大林組のDX原動力は「現場の課題意識」 実務者たちを中心にした“自発的な変革”を後押し
第21回:大林組 DX本部 生産デジタル部 生産第二課長 市川和美さん

大林組は、2022年に発表した中期経営計画で「デジタルによる変革の実践」を掲げ、「収益を支える生産DX」「生産を支えるバックオフィスのDX」「情報セキュリティの強化」を3本柱に、DX基盤を構築。2023年には「DX銘柄2023」に選定されるなど、着実に成果を上げている。強みは、やはり現場力だ。DX本部 生産デジタル部 生産第二課長 市川和美さんに聞いた。
「何もかもがスムーズに」DX本部新設での変化
酒井真弓(以下、酒井):大林組は2022年2月、いわゆる情報システム部門、BIM(Building Information Modeling)生産基盤部門、業務プロセス改革部門を統合し、現在のDX本部を立ち上げました。IT関連部門の足並みが揃ったことで、DXの進め方にどのような変化がありましたか?
市川和美(以下、市川):何をするにもスムーズになりました。デジタル戦略立案から製品選定・導入、業務プロセス改革、人材育成まで、DX本部が一気通貫で進められるようになったので、変化を切に実感しています。たとえば、BIMを使った生産基盤を構築する際も、まずは今の業務プロセスを見直した上で製品を導入し、ユーザー部門にレクチャーし、さらに、BIMデータの全社活用まで見据えて準備をするといった、全社最適な進め方ができるようになりました。
私は主に、BIM生産基盤、事業部門のデジタル化を担当しています。BIMとは、建物の設計・建設・管理を支援するソフトウェアです。建物の3次元モデルに、建物の構造やコスト、仕上げ材料、管理情報などあらゆるデータを付加し、設計からメンテナンスまで、建物のライフサイクル全体を管理します。
酒井:建設において、なくてはならないシステムですね。
市川:大林組では、2010年からBIMを活用しています。当初は、効率的な設計や情報の一元管理を目的に、建物のデータを3Dモデルにすることに重きを置いていました。現在は、BIMデータをどう活かすかが焦点となっています。単にデータを蓄積するだけでは活用できません。そこで一定のルールに準拠したモデルを作成できるよう、独自のモデリングルール「Smart BIM Standard」を定めました。今後はこれを土台に、生産情報を整備し、全社のデータレイク、データウェアハウスに移行します。2024年度には、3D生産基盤への移行に向けた意識の改革を目指しています。

酒井:御社は建設現場のDXにも力を入れているんですよね。
市川:はい。2012年から現場にiPadを導入していますが、今では必須ツールになっています。図面や各種資料をiPadで表示するのはもちろんのこと、現場検査支援アプリや野帳アプリ「eYACHO」など活用して現場業務の効率化を進めています。
実は今、社内で情報リテラシーの底上げを目的に、参加希望制で「Microsoft Power Apps」や「Power BI」などの勉強会を開催しているのですが、現場の方も参加されているんですよ。
酒井:すごい! 皆さんどんなモチベーションで参加されているんですか?
市川:単にスキルアップというより、「目の前の業務課題を解決したい」という方が多い印象です。勉強会でアプリを一つ作ってみるのですが、その後、自分でも試行錯誤して作ってくる人もいます。今後はそういった自作の業務アプリをどう運用していくかが課題になりそうです。
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酒井 真弓(サカイ マユミ)
ノンフィクションライター。アイティメディア(株)で情報システム部を経て、エンタープライズIT領域において年間60ほどのイベントを企画。2018年、フリーに転向。現在は記者、広報、イベント企画、マネージャーとして、行政から民間まで幅広く記事執筆、企画運営に奔走している。日本初となるGoogle C...
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