プロジェクトマネージャーの仕事は「誰もやりたがらない」
──初めに、これまでの経歴を教えてください。
IT業界で24年、うち23年はプロジェクトマネージャー(PM)をしています。元々は大手通信会社のグループ企業に所属しており、10年ほど新規事業やサービス開発を経験した後に起業しました。起業後は自社サービス開発だけではなく、様々な事業会社に向けて受託開発でホームページ制作、アプリケーション開発、業務システム開発、近年では新規事業やDXに関わるプロジェクトを担当しています。
起業した直後は会社を維持するため、受託開発をしていました。その時のプロジェクト管理の経験をもとに、プロジェクトマネジメントのノウハウをまとめた書籍を刊行しました。現在はAIを活用したプロジェクトマネジメントに関する自社サービスの開発を進めているところです。今が第2の創業期ですね。現在も受託は続けていて、プロジェクト運営体制構築のコンサルティングや新規事業のサポートをしています。
──ずっとPMを続けているのですね。
社会人として働き始めた2年目からプロジェクトマネジメントを実施していますが、ある意味「やりたがり」だったことが大きかったかもしれません。プロジェクトではよくケンカが起きます。デザイナーやエンジニア、フロントエンド、バックエンド、さらに営業も加わると、それぞれの利害が衝突するからです。本来目指すべきゴールは同じはずなのに、同じ会社内でケンカしているのを黙ってみていられなかったのです。そこをまとめるように動いたのがPMとしてのキャリアの始まりでしたね。
PMの重要な仕事の1つである関係各所の利害調整というのは、皆の言いたい放題を聞く仕事で誰もやりたがらない、少し面倒なもの。「球拾い」のような仕事です。しかし、最初からそれぞれの言い分をまとめて、全体調整をするようにしたらプロジェクトが上手く進んでいくとわかったので、積極的にこうした立ち回りをするようになりました。当時はわかっていなかったのですが、後から「これがPMの仕事なのだ」と気が付きました。
“技術以外”の情報収集も不可欠
──20年以上プロジェクトマネジメントに携わる中で、社会の潮流やPMに求められるものにはどのような変化がありましたか。
私が社会人として働き始めたのは「Microsoft Windows 2000」が出た年なので、「いにしえ」の時代です。当時は技術やシステムがシンプルだったので、プロジェクトで問題が起きても人を投入すればなんとか治まる時代でした。昔のリーダーにはストロングスタイルで仕事をする人が多かったですが、今ではPMが全体を把握して、メンバーに必要なメッセージを伝えていくことがより大切になってきていると感じます。
プロジェクトの進め方に関しても、20年ほど前は多少要件定義や設計を間違えていたとしても、力技で帳尻を合わせることができていました。しかし、現在は技術が高度化・複雑化しているので、たとえば要件と実装の間にずれがあると後からカバーしきれません。かつてより、技術の正しい知識や理解が必要になってきていますね。
──正しい知識を習得するために行っていることはありますか。
日々情報収集して勉強するに限ります。特にPMは、技術の知識だけあればいいわけではなく、他社の状況や社会情勢など、幅広く最新の情報を把握しておくことが大切です。PMとして技術と技術を組み合わせて何かを生み出そうとする際に、その技術にどのような特徴があるかなどを把握した上で判断する必要があるからです。実際にプロジェクトで新しい技術を体験すると、その特徴をよく理解できますね。
今注目が集まっている技術はやはりAIでしょう。AIの限界や、どう業務に生かせるかを正確に把握して活用していく必要があると思います。日本は何より超少子高齢化社会ですから、AIやロボットを使って人手不足を解消していかないと、社会課題に対処しきれなくなります。AIは日本にとっても必要性の高い技術だと感じていますね。