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マザーハウスが“Excelの限界”から全社BI導入にリベンジ──合言葉は「ミニマムに、クイックに」

#1:マザーハウス ICTチーム 増田康太郎氏、山本美里氏


 DXは、単なる技術導入ではない。生身の人間の経験や思いが色濃く反映される営みだ。つまり、DXは人なり。魅力的な人や組織があるところには必ず“面白いDX”が進行しているはずだ。この仮説を検証すべく、ノンフィクションライター酒井真弓が、勝手気ままに会いたい人に会いに行く新連載。初回は、著者も愛用するマザーハウスの中の人を訪ねた。

急成長に伴うデータ量の増加。Excel一辺倒からの脱却を決意

 「途上国から世界に通用するブランドをつくる」という理念を掲げ、2006年にバングラデシュからスタートしたマザーハウス。現在では日本国内に40店舗以上を展開し、台湾やシンガポールにも進出している。個性豊かな素材と職人の手仕事で生み出されたバッグやジュエリーには、一点一点に物語が宿る。マザーハウスは筆者にとって琴線に触れるブランドで、今年の親友の誕生日に同社の天然石のネックレスを贈ったほどだ。

 近年、小売業界においてデータ分析の重要性が増している。顧客の購買行動や嗜好を理解し、効果的な販売戦略を立てるには、様々なデータを収集・分析することが不可欠だ。マザーハウスも例外ではない。

 2018年頃、同社は慣れ親しんだExcelだけを使ってデータ分析をしていた。しかし、事業の拡大にともない、様々な課題が浮上した。たとえば、週に1回、各システムから抽出したデータを手動で加工する作業では、関数の組み合わせミスなどによるヒューマンエラーが頻発。効率的なデータ分析の足かせとなっていたという。当時を知るICTチーム マネージャーの山本美里氏はこう振り返る。

 「私たちが分析と呼んでいたものは、実際には単なる集計作業でした。本来データ分析は、接客や販促に活かすためのクリエイティブな活動のはずです。しかし、データから示唆を導き出す前に、集計作業だけでお腹いっぱい。結果として、データ分析が単純作業と化していました」(山本氏)

株式会社マザーハウス ICTチーム マネージャー 山本美里氏

 さらに深刻だったのは、データ量の増加によるExcelの処理能力の限界だ。ここ数年で事業規模が拡大し、扱うデータ量が数十万レコードにまで膨れ上がっていた。「分析したいのに、Excelが重すぎて開けない」「PCのメモリを増設してほしい」という声が頻繁にあがってくるようになった。ICTチーム グループ統括マネージャー 増田康太郎氏は、メモリ増設も間違いではないが、もっと根本的な解決の必要性を感じたという。「こんな話が本当にあるのかと思う方もいらっしゃると思いますが、意外と“中小企業あるある"なんじゃないかと思います」と増田氏。

BIツールを導入するも、ついてこれたのは2人だけ

 2019年、マザーハウスはBIツールの導入に踏み切った。最初は商品計画や物流をコントロールするチームからミニマムにスタートしたという。

 だが、ここで新たな課題が浮上した。「フロントはユーザーに対しては触りやすい環境を用意したものの、裏側のインテリジェンスは作りませんでした。そのため、IT部門が手動でデータを落として加工し、毎回データウェアハウスのようなものを作る手間がかかるようになってしまったのです」と増田氏は話す。

 ユーザーの習熟度の問題も浮上した。増田氏は、「選定したBIツールは機能が豊富で、リテラシーが高いユーザーにとっては満足度の高いツールである一方、Excelしか使ったことがないユーザーにとっては難易度が高く、メリットを感じる前に離脱してしまった」と振り返る。ついてこれたユーザーは、IT畑出身の2人だけだったという。

次のページ
クラウドERPへの移行をきっかけに、BI導入にリベンジ

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この記事の著者

酒井 真弓(サカイ マユミ)

ノンフィクションライター。アイティメディア(株)で情報システム部を経て、エンタープライズIT領域において年間60ほどのイベントを企画。2018年、フリーに転向。現在は記者、広報、イベント企画、マネージャーとして、行政から民間まで幅広く記事執筆、企画運営に奔走している。日本初となるGoogle C...

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