データ復旧依頼の最多「水被害」 水没する前にできること
災害が起きたとき、企業の重要データを保護するための方法と災害が起きた後にするべきことは一体何なのか。データ復旧サービスを提供する弊社に寄せられる自然災害の相談で最も多いのは「水害による水没」だ。水害は大規模で広範囲に及ぶことが多く、企業やデータセンターが同時に被害を受ける可能性が高い。電子機器にとって水害は致命的で、復元が不可能という事態も少なくない。
電子機器が水没すると、内部に塩分や不純物が入ってしまうことが多い。そうした汚れを水で洗い流したり、そのままにしていたりすると、被害が拡大してしまう恐れがあるので、慎重に行う必要がある。実際に弊社が対応した具体事例をみていこう。
2022年8月、線状降水帯による水害被害で、新潟県を中心に100ヵ所以上の事業所をもつ社会福祉法人の電子機器4台が水没してしまった。そのなかには日常業務で使用する介護施設内で使用するデータや名簿、会計データなどが含まれていた。被災助成の申請に必要なデータも含まれており、企業の事業継続ができないだけでなく、助成金受給も厳しい状態に……。バックアップをとる習慣はなく、ちょうど災害に備えてクラウド上にバックアップすること検討していた最中の被害となった。
電子機器を設置していた1階は冠水状態で、会社は立ち入り禁止。被害状況の全貌が見えない中で弊社に相談がきた。弊社で調べてみると、ファームウェア異常が発生していると判明。ファームウェア修復作業を行ってクローンを作成し、早急に1日でデータ復旧した。
2019年10月、台風19号では製造会社の工場が水没。企業のサーバー全体が泥まみれになる事態に見舞われた。同社は、自動車メーカーに油圧プレスなどの機械を提供している製造会社で、機器の図面が入っているサーバーが水没してしまい事業に影響する可能性が出た。バックアップをとっておらず、サーバーが使用不可になってしまうと機器の製造に影響し、業務停止になる恐れもあり、弊社に相談があった。泥まみれになったサーバー全体の状態が悪く、異音が発生していた上に、データの複製作業が行えない論理障害が併発していることを確認。破損した部品の交換やファームウェア修復作業を行ったのちにデータのコピーを行い、データを復旧した。
どのように対処すれば企業はデータ消失の危機を防ぐことができたのか。台風・大雨からデータを守るためには事前の対策が非常に重要だ。上記の2社はデータ復旧に成功したが、必ずしもそうとは限らない。災害被害のリスクを軽減するためには、定期的なバックアップの実施やクラウドのバックアップ、サーバーの設置場所の見直しなどが効果的だ。災害発生前に、データを保管しているサーバールームを耐水・耐震衝撃の構造に設計するなど、物理的な水没からハードウェアを守る設備対策をする必要がある。
また、ハードウェアが老朽化している場合、水害による損傷リスクが高まるため定期的に社内の機器の状態をチェックし、更新するのを推奨する。バックアップは、サーバーと同じ場所に保存するのではなく、物理的に離れた場所やクラウド上にとることも大切だ。重要なのはデータのバックアップの保管場所と会社が同時に被災しないこと。企業の情シス担当者には、クラウドや別の物理的な場所に保存するなど多重保存を推奨したい。データを失ってからでは遅いので、念には念を重ねて、万が一を想像して対策をするのが大切である。
また、バックアップの頻度の設定も重要だ。今回紹介した2社目の図面データなど事業運営に欠かせない重要データはリアルタイムでバックアップし、定期的に復元を行い、正常にバックアップが機能しているかを確認する必要がある。これらの対策を日頃から実施しておくことで、災害によるデータ消失や業務停止のリスクを減らし会社の事業継続性を高めることができる。企業の情シス担当者は、業務に追われる毎日であっても、いざというときのために、定期的にデータのバックアップをとっておくことを勧めたい。
万が一、機器が水没してしまった場合の対処方法について、泥などで汚れると個人の判断で、流水でHDDを開けて洗ってしまう人もいるが、何もしないで濡れたままの状態でデータ復旧業者に持ち込んでもらうことがよく、流水で汚れを洗い流すのはNG。最適な対処方法は、表面や見える範囲の水分を乾いた布やペーパータオルで拭き取り、濡らして絞ったタオルに包み、食品保存用のストックバッグに入れて保管することだ。電子機器の重要なデータはバックアップさえあれば守れると考える人もいるが、それだけで完全にデータを守れるわけではない。