ITリーダーは生成AIへの「憧れ症候群」に注意せよ──役割と選択肢が増える中で陥る意思決定の罠とは?
単なる「IT担当者」ではなくなったCIO、“コンポジットモデル”でテクノロジーを組織に実装せよ
CIOの役割が劇的に変化、増える仕事とプレッシャーにどう向き合うか

ジェイ・アップチャーチ(Jay Upchurch)氏
続いて他国のメディアから、「CIOの役割は、ここ数年におけるテクノロジーの進化とともにどう変化しているか」という質問が投げられた。
アップチャーチ氏によれば、変化のスピードという点では特に2020年以降、CIOの役割が劇的に進化したという。
「これまでの長い間、CIOには『部屋で最も賢いIT担当者』であることが求められていました。座って話を聞き、誰かが何か便利なものを欲しがれば、それを作るといった具合に。高品質でできるだけ安く、それでいて長持ちするプロダクトを作るのが、CIOやその傘下にあるIT部門の仕事でした」(アップチャーチ氏)
しかし企業は、製品やサービスにより多くのデジタル要素を取り入れようと模索し、テクノロジーに精通する人材の支援や洞察を求めるようになった。するとCIOは自然と存在感を高め、企業の中核的な役割を担う存在へと進化。社内ITの運営だけでなく、テクノロジーを活用してビジネスにも価値をもたらすリーダーとなった。アップチャーチ氏は、この拡張された役割を「CIO+(Plus)」と呼称する。
「私自身もSASのCIOですが、今や我が社が提供する製品、サービス、そして顧客がそれらをどう使い、どんな体験をし、どんな成果を求めているかまでを把握するようになっています。そして、実際に顧客の支援にも携わっています」(アップチャーチ氏)
ただし、同時にCIOにのしかかるプレッシャーも増した。かつてのCIOにとって大きな課題・挑戦といえば、大規模なERPシステムの入れ替えなどといったプロジェクトが主だったが、今日ではサイバーセキュリティ、データ管理、AIガバナンス、テクノロジートレンドへの対応、さらにはそれらと並行してコスト削減にも務めるなど、常に多方面からの要求に応えなければいけなくなった。
アップチャーチ氏はこの変化を、「試練であると同時に大きな機会でもある」と捉える。自身の経験やキャリアはもちろんのこと、従業員や顧客の働き方・生活を変えることだってできるからだ。組織が最も効率的に動けるシステムや環境を構築したってよい。個人の生産性を向上させる生成AIツールを導入・提供してもよい。少し誇張していえば、テクノロジーを味方につけてCIOがあらゆる変革を起こすことが可能となったのだ。
クラウドやAI活用のトレンドは今後どう動く?
次に、現在のテクノロジートレンドと今後の予想について、他国メディアから質問があった。アップチャーチ氏はまず、AIアシスタントの進化に言及。今は比較的、単純作業やシンプルなやり取りでの活用にとどまっているが、近いうちに長期的な作業を任せられるようになり、最終的には「デジタルエージェント」が人間に代わって仕事をする段階を迎えると予想した。
クラウドサービスを取り巻く動向については、「業界がマネージドホスティングとSaaSの間で振り子のように揺れ続けている」と指摘。現在はセキュリティや自律性の観点から、単一テナントモデルへの揺り戻しが起こっているとのことだ。
データ管理の領域では、企業がクラウド活用による大規模なデータ推進プロジェクトを展開している一方で、実際のビジネス成果を創出することには苦戦しているケースが多く見られるという。これに対しアップチャーチ氏は、データを移動させずにそのまま保持しつつ、ガバナンスとセキュリティを確保し、アプリケーション層で必要な処理を行う方法が今後のカギになると述べた。
また、AIの運用をいかにスケールさせるかというテーマについては、「今後12〜18ヵ月で急速に進展する」との見通しを語った。その具体例として、ServiceNowのようなプラットフォームが、従来のチケット管理を超えてAI駆動の運用モデルへと進化しつつあることを挙げた。
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森 英信(モリ ヒデノブ)
就職情報誌やMac雑誌の編集業務、モバイルコンテンツ制作会社勤務を経て、2005年に編集プロダクション業務とWebシステム開発事業を展開する会社・アンジーを創業した。編集プロダクション業務では、日本語と英語でのテック関連事例や海外スタートアップのインタビュー、イベントレポートなどの企画・取材・執筆・...
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名須川 楓太(編集部)(ナスカワ フウタ)
サイバーセキュリティ、AI、データ関連技術やルールメイキング動向のほか、それらを活用した業務・ビジネスモデル変革に携わる方に向けた情報を発信します。
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