Stella AIで目指すのは、誰もが「生成AI」を使いこなせる世界
SUPERNOVAは、NTTドコモグループの新規事業創出プログラム「docomo STARTUP」からスピンアウトした企業。2024年1月11日に設立され、生成AI技術を活用したサービスを開発・展開している。現在、同社の主力となっているサービスは2つ。そのひとつが「LearningToon」であり、生成AIとクリエイターを掛け合わせた独自のオペレーションで、ハイスピード・ハイクオリティなマンガ製作を実現し、会社の研修やプロモーションなど、幅広い“マンガコンテンツ”を提供している。
そして、もうひとつ注力している事業こそが、2024年12月1日から提供している生成AIプラットフォーム「Stella AI」だ。

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これは「Gemini」「GPT」「Claude」「tsuzumi」など、複数のAIモデルを利用できるサービス。「初心者にも使いやすいインターフェースで、できるだけ多くの方が生成AIを利用できるようにデザインしました」というのは、SUPERNOVA 代表取締役社長の木本東賢氏だ。

『令和6年版 情報通信白書』(総務省)によれば、日本における生成AIの普及率は個人利用で9%にとどまる。便利なのに、なぜ使わないのか。SUPERNOVAがヒアリングしてみると「問いかけても良い結果が返ってこない」「チャットにどのように入力すれば良いのかわからない」などの声が聞こえてきた。同社 取締役CTOの源芳朗氏は、「生成AIの利用が初めての人も、使い慣れた人でも“使いやすいサービス”を作ろうと考え、『Stella AI』プロジェクトはスタートしました」と話す。
そこで目をつけたのは、“生成AIとのチャット”を楽にするというアプローチだ。Stella AIでは、1,000種類以上のテンプレートを用意することで、目的にあったテンプレートを選び、自分好みに設定を少し変えるだけで有効な答えが得られるようにした。テンプレートを使って生成する概念を拡張した、「ワンクリック生成」も提供している。日常的に使用するGoogle Chromeなど、ブラウザの拡張機能として提供しており、たとえばWebページに表示されている文章をドラッグすると、「要約」「翻訳」「解説」した結果をワンクリックで生成可能だ。さらにテキスト入力画面では文章の校正、トーンの調整といった「編集」も手軽に行える。Microsoft OfficeのWord、Excel、Outlookに加え、Googleのスプレッドシートなどのサービスでも提供を予定している。
現在Stella AIは、主に個人ユーザー向けのサービスとして展開しているが、フリーランスや副業において“仕事の効率”を向上させるような使い方も少なくないという。ユーザーからの要望に応えるため、検索やドキュメントインプットにも対応するなど、テンプレート以外にもユーザーにあわせた使いやすさを追及。仕事以外にも「料理のレシピ」「デートの断り方」など、個人ユーザーならではの使い方も浸透している。
なぜTiDBに決めたのか? ビジネスを考慮した「拡張性」が鍵に
Stella AIのような新サービスを市場に展開する際には、何よりスピードが求められる。その上で将来的に数万から数十万のユーザーに広く利用してもらうため、認証などのセキュリティ対策、高いレベルでの信頼性や安定性の確保も欠かせない。
今回、Stella AIのサービスプラットフォームに選定したのは「Google Cloud」。源氏ら開発チームは、前述したような高いレベルの要件を満たすためには、なるべくGoogle Cloudに集約した形で開発・運用すべきと考えていた。特に重要視したのは、サービス利用の度に発生するデータを適切に管理するためのデータベースだ。当初データベースには、使い慣れたMySQLの利用を想定していたものの、「ユーザーが増えてスケールした際には、書き込み処理がボトルネックになるのでは」との懸念があったと源氏。実際にデータベースの本格的な検証が始まったのは、サービス公開の約3ヵ月前にあたる2024年9月のことだった。

まず検証にあたり、ユーザー数に比例してデータ量やトランザクションが増えていく利用ログなどのデータ管理には、先述した理由からもNewSQLデータベース「Cloud Spanner」が候補に挙がったという。とはいえ、開発チームメンバーにおけるCloud Spannerの利用経験は少なく、使いこなしていくには相応の学習コストが発生することも予測された。
このとき、もうひとつの候補となったのが「TiDB」だ。開発メンバーの1人が、大きな拡張性が求められるゲーム業界で良く使われており、既に実績があることを知っていた。そこでTiDBについても調査してみると、MySQLとの互換性が高く、これまで蓄積してきたスキルが活用できることが判明。MySQL Workbenchなどのサードパーティーツールも利用できるため、開発生産性は高くなると判断できた。また、マネージドサービスの「TiDB Cloud」ならば、Google Cloudでも利用できるため、インフラの調達や運用管理の手間も削減できる。その上で無料枠もあり、開発・検証環境の用意も迅速にできると考えた。
実際の検証では、拡張性についても想定通りの性能が得られることを確認。将来的にスケールさせた際のコストについても、十分に予算内に収まると試算できた。これらの結果からStella AIではTiDB Cloudの採用に至ったという。
「MySQLとの互換性の高さは大きなポイントでした。その上でサービス拡大にも十分に対応できるデータベースを選びたいと考えました」と源氏。木本氏も「将来的にサービスが大きく成長した段階で、データベースを入れ替えることは大きな手間になります。そのため、小さく安価に始めるのではなく、最初から大規模なサービスに対応できることが重要な要件でした」と説明する。
MySQLとの高い互換性 運用管理の手間からも解放された
2024年12月にサービス提供を開始したStella AIでは、先述した検証を経てユーザーのアクセスや行動、チャットなどのログ情報の管理にTiDB Cloudを利用している。事前検証時に利用したオンプレミス版のTiDBでは、環境構築に少し苦労もあった一方、本番環境で利用しているTiDB Cloudでは、GUIベースで簡単にセットアップができるため、操作に戸惑うことがなかったと源氏。サービス開発におけるデータベースの設計でも、基本的にMySQLと同様だったため、MySQLの経験があるエンジニアならすぐにTiDBを利用できたという。
もちろん、初めて利用するデータベースだったため、ときには分からない事項も出てくる。たとえば書き込み処理において拡張性を確保するためには、具体的にどのような構成にすれば良いかなどは、ドキュメントを参照することはもちろん、TiDBを提供するPingCAPに問い合わせることで迅速にアドバイスを受けながら解決できたという。
また、TiDB Cloudを導入する際には、蓄積されるログデータを分析・活用するという要件もあった。他データとあわせてBigQueryを用いた分析を実現するため、いかにスムーズなデータ連携を行えばよいのかもPingCAPに相談している。最終的にはTiDBから抽出したデータをオブジェクトストレージ経由でBigQueryに渡すような分析環境を構築。源氏は「分析環境をシンプルなだけでなく、安価に構築できました」と評価する。

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なお、Stella AIはサービス提供から間もないこともあるが、現時点では期待通りの性能を発揮しており、TiDB Cloudの利便性にも問題はないという。当然ながらトラブルも発生していない。さらにTiDB Cloudがマネージドサービスであるため、インフラの管理を日常的に考慮する必要はなく、「データベースの同期、インフラの展開もすべてGUIから設定・管理できるため、運用管理の手間はほとんどかかっていません」と源氏は話す。
SUPERNOVAでは、NTTドコモとの業務提携により、NTTドコモの通信サービス契約者に向けてもStella AIを積極的に展開しており、既に両者は協力して初心者向けの講座や教材提供なども準備しているという。マーケティング活動などでも協力していく見通しがある中、Stella AIのサービスの利用が急拡大することも予測されるため、その際にもTiDB Cloudによる十分な拡張性が発揮されることを期待していると木本氏は話す。
Stella AIに利用しているLLMも日々進化しているため、「新たな技術にできるだけ迅速に追随していきます。検索、エージェント化など、様々な急速な進化を見据えた上でも、データベースの運用や拡張性を気にかける必要がないこともTiDB Cloudのメリットだと感じます」と源氏。Stella AIの進化、サービスの成長を支えるデータベース基盤として、今後もTiDB Cloudに期待がかかる。
