェーンに関する意識調査』の結果を発表」(2021年10月11日、オープンテキスト)