クラウドERPへの移行をきっかけに、BI導入にリベンジ
BIには行き詰まったものの、2023年、マザーハウスのITは大きな転機を迎える。保守切れ間近の販売在庫管理パッケージから、SaaS型クラウドERPに移行を決めたのだ。しかし、プロジェクトは途中で壁にぶつかった。既存の販売在庫管理パッケージから新ERPへのデータ移行が、予想以上に難しかったのだ。過去のデータをどこに保存し、主要な売上レポートをどう出力するか、対応を迫られた。
「せっかくなら、このタイミングで全社BIにリベンジしようと。データ基盤としてはGoogle CloudのBigQueryを、BIツールとしてLooker Studioを導入しました」(山本氏)
導入の決め手は4つある。1つ目は、既存のマーケティングツールとの親和性だ。マザーハウスは以前からマーケティングオートメーションツールの「KARTE」を使用しており、そのバックエンドにBigQueryが使用されていた。2つ目は、グループウェアとして利用しているGoogle Workspaceとの連携だ。Google スプレッドシートとの連携のしやすさが魅力的だったという。3つ目、Looker Studioについては、UIや機能がシンプルで、エントリーユーザーにとっても使いやすい点が評価された。4つ目はコストだ。既存のGoogle Workspaceのアカウントを使えば、初期費用なしで利用できる。
「ミニマムに、クイックに」必然的に触れる機会を創出
BigQueryとLooker Studioの導入は、同時にExcel依存からの脱却を意味する。ここは以前の経験を踏まえ、ユーザーが徐々に慣れていけるよう、慎重かつ丁寧に進めたという。
「『ミニマムに、クイックに』を合言葉に、段階的なアプローチを選択しました。ERP刷新プロジェクトと歩調を合わせ、まずは売上と顧客データに絞ったレポートをリリース。主要レポートの置き換えから始めて社員の習熟度を徐々に高め、全社的な活用へと発展させる、長期的な戦略をとりました」(増田氏)
加えて、業務プロセスにLooker Studioを忍び込ませることで、必然的にツールに触れる機会を増やした。具体的には、日常的なデータ確認やレポート作成、データダウンロードツールとしてLooker Studioを活用するよう、システムに組み込んだという。
「どんなBIツールでも、『簡単にデータ分析できるから自由に使ってください』だけでは、うまくいきません。業務プロセスの中にうまく組み込むことで、自然と徐々に浸透していきました」(増田氏)
特筆すべきは、店舗にもLooker Studioの閲覧が浸透したことだ。マザーハウスでは、創業当初から各店舗を一つの会社のように捉え、店長は小さな経営者として、売上、費用、最終的な利益まですべて見ている。さらに、POSの定量的なデータだけでなく、「ギフト用に購入した」「誰へのプレゼントか」など、接客時にヒアリングした付帯情報を、スタッフ自身がレコードに残してきたという。データから示唆を得るための素地は、既に文化としてそこにあったのだ。
マーケティングの高度化や接客力向上にもデータを活用
BigQueryとLooker Studioによって、マザーハウスのマーケティングは大きく進化した。以前は、紙のダイレクトメール(DM)で画一的なアプローチを取っていたのだが、導入後は、特定の価格帯の商品を購入した顧客、特定のカテゴリーを好む顧客など、細かなセグメントに分けて訴求できるようになった。さらに、DMがどの程度購買につながり、どのような商品が購入されたかといった効果測定も可能に。様々なデータソースを統合することで、顧客理解が進み、データに基づく意思決定ができるようになった。
業務効率化の面では、特にレポート作成の負担が大幅に軽減された。手動でのExcel集計や加工が不要になったことでミスや確認作業が大幅に減り、毎日15分かかっていたタスクがまるっとなくなったケースもあるという。現場からは、「もう元には戻れない」という声も出ているそうだ。
マザーハウスにとって、接客力の向上も重要なテーマだ。増田氏は、「私たちのブランドは、プロダクトの背景や生産国の情報、大切にしている理念を接客の中で上手にお客様に伝えていけたらと考えている」と語る。そこで、接客力向上チームを中心に売上データを分析した結果も活かしながら、接客力向上への取り組みも加速させているという。