脱VMwareに向けたKVMベースの仮想化基盤『Prossione』

「海外のベンダーを否定するわけではないが、日本企業の重要なシステム基盤は、日本国内で日本人の手によって運用されるべきです」──こう語るのは常務執行役員の冨安寛氏だ。
仮想化市場では2023年末のVMware社のBroadcomによる買収が大きな波紋を広げた。ライセンス体系やサポート体制の変化により国内市場に混乱が生じ、多くの企業がVMwareからの移行を検討せざるを得ない状況に直面している。特にクラウド基盤において重要な役割を果たす業界では、脱VMwareは深刻な課題となっているのだ。
この状況に対応するため、NTTデータは2025年7月に独自の仮想化基盤サービス「Prossione Virtualization」(プロッシオーネ バーチャライゼーション)を提供する。採用されるKVM(Kernel-based Virtual Machine)は、ライセンスコストの大幅削減、システム構成の柔軟性・拡張性の高さ、ベンダーロックインからの解放、そしてオープンソースによる技術自律性の確保という特徴を持つオープンソース技術である。

「KVMの採用により情報主権を確保しながら、コストパフォーマンスと運用効率を大幅に向上させる仮想化基盤を提供できます。この新サービスは国内クラウド市場に真の選択肢をもたらすものです」と冨安氏は語っている。
この発言には技術選択を超えた国家的視点が込められており、「システムの主権」と「データの主権」という2つの主権確保が経済安全保障上極めて重要だという認識が表れている。なぜなら、クラウド基盤を支える仮想化技術はITインフラの中核であり、その技術選択は国内企業の自律性に直結するからだ。
同グループの濱野賢一氏によると、現在のVMware利用顧客のうち約4分の1が何らかの形での乗り換えを検討しており、特に「長期間運用する大規模システム」を持つ顧客が積極的だという。「ライセンス体系の変更や運用バージョンアップポリシーの変更といった混乱に巻き込まれたくないというお客様がKVMを検討している」と説明した。
銀行の勘定系システムなど、メインフレームからオープン化を進める動きもKVM採用を後押ししている。濱野氏は「データソブリンティの確保は重要なテーマ。オープンソースを活用することで主権を確保しながら、コスト面でもメリットが得られる」と強調した。
NTTデータ内の環境でもKVMベースで1万台以上の仮想マシンを運用し、金融系システムでの稼働実績も持つ。さらに、オープンソースコミュニティへの積極的な貢献を通じ、技術的自立性の向上にも取り組んでいるという。

2つの主権確保で強化する日本型デジタルインフラの競争力

これまで見てきたように、NTTデータの1.5兆円規模のデータセンター投資戦略は、生成AIやHPC時代に対応したインフラ基盤の刷新と、国内外の技術的・経済的要請への対応を目指す包括的な取り組みである。その全体像からは、いくつかの重要な戦略的柱が浮かび上がる。
第1に、生成AIやHPCの普及に伴う計算リソース需要の急増に対応するため、高性能GPU対応インフラの整備を進めている。高密度化による冷却技術の課題に対し、液冷・水冷技術の導入や再生可能エネルギーの活用により、技術革新と環境責任の両立を実現しているのだ。
第2に、都市部集中型から地方分散型インフラへのシフトを加速させている。これにより災害リスクの低減と地域経済活性化を同時に実現し、データセンターに「信頼性」と「地域性」という付加価値をもたらしているのである。
第3に、グローバル市場ではハイパースケーラーとの戦略的な協業を通じて相乗効果を創出しつつ、国内市場ではデータ主権や信頼性を核とした独自の「国内型クラウド基盤」を展開している。
そして最後に、「データ主権」と「システム主権」の確保という国家戦略的視点を提示している点が極めて重要な特徴だと言えるだろう。
これらの取り組みを総合すると、NTTデータの戦略はグローバル競争力と国内市場特性への対応を両立させる均衡のとれたアプローチと評価できる。だからこそ、その成功は技術や投資規模だけでなく、市場ニーズの的確な把握と持続可能な競争優位性の構築にかかっているといえる。NTTデータの戦略展開が日本のクラウド基盤の国際的地位にどのような影響をもたらすのか、業界全体が注目を寄せている。