SB OpenAI Japanとクリスタル・インテリジェンスの戦略
2025年2月3日、ソフトバンクグループ 孫正義氏は、OpenAI CEOのサム・アルトマン氏との提携を発表。企業向けAI「クリスタル・インテリジェンス」(Cristal Intelligence)を披露するとともに、AGI(Artificial General Intelligence)の実現に向けた具体的な展望と、日本発のAI革新への期待を語った。
冒頭、孫氏はOpenAIのサム・アルトマン氏との合弁会社設立に関する覚書の調印を報告。新会社「SB OpenAI Japan」は、ソフトバンクグループとOpenAIが50:50で出資する合弁会社として設立される。
「今、世界中の人類が最も注目しているAI、とりわけAGI獲得競争という中で、日本から始まるこのチャンスを、日本の大企業に活かしてほしい」と孫氏は語り、この日を「歴史的な一日」と位置付けた。
AGIの実現時期と企業での展開
孫氏はAGIの実現時期について、これまでの予測を大幅に前倒しする見解を示した。「1年前はAGIは10年以内にやってくると言い、数ヶ月前には、2,3年以内にやってくると訂正したが。今はAGIはそれよりも早くやってくると実感している」と述べた。その全能の知性の象徴として、水晶の玉を手に持ち、「このクリスタルがAGIのイメージだ」とし、クリスタルのスペルは「Cristal」だとし、あえてスペルを変えていることを付け加えた。
「AGIは企業、とりわけ大企業から始まる」と孫氏は予測する。その理由として、企業には「圧倒的大量なデータがある」点を挙げ、「深くて広くてリアルタイムで、しかもその企業特有の、一般のインターネットに流れていないような、個別のデータがふんだんにある」と説明し、この日の参加者である日本の大企業の経営者を鼓舞した。
企業の保有するコードを全読みする
「クリスタル・インテリジェンス」では、企業のシステムのソースコードを全て読み取り、最新言語への変換やバージョンアップを自動的に行う能力や、全ての会議への参加、顧客との交渉支援、コールセンター業務の代行など、幅広い業務での活用が想定されている。また、個別の企業の学習データは、企業の固有の利用にとどめられ、他で活用されることはないと強調した。
具体例として、「例えばソフトバンクグループ、LINEヤフー、ARMの全社で運用している約2,500の基幹システムのデータベースとソースコードを、AIクリスタルが完全に理解し、コードの意図や機能を解析した上で、最新言語への移行とバージョンアップを自動的に実行する」と述べた。これにより、「人手によるプログラミングとバージョンアップの時代は終わった」という見解を示した。
さらに注目すべき点として、孫氏は現在のAI開発の根幹を成す技術に関する重要特許を、10年以上前に取得していたことを明らかにした。具体的には、AIにおける長期記憶技術の基本特許と、生成AIの中核技術である強化学習の報酬(リワード)システムに関する特許を保有している。孫氏自身これに気付いたのは最近のことだとし、「生成AIの基本となる技術の最初の発明者が私だったんです」と述べ、AI技術の発展における自身の先見性を強調した。
孫氏は、OpenAIの収益性を懸念する声に対し、強気な見通しを示した。ソフトバンクグループとの契約だけで年間4500億円の収入が確保され、世界的な大企業10社との同様の契約で4兆5000億円規模に達する可能性を語った。「同様の契約が可能な企業は世界に100社以上存在する」と述べ自信を見せる。
今後、ソフトバンクグループは1000名規模の専門部隊を新設。セールスエンジニアを中心に、企業顧客へのAIシステム導入支援を展開する。
また、日本の通信データに関する法規制への対応として、国内にAI専用データセンター「STARGATE Japan」を設置する計画も明かした。基本開発は米国で行いつつ、トレーニング、ファインチューニング、推論処理のインフラは国内に構築。運用はOpenAIが主導し、ソフトバンクグループが設備面をサポートする体制を整える。
サム・アルトマン「deep research」を発表
続いて登壇した、OpenAIのサム・アルトマンCEOは、最新のAI機能「deep research」を発表した。これはChatGPT上で利用可能な高度な調査支援機能として位置づけられている。
同機能の主な特徴としては、複数のデータソース(テキスト、画像、PDF等)から情報を収集し、それらを統合して包括的なレポートを作成する能力を持つ。従来30分から30日程度かかっていた複雑な調査タスクを数分で処理できるとしている。
アルトマンCEOによると、従来のChatGPTとの大きな違いは、即時の回答ではなく、「優秀な同僚」のように協働しながら必要な情報を段階的に収集・分析していく点にある。 想定される用途として、金融機関での専門的な調査業務や、一般的な製品調査など、幅広い活用シーンがデモにより示された。アルトマンCEOは「これは知識の統合と新しい知見の創出への重要なステップとなる」と述べ、さらなる機能強化も予告している。