3. Physical AIの時代
今回の発表では、物理的な世界(ハードウェア)の領域にもソフトウェアの発想が広がり、AIによるイノベーションが起きる点が強調されました。これが「Physical AI」の時代です。
ソフトウェア的手法でハードウェア開発の試行回数を増やす
AIの最大の利点の一つは、試行回数の大幅な増加を可能にすることにあります。従来は、人間がボトルネックとなり実験や検証サイクルを十分に回せないケースも多々ありました。しかし、物理領域でもソフトウェア的アプローチを取り入れることで、設計・実験・検証のサイクルを高速に回し、圧倒的なスピードで性能を向上させられるようになります。
テスラ(Tesla)が頻繁なソフトウェアアップデートによって車の機能を進化させているのは、まさにこの考え方の典型例です。ハードウェアの世界にソフトウェアの開発手法を導入し、常に最新の性能を引き出していくわけです。
データ合成とシミュレーションで加速する「ワールドモデル」の開発
その上で、今回の発表では、物理現象を理解する基盤モデル「Cosmos」と、Omniverseの物理シミュレーションとの連携などに触れられていました。
これが意味するところとしては、従来、ロボティクスや自動運転など、物理世界を扱うAIには大量の学習データが必要とされ、現実の環境やセンサー情報だけに依存していては、データ収集や検証に膨大な時間とコストがかかるとされていました。
その現状に対して、今回提示されたのは、仮想空間で作成した合成データを活用する技術を推進し、シミュレーション環境でより多くの試行を実行するアプローチでした。これにより、開発サイクルを格段にスピードアップし、高精度なAIモデルを迅速に育成できるようになります。
日本企業は自動車やロボティクスなどの分野で依然として大きなシェアをもっていますが、今後は「ソフトウェアを活用し、どれだけ迅速に試行回数を回せるか」が競争力の鍵となることが示されたといえます。
4. これからのビジネスへの示唆
以上のように、AIの基盤モデルが社会インフラとなり、Agentic AIやPhysical AIが普及していく未来では、ビジネスの考え方が大きく変化していきます。
数年前までは、“Software is eating the world”「ソフトウェアが世界を飲み込む」という言葉が象徴するように、ソフトウェアによって全産業が再定義されていく時代でしたが、この数年で、さらに状況が変化し、“AI is eating software”、さらには“AI is eating hardware”になっていくものと考察します。
多くの日本企業が「IT導入」「デジタル化」に取り組んできたものと思いますし、AI活用と言ってもプロダクトにAI機能が付いているものを導入するようなことが多かったかと思います。しかし、今後は、AIを使うことを前提に、業務プロセスを見直す必要が生じ、より抜本的な変化が求められるようになります。
そんな時代に大切なのは、変化を乗りこなしながら、ソフトウェアやAIに負けない勢いで、人も組織も試行回数を増やしていくことではないでしょうか。