「主要業務が2日半止まった」危機対応部創設の背景
国内外で多岐にわたる保険商品を提供している損保ジャパン。同社は、2021年6月に大きなシステム障害を経験している。この障害ではホストシステムがダウンし、顧客の保険申込みや保険金支払いなどの業務が2日半も滞る事態に陥った。これに加えて、同年に小さなシステム障害が立て続けに起きたことも契機となり、損保ジャパンでは徹底的な真因分析が行われ、再発防止策が検討された。経営会議にて危機対応の専門部署の創設がトップダウンで決定され、2021年12月には損保ジャパンのシステム開発や保守を行うSOMPOシステムズに「危機対応部」が発足することとなった。
危機対応部創設の大きな目的は、開発や保守部門が復旧に専念できる体制を構築することだ。損保ジャパン IT企画部 システムリスク管理グループ 宮沢功介氏は「システム障害が起きると開発・保守部門はただでさえ復旧作業で忙しいのに、各方面から問い合わせが集中し、対応に追われて作業の手が止まりかねません。こうした事態を防ぐための体制作りを行いました」と語る。

部署の設立当初から危機対応部に在籍している雪吹泰伸氏は、1999年に損保ジャパン(当時は日産火災海上保険)に入社し、システム部門だけでなく企業営業部門などを歴任した人物だ。障害時には自らもインシデントコマンダーとして障害対応に奔走する。社内では「親方」という愛称で親しまれている。
同部の創設にあたり、雪吹氏はまず危機対応を軸にSOMPOシステムズ内の現状を観察してみたという。すると障害発生時に「自責(同社のシステムに起因)か他責(外部ベンダーに起因)」の切り分けにフォーカスしがちで主体的に動く意識が根付いていないことや、自分たちの業務だけを見ていて全体を見る広い視野が足りていないことなどの課題が浮き彫りになった。
「ホストシステムの障害はハード故障が原因だったので、それ自体を防げるものではなかったのですが、復旧に向けてすぐに動ける体制が整っていないことが課題でした。また、自分の守備範囲だけをやればよいというようなマインド面の課題などもありました。今の体制が整っていたら防げたであろう障害も(過去には)あったかと思います」(雪吹氏)

一方、社内にはコミュニケーション力、機動力、当事者意識などポジティブな素養を持つ人もいたため、良いところは活かしつつ、必要な素養を身につけることで、運営体制の確立を図ることにした。特に雪吹氏が大事にしたのは「ガバナンスだけやる部署」になるのではなく、障害発生部署とともに復旧に臨み「汗を流して支える」スタンスだ。
また障害時の対応に加えて、障害が起こりにくい安定運用も欠かせない。そこで、危機対応部の創設と同じタイミングで、システム品質を高めるための業務品質部もSOMPOシステムズに創設された。「危機対応部が障害発生後の対応を担う一方で、業務品質部は障害が起きにくいシステム品質を保つ役割を担っています」と宮沢氏は話す。