
本田技研工業(以下、ホンダ)は2024年7月、日本IBMが開催した年次イベント「THINK Japan」において、同社が進める“開発エキスパートの知識やノウハウのAI化”をテーマにした講演「AI活用による新たな提供価値を生むための創造的時間の創出」を実施した。昨年から生成AIの活用も開始したことで、さらに加速する取り組みのポイントを同講演の内容を基に紹介する。
既存業務の効率化により、新たな価値創出の時間を作る
自動車業界でガソリンエンジンからバッテリーモーターへの転換が進む中、メーカー各社は従来の価値を維持/進化させることに加えて、モビリティを軸にした新たな価値の提供に努めている。また、昨今はハードウェアのみならず、ソフトウェアによるデジタルサービスの重要性が高まり、その提供スピードも速まっている。
「技術は人のために」という創業以来の企業精神の下、モビリティカンパニーとして事業拡大に邁進するホンダでも、人が活躍できる時間と空間を広げ、移動にともなうさまざまな制約を取り除くことを目指し、多くの開発エンジニアが新たなチャレンジの真最中だ。その中で課題となっているのが、「新たな価値創出の時間を作るための開発生産性の向上」だと同社開発部門の安原重人氏は説明する。

「製品やサービスの提供スピードを上げ、エンジニアリングのリソースをさらなる付加価値の創出にしっかりと割り当てるために、従来の開発業務の生産性向上に取り組んでいます」(安原氏)
目指すゴールは、“エンジニアリングの問題解決”を支援するシステム
業務生産性の向上は一足飛びに実現できるものではなく、いくつかのステップを踏む必要がある。その流れは、社内のエキスパートが日々蓄えている「ノウハウの共有」、情報(ノウハウ)の一元化による「開発品質の安定化」、情報のデジタル化による「データの活用/再利用」、データを活用した自動化による「高速化」、そしてデジタル変革(DX)による「業容の変革」の順になるとして、「これらのステップを踏むことで着実に生産性を高め、新たな領域に挑む創造的時間を生み出したい」と安原氏は話す。
これに向けた生産性向上の取り組みとして、ホンダでは以前より開発エキスパートの経験、思考、知識を表出化および構造化した“知識モデル”の構築と活用に取り組んできた。同社のエンジニアが経験し、身に付けた知識や思考を形式知化・構造化し、コンピューターが処理可能な形にモデル化することで、誰でもエキスパートの知識と経験を活用できる状態にする。これにより、知識・経験の少ない若手エンジニアが、より早く正確に解決策にたどり着けるようになるという。
このとき、ゴールとしているのは、あたかもベテランエンジニアが若手エンジニアを導くかのように、最適なプロセスを提示してエンジニアリングにおける問題解決を支援するシステムだ。
「エンジニアは日々、新たな問題に直面していますが、その解決に向けたプロセスやストーリーを作る際、若手のエンジニアはどうしても選択肢が少なかったり、先輩に聞かなければ手順を作れなかったりします。そのような若手の相談相手を、このシステムに置き換えたいと考えました」(安原氏)
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名須川 竜太(ナスカワ リュウタ)
編集者・ライター
編集プロダクションを経て、1997年にIDGジャパン入社。Java開発専門誌「月刊JavaWorld」の編集長を務めた後、2005年に「ITアーキテクト」を創刊。システム開発の上流工程やアーキテクチャ設計を担う技術者への情報提供に努める。2009年に「CIO Magazine」編集長に就...※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
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