
IT業界のトレンドは、常に目まぐるしく変化している。つい数年前まで、RPAは業務効率化の切り札の1つとして注目を集め、多くの企業が導入を進めた。しかし、RPAは“万能薬”ではなかった。導入の容易さゆえに、本来であれば業務プロセスそのものを見直すべき場面でも、安易にRPAで自動化してしまうケースが見受けられたからだ。これにより、業務のブラックボックス化や、かえって非効率なプロセスが塩漬けされるなどの問題も浮上。そんな中、突如として現れたのが生成AIだ。人間のように自然な文章や画像を生成する能力は、瞬く間に人々の心を掴み、RPAの影を薄れさせた。生成AIは、RPAが苦手としていた非定型的な業務や、高度な判断を必要とする業務にも対応できる可能性を秘めており、RPAの限界を打ち破り、真の業務効率化を実現できるのではとの期待も高まっている。
生成AIの登場はRPAには大きなチャンス
生成AIの登場は、RPAにとって脅威となるだけではない。むしろ、RPAの進化を促す可能性も秘めている。生成AIとRPAを組み合わせることで、これまで以上に高度な業務の自動化が可能になるだろう。たとえば、RPAが収集したデータを生成AIが分析し、その結果に基づいてRPAが次のアクションを実行するような連携も考えられる。
RPAのリーディングベンダーであるUiPath 最高製品責任者のグラハム・シェルドン氏は、「生成AIの登場は、RPA市場にとって大きなチャンスだと捉えています」と語る。生成AIは、UiPathの製品に対し、3つの大きなインパクトをもたらしている。その1つは、生成AIがUiPathの製品を使いやすくしてくれることだ。世間では「コパイロット」と呼ばれ、UiPathでは「Autopilot」と呼ぶ機能が実装され、開発者、テスター、アナリスト、さらにはビジネスサイドのエンドユーザーの使い勝手を大きく改善している。
2つ目の生成AIのインパクトは、RPAの自動化の幅が大きく広がることだ。たとえば、ドキュメントの内容を理解する「Document Understanding」や、コミュニケーションを分析する「Communications Mining」は生成AIにより進化。これらを活用することで、従来の自動化では対応が難しかった非構造化データも扱えるようになり、自動化の範囲がさらに拡大する。他にも生成AIでしかキャプチャーできないロジックなども取り込むことで、自動化の幅が広がるという。
これら2つのインパクトは既存のRPAのシナリオに則った自動化だが、3つ目のインパクトはまったく新しいシナリオだ。これまではできなかったことが生成AIでできるようになる。UiPathの新たな機能に「Clipboard AI」がある。これは「いわゆるデジタルペーパーワークを支援するソリューションです。たとえば、WebサイトからSAPやSalesforceなどのアプリケーションに情報を簡単にコピー&ペーストできるようにするもので、生成AIのLLMが複雑なデータの変換をすることで実現している機能です」と説明する。このような新しいユーザー体験が、生成AIによってもたらされる。

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谷川 耕一(タニカワ コウイチ)
EnterpriseZine/DB Online チーフキュレーターかつてAI、エキスパートシステムが流行っていたころに、開発エンジニアとしてIT業界に。その後UNIXの専門雑誌の編集者を経て、外資系ソフトウェアベンダーの製品マーケティング、広告、広報などの業務を経験。現在はフリーランスのITジャーナリスト...
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