2024年6月12日、KPMGコンサルティングは、日本企業のレジリエンスとBCP(事業継続計画)の現状と課題を明らかにするために実施した「レジリエンスサーベイ2024」の結果を発表した。2024年は国内外で大規模な地震や自然災害が頻発し、企業環境の不確実性が増している中で、金融庁が「オペレーショナル・レジリエンス」に関するガイドラインを公表するなど、企業の事業継続への関心が高まっている。
調査では、上場・未上場企業4,000社に調査票を送付し、176件の有効回答を得た。調査目的は、企業の事業継続計画(BCP)の策定状況と、オペレーショナル・レジリエンスの取り組み状況を明らかにすることである。
事業中断の実態とBCPの策定状況
調査結果によると、リスク顕在化による事業中断の実態として、新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけに事業中断を経験した企業が43.5%に上り、大規模地震や風水害、ITシステム障害なども含めると、半数以上の企業が何らかの事業中断を経験していることが明らかになった。事業中断による損失額は、「1,000万円以上5,000万円未満」が最多で、「1億円以上」の損失を被った企業も1割近くに上った。
こうした中、事業継続計画(BCP)の策定率は87.9%に達し、2008年の調査開始以来最高となった。BCPの策定理由として、「顧客からの要請」(55.9%)、「株主・投資家からの要請」(32.9%)、「サプライヤからの要請」(20.4%)など、ステークホルダーの視点を重視する傾向が見られる。
「原因事象型からオールハザード型のBCPで備えよ」と指摘するのは、KPMGコンサルティングのSustainability Transformationアソシエイトパートナーの土谷豪氏だ。
「これまでのBCPは地震対策、インフルエンザ対策など、特定の原因事象ごとに策定されることが多かった。しかし、それでは想定外の事態に対応できない。オールハザード型BCPとは、地震、パンデミック、テロなど原因の事象を問わず、想定外の事態に備え、企業の経営リソースの影響を最小限に抑えることが目的です」(土谷氏)
BCPの策定手法としては、地震、風水害、感染症といった具体的な原因事象ごとに BCP を策定する企業が多く、 66.0% を占めている。一方で、「原因」ではなく、非常事態発生による「結果」として生じる経営リソースへの影響(要員の不足、停電、機器の故障等)に着目するオールハザード型 BCP (リソースベース BCP )を策定している企業は 30.7% にとどまっているのが現状だ。
オペレーショナル・レジリエンスへの取り組み
オペレーショナル・レジリエンスは、想定外の事象が発生した場合でも、最低限維持すべき水準において、重要な業務を提供し続ける能力のことであり、ビジネス環境が複雑化し業務中断を引き起こすリスクが高まる中で重視されている考え方。日本では 2023年4月に金融庁が「オペレーショナル・レジリエンス確保に向けた基本的な考え方」を公表している。
オペレーショナル・レジリエンスについては、金融機関の66.7%が「取り組みを進めている」のに対し、非金融企業では36.8%にとどまり、業種間で開きが見られた。オペレーショナル・レジリエンスの推進は業界問わず、経営レベルのテーマと捉えている企業が大勢を占める。また、推進の主管部門は金融業界では「リスク管理」を担う企業が多く、非金融業界では分散傾向がみられる。
「日本企業のオペレーショナル・レジリエンスの整備状況は、金融機関が先行しているものの、欧米と比べるとまだ低い水準だ。トップのリーダーシップの下、全社横断的に推進することが重要だ」とKPMGコンサルティングの関憲太執行役員は語る。
「トラブルが起きた際、現場で『バッドニュース・ファースト』で情報を吸い上げ、適切に対処する文化を根付かせることが肝要だ。形式的な対応だけでなく、レジリエンスカルチャー(リスク管理文化)の醸成に取り組む企業が増えている」(関氏)
レジリエンス確保は、もはやリスク管理部門だけの役割ではない。危機対応力を事業競争力に直結させ、レジリエントな企業体質を築くには、経営トップの強いコミットメントの下、事業部門や人事、情報システムなど関連部門を広く巻き込んだ全社的な取り組みが求められている。