SCSKは、これまで培ってきた技術知財を活かし、デジタルオファリング事業への転換を進めている。クラウドERP「ProActive」を中心に据え、業務分野や業界特性に応じた課題を解決するメニュー化が進行中だ。とりわけ流通・卸売業界においては、Fit to Standardの流れを踏まえながら、日本の中堅企業が直面する独自の課題に対応する取り組みを強化している。今回は、ERPコンサルティングの第一線で長年活躍してきた土井明子氏に、流通・卸売業界の課題解決のあり方と、AIを活用した次世代のDXの可能性について話を伺った。
ERPコンサルタントとしての長年のキャリアを活かす

──まずは土井様のキャリアについてお聞かせください。
SCSKに入社する以前は、大手外資系コンサルティングファームのIT部門でERP導入コンサルティングを担当していました。その中でSCSKのERP製品であるProActive導入の機会に恵まれ、約5年間にわたりパートナーとして携わりました。その後、事業譲渡によりSCSKに移籍し、今年の6月でちょうど10年を迎えています。SCSKでは業界のしばりにとらわれることなく、商社、流通・卸売業、製造業、エネルギー・サービス業など、幅広い業種のお客様に対してProActiveの新規導入を推進してきました。
──コンサルティング経験が現在の業務にどのように活きているのでしょうか。
コンサルティングファームの出身という背景を活かし、ERP導入段階だけでなく、それ以前のシステム構想の段階からの支援にも関わることができていると思います。具体的には、導入前の課題解決や業務プロセスの見直し、RFP作成支援からパッケージの選定まで幅広く携わっています。ERPを中心に据えながら、全体のグランドデザインを策定するという形で、以前のキャリアが大いに役立っていると実感しています。
「Fit to Standard」と「独自戦略支援」──ERPに求められる両軸の展開
──ERPの市場について、現在のターゲット領域や競争環境についてお聞かせください。
ProActiveの主要なターゲットは、売上高100億円~3,000億円規模の企業です。会計を中心に、人事・給与、販売管理などの各業務機能を提供しています。私自身は販売領域がフィールドではありますが、END to ENDで支援できるよう、販売から会計までを横断的に担当しています。
国内のERP市場は競合が非常に多く、特に国内ベンダーとの競争が激しい状況です。この市場の特徴は、製品の機能性だけでなく、ベンダーとしての伴走力が重視されることです。日本の中堅企業は、『どこまで本気で自分たちと伴走してくれるのか』というパートナーシップの観点で我々を評価します。
そうした環境の中で、SCSKとして顧客のバリューをいかに高めていくことができるかという点に主軸を置いています。ERPが持つ領域だけでなくWEB受注やEDI、会計や人事給与領域のBPR等、END to ENDの支援が行えるよう、総合的な価値を提供していく方針です。
──近年のERP市場の変化をどのように捉えていますか。
ERPベンダーの視点から見ると、各分野で特化した製品・サービスをトータルで提供するという「ベストプラクティス」戦略が通用しにくくなっています。これまで大手ERPベンダーは、会計、人事・給与、販売管理など全てのモジュールを統合的に提供することで、業務の標準化や内部統制の強化といったメリットを訴求してきました。しかし、現在はそれだけでは不十分だと考えています。
従来の業務共通のベストプラクティス戦略自体は、間違っていたわけではありません。ただし、特に販売管理系の領域では、業務の標準化を重視するあまり、企業の独自性がシステム上で排除されてしまう傾向にありました。その結果、ERPがコスト圧縮のための手段に留まり、事業成長や利益最大化を支援するツールとしての役割を十分に果たせていないのではないかと考えています。
──標準化、効率化だけではなく、企業の独自性や個別戦略をより重視するということですか?
正確には、業界に特化したインサイトを示唆できることが重要であるということです。もちろん、標準化と効率化の追求は、これまで以上に進める必要があります。しかし、それと同時に、これまでの知見やAIなどの新しい技術を活用し、業界特有の課題にダイレクトにアプローチすることも求められています。中小企業庁の統計を見ると、レッドオーシャン市場でも積極的に新規参入する企業が多く存在します。その主な理由は、自社の独自性やサービスに競争力があると確信しているからです。しかし、各企業が独自戦略を展開する中で、ERPがそれに追随できず、むしろ生産性を低下させてしまうというケースも見られます。
ERPの導入アプローチは、この20年で大きく進化してきました。かつては、部門ごとに個別最適化され、複雑化した業務プロセスを標準化することが主流でした。しかし今日では、業界共通の課題に対する標準化(Fit to Standard)と、お客様の固有の課題の解決や独自の戦略を支援するという、両軸の展開が必要だと思います。
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京部康男 (編集部)(キョウベヤスオ)
ライター兼エディター。翔泳社EnterpriseZineには業務委託として関わる。翔泳社在籍時には各種イベントの立ち上げやメディア、書籍、イベントに関わってきた。現在はフリーランスとして、エンタープライズIT、行政情報IT関連、企業のWeb記事作成、企業出版支援などを行う。Mail : k...
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