グローバル5,399名での調査から見る、日本企業の現状
オートデスクが昨年から公開している調査レポート、その内容は広範かつ同社特有のインサイトが添えられた80ページ以上にもおよぶ大作だ。なぜ、ここまで大規模な年次調査を行うのか。加藤氏は「テクノロジーの進化、世界情勢の変化にともない、まずは自社が置かれている現況を確認することが重要です。世界のトップランナーとのギャップを認識した上で、価値創出の方法を考える。そのための参考資料として、レポートを公開しています」と説明する。
調査対象となったのは、企業の経営者や経営層、未来学者、専門家など、幅広い分野で影響力を持つ人々。主に建築土木、製造業、メディア・エンターテインメントの3つのデザインと創造の業界から意見を集めている。2023年版は2,500名だった回答者数を、2024年版では5,399名に増やすなど、より広範な意見が集約された。
同レポートの主要テーマは「ビジネスのレジリエンス」「人材」「サステナビリティ」の3つ。読んでみて真っ先に目に入ったのは、グローバルではデジタル成熟度の高い企業がより業績を上げており、ビジネスリーダーはDXが競争力強化や生産性向上につながると考えているという調査結果だ。グローバル64%の企業が自社のデジタル成熟度は高いと回答し、72%が昨年の予想を超えるパフォーマンスを達成したと答えている。
また、「将来の予期せぬ変化への対処準備ができている」と回答した割合は73%で、前年比14ポイントの増加。DXやデジタル化への取り組みが訴えられている中、業績に結びついた企業が増えているだけでなく、グローバル全体で水準も向上していることが見受けられる。
一方、日本に焦点をあててみると、テクノロジー投資を大幅に増加した企業は約1割にとどまり、デジタル投資の水準は依然として低い。「不確実な未来への準備ができている」と回答した企業は44%、グローバルと比較してレジリエンスの低さが目立った。さらに、「データの自動化/技術の進歩/デジタル化」が重要課題として挙げられているものの、残念ながら昨年から改善は見られない状況だ。
そんな中、76%の日本企業が「世界の変化に対応できている」と実感するという結果も見受けられ、将来への自信を持つ企業は増加した。事実、過去3年間の業績評価も上昇傾向にある日本市場では、楽観的な見方が戻りつつある。日本企業の直面する課題トップ3は「人材の獲得、トレーニング、維持」「コスト管理」「データの自動化/テクノロジーの進歩/デジタル化」で前年と変わらないが、業績が平均を上回ったと回答した割合は、31%から45%まで上昇した。
「対応しなければならない課題やそれを解決する新しいテクノロジーは次々と出てくるため、DXには完成形がありません。自社を評価する際、現在の状況だけを基にするのか、未来も見据えて考えるべきか、その判断は難しいと言えます。現在、多くの日本企業は現状に基づいてゴールを設定することが多く、少しずつ改善を進めている状況です。これからは、より計画的に戦略を立て、適切なタイミングでデジタル化、DXに関わる情報発信をできるかが重要視されるでしょう」(加藤氏)
こうした調査結果を基に、オートデスクでも顧客の価値創出をサポートするため、製品・ソリューションの拡充、提案などに活かしているという。現在、同社が進めているのは、業界別に展開してきたソリューションを1つのプラットフォームに集約し、そこに機械学習やAIを組み合わせることで、よりDXを前進させること。クラウドにデータを置くだけでも、デザインや製造、施工などの現場だけでなく、購買や在庫管理など他システムとの連携、取引先や顧客とのデータ共有が容易になり、効率的なデータ活用につながるとわかっているからだ。
オートデスクが展開する業界別クラウドサービスには、製造業向けの「Autodesk Fusion」、建設、土木業向けの「Autodesk Forma」、メディア・エンターテインメント業界向けの「Autodesk Flow」などがある。これらの業界別クラウドサービスでは、それぞれの業界別のワークフロー全体をカバーするシステムをゴールに開発中だ。AIの活用、コラボレーションなど、クラウドのメリットが最大限に活用できる領域から優先的にリリースしている。
従来から提供するデスクトップソフトウェア製品との連携には、Web APIツールなどを利用しているという。プラットフォームの標準機能として提供されるAPIを用いることで、企業はオンプレミス環境にあるシステムとの連携なども可能だ。これにより、2次元、3次元の設計データやAI分析の結果をWebブラウザで表示したり、データベースと連携して環境条件やコスト情報をリアルタイムで提供したりと、今後新たなテクノロジーが登場した際にも対応できる拡張性も備えている。
このような統合的なアプローチは、実際にニーズがあると加藤氏。建設業では、ビル建設の際には、美しいCGがプレゼンテーションに求められたり、自動車のCMでも仮想的な映像を使用したりと、業界を超えたソリューションを提案するケースは多い。また、建設業や土木業では施工分野の製品が多く使われているが、ビルの構造設計では机や空調機器など、他分野のデータも欠かせない。昨今は、スマートホームやスマートシティの設計で、その複雑性は増しているため、Autodeskプラットフォームでの業務効率化にも期待が寄せられている。
もちろん、これらはAutodesk製品・ソリューションが全面的にクラウド移行することを意味するものではない。事実、多くのユーザーが既存のワークフローを維持しつつも、必要な部分のみをプラットフォームと連携させる柔軟な活用方法を選んでいる。加藤氏は、「私たちは40年以上にわたってさまざまな業界で活動し、設計者や責任者の方々と共に製品を磨いてきました。そのすべての経験を活かしたプラットフォームであり、個社ごとに最適なペースで活用いただけます」と述べた。
DX、データ/AI活用のヒントに『デザインと創造の業界動向調査』
記事内で取り上げている調査レポート『2024年度版 デザインと創造の業界動向調査』を無料公開中! DXやデータ/AI活用、人材育成などの気になるトピックについて、各業界をリードする経営者や専門家5,399名による回答と洞察を80ページ以上にわたって掲載しています。ぜひ、本記事とあわせてご一読ください。
43%が「近い将来AIが不可欠になる」と予測、一方不安も……
『2024年度版 デザインと創造の業界動向調査』では、「AI」に関するトピックが大きく取り上げられたことも特徴だろう。レポートでは、グローバル76%が「自身の業界でAIを安心して利用できる」と答えており、78%が自社のAI判断に確信をもっている、72%が過去3年間にAI投資を拡大し、66%が近い将来AIが社内で不可欠になるとの回答結果が示された。AIへの信頼が少しずつ高まり、各業界でDXの推進力となってきている現状が読み取れる。
日本でも半数以上の企業がAIを信頼し、クリエイティビティ向上にも寄与すると回答。約3割の企業でAIの積極的な導入が進んでおり、グローバルの56%と比較すると、差が縮まっている印象だ。また、日本のリーダーの約半数が自社のAI判断に確信を持ち、43%が「近い将来AIが不可欠になる」と予測している。その一方、31%が「AIによる業界の不安定化を懸念している」との声も見受けられた。
加藤氏は、「日本企業は慎重な姿勢を取ることが多いですが、AIやデータの積極的な活用は不可欠です。重要なデータを自社に保管することは1つの戦略であるものの、開示できるデータを特定プロセスや業界全体で共有することで、相互的なメリットを得ることも欠かせなくなってきています。デジタル化された図面もそうですが、データを埋もれさせず、戦略的に活用することが求められています」と述べる。
AIがビジネスに与えるインパクトは、ますます大きくなってきた。今話題を呼んでいる「生成AI」は、インターネット上の大量データを扱う言語や画像分野が中心だが、図面や3次元データはインターネット上にほとんど公開されていない。つまり、自分たちで積極的に専門ツールを用いて自社データを解析し、活用しなければいけない。そこで、オートデスクが2023年11月に年次カンファレンス「Autodesk University」で発表したのが「Autodesk AI」だ。
DX、データ/AI活用のヒントに『デザインと創造の業界動向調査』
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データ保護とAI活用、企業のジレンマを解消する「Autodesk AI」
Autodesk AIは、ワークフローを自動化・拡張するAI機能の総称であり、リアルタイムでの解析機能や機械学習はもちろん、図面のマークアップを修正できる「マークアップ アシスト」などが含まれる。以前から製品内で提供していたAI機能を“業界横断”で活用できるように拡充している形だ。加藤氏は「現在、AIは一部製品や機能に搭載されていますが、将来的にはすべての製品でAIを使えるように計画しています」と説明する。
同社が従来からAIを組み込んできた大きな狙いは、業務効率化だ。建設現場での廃材や梱包材の削減もその1つだという。Autodesk AIは、迅速かつ低コストでの業務遂行を可能にしつつ、品質向上や環境問題への対応も実現する。その上で、データが持つ潜在能力を最大限に引き出し、新たな価値創造につなげていく。
たとえば、製造業向けのAutodesk Fusionでは、自動図面作成機能がある。3次元設計が主流になっても、コミュニケーションには図面が必要であり、間違いが起きないように一定のルールを守りながら図面を引かなければならず、時間やリソースがとられてしまう。そこで、自動図面作成機能により3次元形状から自動的に図面を生成でき、部品単位だけでなく、アセンブリ全体の図面も起こしてくれる。これにより、設計者の時間を大幅に節約し、業務効率化につながるという。
また、同社が提供する各種解析やシミュレーションツールにもAIを用いている。たとえば、ある開発区域(分譲地、工場や教育施設など)においてゲリラ豪雨などの降雨を想定し、浸水リスクを短時間で把握するための洪水シミュレーションにAIを搭載している。このように、一定の区域における浸水リスク評価にAIを用いることで、ミクロでの効率的な評価を実現している。
このようにAIは多様なシーンで活用できるようになってきたが、気になるのはセキュリティだろう。先述の調査結果にもあったように、AIが不可欠になるとわかっている一方、特に日本企業はデータセキュリティを重視する姿勢を示している。そこで、オートデスクは、米国国立標準技術研究所(NIST)の米国人工知能安全研究所コンソーシアムと協力し、科学的根拠に基づき実証的に裏付けられたAIの測定と政策に関するガイドラインと基準を策定し、世界中の“AIの安全性”の基盤を構築。フロンティアモデルから、新しいアプリケーションやアプローチに至るまで、次世代のAIモデルやシステムの能力に適切なリスク管理戦略で対応できるようになる。
最後に加藤氏は、「DXには完成形がないため、今できる部分から少しずつ取り組み、効果検証を積み重ねながら次のステップに進んでいくアプローチを推奨しています。AIの活用も同様です。当社には、グローバルで培ってきた知見や経験があり、世界各国地域の情報を収集・提供することはもちろん、業界を横断したソリューションも提案できます。ぜひ、各業界における長年の協力関係に支えられてきた、われわれの製品・ソリューションをお試しください」と自信を見せた。
DX、データ/AI活用のヒントに『デザインと創造の業界動向調査』
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