「radiko viewer」を契機にデータ活用を本格化
東日本エリアにおける民間ラジオ放送局のパイオニアとして、70年以上にわたって多彩なラジオ番組をリスナーに届け続けているTBSラジオ。コアなラジオファンからの高い支持を集めつつ、近年ではradikoやポッドキャスト「TBS Podcast」、YouTubeなど、従来のラジオ放送を越えた多彩なメディア上で幅広い音声コンテンツを発信している。
そんな同社が近年力を入れている施策の1つが「データ活用」だ。新聞やテレビなど古くからあるメディアは現在、デジタル化の大きな波にさらされており、各社ともデジタル技術の活用で新たな収益源を確保しようと試行錯誤している。ラジオの世界も同様で、現在各局がデジタル化やデータ活用による、新たなビジネスモデルの確立を急いでいる状況だ。
なお、ラジオでは、テレビの視聴率に相当する「聴取率」が番組の人気を図る指標として、現在に至るまで長らく用いられてきた。かつては聴取率が唯一の指標だったが、今日ではさまざまなデータが指標として採用されるようになり、より多くの聴取者数や新規ユーザーを獲得するため、データを使った番組作りや広告戦略が徐々に浸透しつつある。
その最大のきっかけとなったのが、2020年にradiko社から「radiko viewer」と呼ばれるサービスが提供されたことだった。radiko viewerは、radikoプラットフォーム上で番組を配信している各放送局が、リアルタイムでの聴取者の推移やユーザーアンケートの結果など、さまざまなデータをダッシュボード画面上から参照できるようにしたもの。これによりradikoを利用する放送局は、番組視聴に関わるさまざまなデータを多角的に分析し、その結果を番組の制作や編成、マーケティング活動などに反映できるようになった。
しかし、TBSラジオ 総合戦略局の富田大滋氏によれば、radiko viewerが提供するデータだけでは、同社が思い描いていたデータ利活用は実現できないと当時は判断したという。
「radiko viewerによるデータだけでは、私たちが求めるデータ分析の“深さ”を実現できませんでした。たとえば、radiko viewerでは各番組別の聴取数はわかるものの、『各番組を共通して聴取しているリスナーはどれだけいるか』といった分析はできません。また、番組をどの日時に聴取しても、その数は放送日時の聴取数にまとめられてしまうため、『番組を実際に聴取した日時ベースでの聴取分布・推移』といった可視化も不可能でした」(富田氏)
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そこでTBSラジオは、radikoから別途ログの生データを取得。それらを独自の「データ分析プラットフォーム」で可視化・分析する取り組みに着手している。このログデータには、radiko viewerからは参照できない詳細な情報が数多く含まれているとともに、「radiko ID」と呼ばれる匿名のリスナー識別符号が含まれているため、これを用いて分析することで「番組Aと番組Bを共通して聴いていたリスナーの数」「各番組の“実際に聴取していた時刻”のリスナー数」といった、より深い洞察が導き出せるようになったという。具体的には、番宣の手法やその効果測定が、より明確に実行できるようになったことなどが大きく変わった点だ。
さらに天候情報や暦情報などのオープンデータ、自社サイトのアクセスログ、SNSアカウントのフォロワー数や投稿の反応など、さまざまな周辺データを同一のデータプラットフォームに連携。radikoの聴取データを軸として、多様な切り口から分析できるようにした。加えて同社はポッドキャストやYouTubeでも番組を配信しており、これらのメディアから取得した情報も同じデータプラットフォーム上に載せている。
「まずは、radikoのログデータをプラットフォーム上に載せて、分析できるように整えることを初期目標に据えました。その後、TBS PodcastやYouTubeから取得していたデータを取り込みつつ、天候やSNSなどの情報と突合させることで、さまざまな角度から分析できる環境を構築。さらには、AIを用いて各種データから『まったく新たな知見』を見いだせる環境も整えました」(富田氏)
なお、データプラットフォームの具体的な設計・構築作業は、既に実績を持っていたprimeNumber社の技術支援を受けながら進めたという。Google BigQueryのDWH基盤上で毎日何千万行にも及ぶ、膨大な量のログデータを取り込んで分析できるデータ分析プラットフォームの完成までこぎ着けることができた。